第12話
その日はエイミーの16歳の誕生日だった。
エイミーは半年前から城の後宮から、東の塔へと居住区を移動させられ、幽閉に近い形で過ごしていた。
とは言っても、お付きの衛兵と侍女が居れば、女性のみの後宮ならば自由に行き来が出来て、長年作ってきたエイミーの庭の手入れにも行く事が出来た。
だが、男性の居る場所には行く事が禁じられ(ちなみに衛兵も女性)、図書館は出入り禁止になっていたが、侍女たちにリクエストをすれば、彼女たちが図書館から本を大量に持ってきてくれる仕組みになっていたのだ。
例外で会える男性は二人だけ。
父親の国王と、婚約者のルイス王子のみ。
エイミーは本棚から本を一冊、引き抜く。それはガーデニングの本で、その本の間には萎れた白い花の押し花が
(リンゼ……)
エイミーは本を抱き締め、この本の持ち主の事を想う。
赤味を帯びた黒髪の青年。
ちょっと不思議で、でも真っ直ぐで優しい人。
会いたい……。
コンコン、と部屋をノックする音がして、我に返るエイミー。
おずおずと、侍女のジルフィーヌが入って来た。
「エイミー様、頼まれてた本を持って参りました」
「え? ええ。ありがとう……」
――こんな夜更けに?
エイミーは思わず窓の外を見た。
いつもならば、リクエストした本は早朝か昼間に持ってくるのに。
女性の衛兵が、二人がかりで大きな籠をエイミーのベッドの前に置いた。
「それでは、ごゆっくり」
そう言うと、ジルフィーヌは何か意味深な笑みを浮かべ、それから扉を閉じた。
「……こんなに本を頼んだかしら」
思った以上に大きな籠に首を傾げるエイミー。籠の蓋に手を掛けようとした時、籠がガタリと動いた。
「!?」
ガタガタと自立して動く籠に身を強張らせるエイミー。
そして、ガタッと音を立てて、蓋は開き、中から赤味を帯びた黒髪を持つ青年が出て来たのだった。
「!!」
「…………あ」
驚きのあまり、口元を手で覆い信じられないものを見て居る様子のエイミー。
リンゼは情けない登場の仕方にちょっと照れながらも、一日中シミュレーションしていた言葉を言った。
「お誕生日おめでとうございます」
籠から出て来たリンゼが、此処に来た経緯など全てをぶっ飛ばして、そんな事を言うから、エイミーは思わず吹き出して笑ってしまった。
相変わらずの不思議っぷり。
やはり、いくつになってもリンゼはリンゼだ。
笑うエイミーをリンゼは照れながらも、じっと優しく見つめていた。
「……ありがとう。最高のプレゼントだわ!」
その言葉に、自分がプレゼントになってしまったとその時になって気が付いたリンゼ。
ジルフィーヌのおせっかいが生んだ奇跡だった。
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