第8話
噂通り、ルイス王子は完璧な男だった。
プラチナブロンドの髪に透き通る湖の様な青い瞳。
端正で精悍な男らしい顔立ち。
男らしい体躯。
銀色のプレートに赤いマントを羽織り、エイミーに大きな手を開き、握手を求めた。
おずおずと応じると、しっかと手を握られた。
「初めまして。ルイス・フェンヌ・ハンナ三世です!」
気怠い喋り方をするリンゼとは大違いだ。
「は、初めまして。エイミー・サウラ・イギルです」
「なんて美しい姫なんだ! これは国王が自慢したくなる気持ちも分かりますね!」
と、玉座に座る国王に答えるルイス王子。
それを聞いて、国王は満足そうに頷いた。
「それでは、エイミー。案内をお願いしますね」
王妃のユリアがいつもよりも一オクターブ高い声で、エイミーに言った。
「は、はい!」
エイミーは緊張しながら、王子を案内し始めた。先ずはイギルの国宝を飾る展覧室へと案内した。
ぎこちないながらも視界が見えるだけで、さっきよりは自信を持って行動出来る事が心強かった。
しかし、エイミーが歴史の深い展示物を一生懸命に説明しているのに、ルイス王子は展示物よりも、エイミーばかりをじろじろと見つめていた。
その熱い視線に、エイミーは心当たりがあったため、プツッと説明していた言葉が途切れ、みるみると顔色を青くした。
「……あ、あの……! もしかして、私は何か粗相を働きましたか?」
「え?」
「申し訳ありません! 私、こういった事が不慣れで……」
「私はそんな事を思っていないよ。一体、どうしてそう思ったんだい?」
「あ、そ、それは……私の説明がつまらないのかと思って……」
ルイス王子は自信なさげに呟くエイミーに目を丸くし、それから笑った。
「はは、すまない。私も明け透け過ぎた。そう、私は君の事ばかり見ていて、説明をしっかりと聞いていなかった!」
その素直過ぎる言葉に、エイミーは失敗したと絶望し、膝がブルブルと震え出した。
「す、すみません。やっぱりつまらなくて……」
「違うよ。貴女が魅力的過ぎて、貴女を見ていたかったんです」
「……えっ」
その瞬間、エイミーは手を握られた。
「美しい。こんなに美しい女性は見た事が無い」
「え?」
ルイス王子は突然、エイミーの眼鏡を外した。
「やはり、素顔はもっと美しい。私の妃にぴったりだ」
ぼやける視界の中、鮮明に聞こえてきたのは「妃」という言葉。
「どうせバレてしまうのだから、今お伝えしますね。実は今日の視察は貴女と私のお見合いなんです」
「……え……ええっ?!」
「私は貴女を妃にしたい。ぜひ、話を進めたいと思っています」
エイミーは呆然とし、それからハッとした。
「しかし! 貴方はハンナ国の王位継承者。そして私はこの国の王位継承者です。結婚は出来ません」
ルイスはハハッと乾いた笑いと浮かべて、
「貴女はもう王位継承者では無くなるのですよ。この国は貴女の姉君がお継ぎになるそうですよ」
「…………え」
「そして、貴女は私の国へ嫁いで貰います」
ルイス王子から告げられた真実に、エイミーは底知れぬ衝撃を受け、幼少から女王になるために築いて来た努力が一気に崩れる音がした。
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