第10話 ★第三者視点。メイド・カエデの視点1

 私がエカテリーナ様がお生まれになってすぐに専属のお付きになり、早19年が過ぎた。


 おひいさまが嫁いだのは西の辺境アールヴォスト国。その中でも旅の商人たちから聞くところによると、魔物との戦いに疲弊する最近落ち目だとみなされているこのミッドオチュー侯爵家だった。


 嫁いでから2年。おひいさまは、子を宿し、無事に出産した。

 なんと、男児だった!!


 ほまれある太古から連綿と続く始祖エルフの血を濃く受け継ぐエルフ族の希望である御子みこだ。


 しかし、この辺境国では女性の出身家の家柄はさほど重要視されず、持参金の多寡によって複数いる妻の序列は決まった。


 この国の風習に疎い私が気付いたときには、持参金代わりとして持ち込んだ世界樹の枝や葉などの、中央諸国では大金に化けるであろう品が、ただのガラクタとして扱われて売り払われた後だった。


 後悔してもしきれない。


 まさか、辺境の人間はここまで学がなく、粗野でどうしようもないくらいの野蛮人だと理解出来ていなかったのだ。


 それからのおひいさまの扱いはひどかった。


 持参金を用意できない貴族の娘は粗略に扱われる。


 おひいさまが受ける数多あまたのひどい仕打ちを目前にした私は何度、このミッドオチュー侯爵家の全てを灰塵と化しようとしたことか。


 しかし、慈愛に満ちたおひいさまは、それを良しとはしなかった。


 そして、ご懐妊。ご出産・・・。


 生国であれば生誕日が国民の祝日になってもおかしくないくらいに喜ばれるであろう、始祖エルフの血を強く受け継ぐであろう男子。しかし、この知識が意味をなさない辺境国では、現侯爵の子供ではあるが、領地の人間の誰にも望まれていない子供として生を受けた。


 出産から数日。


 侯爵家のメイドたちからの妨害を受けて、お付きであるはずの筆頭メイドである私は、侯爵家の政治工作に巻き込まれて、おひいさまのそばに近寄れない状態にあった。


 もちろん、スキルによっておひいさまとその近くにいる御子みこさまの安全は常に確認していた。


 けれども、自分の目でもって彼女たち家族の安全を確認出来ることはまた別だ。


 侯爵家のメイドに案内された部屋は、ろくな装飾や草花、照明などが存在しないひどくさもしい一室だった。


 私は部屋の中央にあるベビーベッドに存在する光の塊を目にして、神に感謝すると同時に呪った。


 私の目前ですやすやと眠る男児は、エルフが長年その解明を目指していた『魔力の根源』とかすかではあるが繋がっているであろう魔導の逸材であったのだ!


 そして同時に、堕ちた神の気配を漂わせる不吉な存在でもあったのだ。


 どうしたらいいのだろう?


 私は、生まれて初めてエルフの始祖である神に対して心からの祈りをささげた。


 おひいさまと御子に平穏を・・・。と。

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