第3話 なんかおかしいぞ?

 目を覚ますと、視界に広がるのは木目の天井だった。


『知らない天井だな』と以前から言ってみたいと思っていたセリフを口にしようとする。


「バブー」


 ん?


 どこかに赤ん坊でもいるのだろうか?


 しかし、なにやら近くから聞こえてきたような。


 俺は声の主であろう赤ん坊を探そうと周囲を見回す。


 見回す・・・。


 みまわ・・・


 って、首が動かねーー!!


 なんだ!?


 ここは病院で俺は交通事故にでも遭って、首がギブスで固定されているとかの状況なのか!?


 体が動かないので、とりあえず看護師さんを呼ぼうと俺は大声を出す。


「ダーー!!」


 ん?

 流石におかしいだろ。

 俺は現状を認識するために、ゆっくりと手を動かして自分の視界に入るようにした。


 やってきました。我がおてて。


 はい。

 ありがとうございました。

 どう見ても赤ん坊の手です。


 ・・・・・。

 ・・・・。

 ・・・。

 ・・。

 ・。


 俺よ。

 落ち着け。


 有名なバスケットボール漫画でも言っていたではないか『まだ慌てるような時間じゃない』と。


 いや。

 ねーよ!!


 なんで自分の手がこんなに真ん丸な、ふっくら、ぷにっぷにの健康的な手になってるんだ!


 俺の手は、長年のアルコール過剰摂取と加齢によって、40歳目前にしてハリが無くなり、しわっぽいのが浮かび始めた、しなびたババァのおっぱいのような手だったはず!


 俺は自分の手に誇りを持っていた。


 市民が出したゴミの回収を仕事としていたので、時にはゴミに出された剪定せんていされた木の枝にあったトゲに刺されて血を流し。時に、割れたガラス瓶のとがった部分によってざっくりと割れた荒れた手だった。


 しかし、一生懸命仕事をした自慢の手だった。


 ・・・。そしてなにより、あまたの風俗嬢をアンアン言わせてきた自慢の手だった!!

「ごつごつしていて気持ちいぃ!」と喜ばれていたのだ!(営業トーク)


 俺は自分の手らしい、ぷにぷにふっくらを目の前に考える。


 もしや、これは?


 と。


 俺は死んだんじゃないか?


 普段の生活を思い返す。


 健康なんてくそくらえ。を地でいくようなお酒を浴びる毎日だったし、健康診断も若い時はオールAで健康優良児だったけれども、最近は、脂質だの、尿酸値だのでひっかかっていた。

 母方のばーちゃんは心臓の発作で死んだし。父方の叔父も心筋梗塞をやっていたはず・・・。


 ぷにぷにの手をにぎっては開いてを繰り返す。

 指を一本一本動かそうとするがそこまでの精密操作は出来ないらしい。


 けれども、自分の思ったままに動く。


 やっぱりこれは俺の手だ。


 ああ、俺は死んだんだ。


 そして、赤ん坊として生まれ変わったんだ。

 ストンとその認識が俺の中に広がっていく。


 親父を仏式の葬式で送ったが、まさ輪廻転生があるとは・・・。


 ・・・。

 ・・。

 ・。


 ひゃっほーーい!!!


 これってあれじゃないか!?


 前世の知識を持ったまま、新しい人生を歩む。

 強くてニューゲーム!?


 やったわ。

 もう人生勝ったわ。

 大勝利!!


 あー、困ったはー。

 俺ツエーしちゃうわー。

 世界救っちゃうかもなーーー!


 そんなことを考えながら、ニッコニコで自分の今世について考えていたら、自分以外の声が俺の耳に届いた。


「やはり、混じり物でしたか・・・。お屋形様が気づく前に処分しておかねば・・・」


 俺の視界に映ったのは、絶対零度の視線を持った、メイド服の女だった。

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