第8話 試験終了

「ったく……模擬戦でそんなにビビってたら早死にするよ?」

「その通りだな……一先ず助かったよ。ありがとう」


 全てのゴブリンが地面に倒れ、エリノアはゴブリンから奪い取った武器を地面へと投げ捨てる。

 エリノアに剣を返し、二見は先ほどの戦いを思い返す。


 エリノアからの援護の後、二見は彼女の剣を手に彼女に群がるゴブリンへと剣を振るった。

 最初はすくんでしまったものの、2回目は上手く身体強化をして相手の攻撃をいなし、反撃する事が出来ていた。


 その時に感じた事なのだが、剣そのものを魔法で強化しようとすると変に魔力の流れが変えられているような感覚があった。恐らくクライドの言っていた補助、というものなのだろう。


 ゴブリン達の死体は徐々に姿が薄れ、彼らが持っていた武器や血痕は跡形もなく消えて行った。

 現代の体験型シミュレーションでもここまでリアルなものはないだろう。少なくとも二見は本気で死の恐怖を抱く事にはなるようなものだった。


「それにしても……フタミの魔法は凄いよ。まるで全く経験の無い魔法の達人……みたいな」

「やっぱ凄いのか?」

「そりゃあね、射出系の魔法であれだけの威力を出せるのは相当な実力者のはず……だから」


 エリノアは相変わらず二見という存在を掴みきれていないようで、どうにも歯切れが悪い。


「ふむ……これで試験は終了だ。結果は別室で発表するので係員の誘導に従って移動してもらおう」

「お二人とも、こちらへどうぞ」


 再びリータの案内で二見達はスタジアムを後にする。


 二見達を見送り、彼らの姿が見えなくなったところでエステルが口を開いた。


「やはりワイバーンを当ててみてもよろしかったのではないでしょうか?」

「確かに興味はある――だがこれはあくまで試験だ。そのことを忘れてはならんぞ」


 トラヴィスは背もたれに体を預け、天井を眺める。


 フタミという少年。彼が今年の受験者の中でも異質な存在であるのは確かだ。

 リータから聞いた話では独創的な演奏をする演奏家で、金稼ぎの手段の一つとして受験したのだろうと聞いていたものの、彼の魔法はただの演奏家で済ませていいレベルのものではない。


 だからと言って実力者なのかと言えばそれは断じてないと言える。

 可能性だけで言えば実力ある者が故意に無能を演じたという事もあるが、そんな事をしたところでメリットはない。


 4人の中で一番若い30歳ほどの男が顎に手を当てつつ、発言する。


「転生というのはどうでしょうか、実際に成功した例は現状確認されてはいませんが」

「ふむ。転生と言うと……」

「彼は過去の力ある魔法使いの生まれ変わりで、転生魔法に失敗し記憶を失った。ただ魔法だけは魂に刻み込まれていたおかげで使えた――という線はどうでしょう」


 彼の意見に皆が納得の色を見せる。

 この世界でも様々な形で死を乗り越えようとする研究がされている。自ら作り出したもう一つの肉体に魂を移し替えたり、強力な魔法で不老不死を目指す等、その方法は様々だ。


 その中でも今一番成功する可能性が高いと言われているのが転生だ。

 とは言っても転生先が見つかるまで自分の魂を維持し続ける必要があり、さらには生前の体と同じような魔力体質でなくてはならず、元々その身に宿った魂を上書きしなければならない。

 倫理的な問題もあり、問題視されている研究の一つだ。


「名前からして恐らくヤマト国の者だろう。転生者の可能性が出た以上……上への報告は慎重にせねばならんな」


 トラヴィス達が当たらずとも遠からずな予想を立てている事をまだ二見は知らない。


 そんな二見は試験結果を会議室で他の受験者と共に待っていた――のだが。


「悪かった! お前がそんな実力者だったとは!」

「いや、そんな実際素人だしさ。俺も意識を改めないとって気付けたわけだし」

「いいや、不必要なものというものだってある! 常識に囚われすぎていた俺を許してくれ!」


 いつの間にか大斧の男が二見に猛烈に謝罪する場となっていた。


 彼の名前はベン。クライドにも注意されたのだろう。最初はふてぶてしい態度を取っていたものの、それが気になったのかエリノアが二見の魔法の威力を話すと、血相を変えて謝罪が始まったのだ。

 エリノアは二見が戦いに慣れていない点も話したのだが、恐らくこの様子ではその部分は聞こえていないように思える。


「よくパーティー組めてるな……」

「はは、まぁベンも実力は確かだからね。 人付き合い的な部分では苦労させられるけど」


 クライドやベンは彼らを含めた男4人で試験を受けに来たらしく、3人がベンの手綱を握っているのだろう。


「しかし変わってるね、強力な魔法を使えるのに戦い方は素人って。もし受かってるなら誰かと組んだ方が良いと思うよ」

「パーティーってやつか、クライドのところに入れてもらうのは――」

「クランって形でならいいけれども、1パーティー5人はちょっと多すぎるから……ごめんよ」


 パーティーの人数が増えればその分報酬が減り、行動方針にも影響が出るだろう。

 もしもこれが体育の授業であれば適当に声をかけるところではあるが、パーティーというのは命を預け合う関係だ。そう易々と声をかけるわけにもいかない。


「うーん……仕方ないか、両方受かったら私と組む?」


 エリノアから二見へと提案される。


 男女混合のパーティーというのは珍しいものではない。しかし、仕事が上位のもになれば野営という事も増えてくる。

 やはりというべきか、とある問題もついて回る話だ。もっとも、そんな問題を起こすような事があってはいけないのだが。


 出来る事なら断った方がいいのだろう。しかし、他に二見と組んでくれそうな人に心当たりもない。


「エリノアがいいなら。戦い方も教えてもらっていいかな?」

「勿論。師匠の受け売りになっちゃうけどね」


 これも受かっていれば、の話なのだが。

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