第11話
ジミルは親切で、リンゼに一時間だけ眠る時間を与えてくれた。
一時間でも十分に休めた若いリンゼは、少しだけ正気になり、二人は王宮の中にある臣下専用の食堂で夕食を取ることにした。
「君、何か悩んでいるの?」
ジミルは羊肉を切り分けながら、リンゼに尋ねた。
リンゼは最初はこの事に関係無いジミルに相談するのを躊躇ったが「実は」とエイミーを取り巻いている事件について、話した。
ジミルは黙って聞いていて、それから「驚いた」と世話しなく動かしていたフォークを止めた。
「君は、エイミー王女が好きなのか」
「そっちは、どうでも良くて。ユリア王妃の事が本題なんだけど?」
「君は変わっているね。あんな少年の様な色気の無い王女の何処が良いんだい? シャルロッテ王女達の方が100倍魅力的なのに」
ジミルはエイミーの美しい姉達にいつも視線を奪われていた。
女性らしく華やかな姉達と、眼鏡に髪の毛をひっつめて侍女よりも地味なエイミー。
「君は検察官なのに、真実も分からないのか。姫様の清廉さと気品は内面から滲み出ている。それに実は胸が大きくて、それを他人に見せるのが恥ずかしくてワザとコルセットで一生懸命隠している、健気な人なんだ!」
「……君って、淡泊そうに見えて「言うな、僕はエイミー様をただお守りしたいだけなんだ」」
「……そういう照れ隠しは良いよ。好きなんだろう? だから、ルイス王子との縁談も止めたい」
「………………その通りです」
急に素直になったリンゼに、ジミルはブハッと笑った。
「ああ、君ってば本当に面白い奴だ。でも、今回の件を潰すのはかなり難しいな。国内の貴族との縁談とは訳が違う。一歩間違えると、戦になる案件だ」
「それに、一番大事な事が分からない」
「なんだ?」
「姫様の気持ちだ」
「ああ! そうだね、ルイス王子は非の打ち所がない男だから、エイミー王女もまんざらでは無いかもな」
「……」
「ほらほら、落ち込むな。そうだな。しがない検察官の僕にはこの縁談を潰す手助けは出来ないけれど、せめて、エイミー王女のお心くらいは調べてあげようか?」
「え!……いや、無理だ。姫様は殿方に会うのを禁止されているんだ」
「……僕の姉のジルフィーヌを知っているかい?」
「知らない」
「ブハっ! お前~! 姉はずっと前から花嫁修業の一環でエイミー様のお付き侍女をしているんだぞ?」
「!?」
「エイミー様に直接アポイントメント出来なくても、姉を通して、気持ちを聞いてあげよう」
「…………え」
「そうすれば、エイミー様のお気持ちも分かる」
「でも、君の姉上に申し訳ない」
「大丈夫、大丈夫! あの人は恋愛事が大好きだから。それに結婚式まであと半年しか無いんだ。動くなら急いだ方が良い。どうせエイミー様が君に気持ちが無くても君が振られても、二度と会えない関係なんだから、どうって事ないよ」
リンゼは二度と会えない関係という言葉に胸が引っかかり、恥を忍んでジミルにお願いをする事にした。
すると、話は思わぬ方向へと転がった。
ジミルの姉のジルフィーヌは、エイミーとリンゼの親密な関係を知っていた。
何を隠そう、あのお見合いの日。
眼鏡が無くて道を歩けないエイミーに急いで眼鏡を持って来た金髪の侍女こそが、ジルフィーヌだったのだから。
女の勘で、二人の間には何かある、とジルフィーヌは思っていた。
そこに、弟からエイミーがリンゼの事をどう思っているのか聞いて欲しいなどと言われれば、恋愛事が大好きなジルフィーヌはこのロマンティックな展開に共感し、私が二人のキューピッドにならなければ! と一人で盛り上がったのだ。
「ああ、どうにかして二人を逢わせてあげたいわ。どうしましょう……」
エイミーは今、東の塔に幽閉に近い形で過ごしている。
この東の塔の入口にはたくさんの衛兵が居て、用事があって塔を出る時もたくさんの侍女と衛兵がエイミーを見張っていた。
だが、逆の発想をすれば。
東の塔の中は、さほど監視の目が無く、エイミーの部屋まで来ると、もうジルフィーヌと数名ほどの侍女しか居なかったのだ。
つまり、リンゼをどうにかして、東の塔へと入れてしまえば良いのだ。
後は、ジルフィーヌ一人で何とかなる。
ジルフィーヌが考えたと言うか、不貞を働く貴族達の
早速、それを弟に提案しジミルはその安直な手段に渋るが、姉がやけに必死なのと、報われないリンゼが少し可哀想だと同情し、その手段をリンゼに告げた。
リンゼは口では「そこまでしなくても……」と言いながらも、実の所会いたい気持ちが強く、「恋愛は人を愚かにさせる」とブツブツ言いながらも籠に入り、まんまとジルフィーヌの作戦に乗っかったのだった。
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