第6話 冒険者試験
二見は普段着のまま冒険者試験の開始を待っていた。
試験は短い間隔で行われているようだが、意外にも受験者の数は20人前後とそれなりの人数が集まっていた。
それぞれが自分の得物を持っているようで、防具もキチンとつけている中で二見は完全に浮いていた。
更にはそれぞれ友人同士で一緒に試験に受けに来たのだろう。いくつかのグループで固まって談笑しており、居場所に困った二見は隅の方で小さくなってジュースを飲んでいた。
「まさかあんた、その格好で冒険者に?」
「あぁ、一応」
同じくらいかやや年上といったところだろうか、談笑していたグループの中の一人が二見の向かい側へ座る。
得物は背負っている大きな斧のようで、革で覆われているもののその迫力に思わずすくんでしまいそうになる。
「見たところ鍛えてるってワケでもなさそうだし、魔法使いって見た目でもない……悪い事は言わねえ、やめとけ」
「魔法使いらしい恰好をしていた方がやっぱりいいんですかね……」
男はむせたように咳き込み、半笑いの顔で二見を見る。
「いいも何も……あんたのその服にマナ吸収の繊維は使われてんのか? 俺がまだまだ未熟なだけかもしれないが、お前のその服にそれが使われてるようには見えねえ。その服でも自信があって試験に受かるにはその格好でもいいかもしれないが、常識ってもんも考えた方がいいと思うぜ」
半笑いなところにイラつきを覚える二見だったが、彼の言っている事は間違っていないのだろう。
実際、買い揃えるべき武器や防具はあったはずだ。しかし、一昨日に続いて昨日も自分の魔法に舞い上がって街の外でずっと魔法をぶっ放していた二見は苦笑いを浮かべる事しかできない。
「みなさん、お待たせしました!」
カウンターからリータの声が酒場の中に響く。
大斧の男は席を立ち、またグループの方へと戻って行った。
リータが簡単な挨拶をし、受験者達を奥の会議室へと案内する。
どうやらまず最初に行われるのは筆記試験のようで、それぞれに問題用紙が手渡される。
筆記試験の内容だが、簡単な国語のテストと算数のテストのような内容で、小学生でも解けるような内容の物ばかりだ。
その後の面接試験も簡単な質疑応答と雑談をする程度のもので、大学受験の面接練習よりも非常に軽い印象を受けた。
後に分かった事だがこの世界では識字率が前の世界よりも低く、依頼書を読むことが出来るかという点を重視した試験なのだそうだ。
後の面接試験でコミュニケーション能力を判断し、そのどちらもが基準以下だった場合に不合格となるらしい。
「さて、最後は実技試験の方へと移ります。番号を呼ばれた方は係員の指示に従ってくださいね」
ついに実技試験だ。筆記と面接は簡単な内容だった事もあってか、試験開始からまだ1時間ほどしか経っていない。
試験は2~3人のグループで呼ばれ、別室で行われる形となっている。
「やあ、ちょっといいかな?」
順番を待つ二見に、青いローブを纏った青年が声をかけた。
「構わないですよ。何か?」
「いや、試験の前に俺の連れが失礼なことをしてしまったようでね。その謝罪をと」
彼は大斧の男とは対照的に落ち着いた雰囲気で、少し話をしてみると何か考え込むように顎に手を当てて俯いていた。
「何か変な事言いましたか?」
「いや、何でもないさ。そういえば自己紹介がまだだったね。俺の名前はクライドだ」
「俺は――」
「フタミだろ? 酒場で珍しい楽器で演奏してる」
「もしかして聴いてもらってました?」
「あぁ。投げ銭も一応したんだけどね」
「マジか……覚えてなくて申し訳ありません」
「はは、そんなもんだよ。あとタメでいいよ、というより……冒険者間ではタメ口の方がいいって話もあるし」
二見とクライドの会話は膨らみ、その過程で装備の重要性について教えてもらえる事が出来た。
結論から言えば装備は無くても問題はない。それどころか何もつけていない状態が一番自分の魔法の力を発揮出来ると言われている。
しかし、それは自分の力だけでマナの吸収や魔力を完璧に魔法として発現させられた時の話であって、基本的にはそれが出来ない事が普通なのだそうだ。
その為に身に着ける防具、これにそれらの補助をする繊維や鉱石を使用する事で基礎的な防御や攻撃面を強化しつつ、魔法の補助を受けられるという点から武装しないという選択肢は余程の事がない限りは無い。
「まあ、ごく一部の人ではあるけど……魔法の補助のそれが邪魔だとか、防具のせいで動きづらくなるからって人もいるにはいるけどね」
「なるほどな……」
ゲームでも上手い人は逆に防具を脱ぐ、というものがあるがそれと似たようなものが実際あるようだ。
「っと、俺の番だ。行ってくるよ」
「おう、頑張れよ」
二見とクライドは握手をし、クライドは試験へと向かった。
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