第十九話  判別

 天歴一五九二年の初春しょしゅん。俺とグレイが仙術の修行を始めて半年が経った。俺達は半年の間に闘気オーラを発現できるようになり、基礎フォームを習得していた。


「まさか、二人の資質がこれ程までにずば抜けていたとは……」


「あぁ、驚き過ぎて言葉では言い表せないな」


 本来、基礎フォームの習得には一年以上を費やすみたいだ。ところが俺とグレイの才能と成長速度は、佐吉さんと喜之助さん曰く、恐ろしい程に『ずば抜けている』との事らしい。これは嬉しい誤算だ。やっと戦で活躍できる日が見えてきたぞ。


「次はどんな修行をするんですか?」


 俺もグレイも自分の力が着実に上がっているのは自覚している。次がどんな修行なのか、楽しみで仕方なかった。


「二人とも。基礎フォームの修行は合格だ。これからは流儀スタイルの修行に入るぞ!」


 すると佐吉さんが修行の次の段階、すなわち流儀スタイルの習得に言及してきた。何やら頬が緩んでいる。まるで何か楽しみがあるような様子だった。一体、何だろうと思っていると、突然、『いびつな棒』を取り出した。それは何の変哲もない棒だった。こんな物で何をするんだ。そう思いながら、目をパチクリさせた。


「今から『棒調術バーサーチ』を行う。この棒で流儀スタイルの系統を調べる。やり方は単純明快。闘気オーラを発したまま、これを思いっきり振るだけだ」


 流儀スタイルの系統……。あっ、そう言えば、六つに分類されるって言ってたな。そんな単純な方法で分かるんだ。俺はまじまじと棒を見つめるが、修行内容と趣旨が思いつかなかった。グレイも同じなのか、顎に手をやって考え込んでいた。


「どうやら二人ともピンと来てないみたいだな。佐吉よ。百聞は一見に如かず。まずは手本を見せてやったらどうだ?」


 俺達が疑問符を浮かべて言葉が出ない様子を見て、喜之助さんは手本を見せるように言った。そうだな、まずは何をするかを確認しないと……。そう思って、俺が目を大きく開くと、佐吉さんは闘気オーラを発現し、『いびつな棒』を思いっきり振った。


「……えっ、形が、どうして?」


 すると『いびつな棒』は、まっすぐに変化した。


「私は『変幻流儀スキルスタイル』の仙術使いだ。これは物質の形や性質を変化させる効果を持つんだ」


 すっげぇ汎用性ほんようせいだな。これなら武器も量産し放題だ。俺とグレイは目を丸くしながら、改めて仙術の驚異的な力を実感した。


「ただし、この流儀スタイルは、あくまでも形と性質を変えるだけで、違う物質に変える事はできない。例えるなら紙で武器を作る事はできても、それは紙でしかないため火に弱い。また同じ流儀スタイルでもできる事には個人差があるし、他の流儀スタイルにも長所と短所があるから覚えておくと良いぞ」


 そう思っていると、喜之助さんが一つだけ解説を付け加えてきた。どうやら全ての流儀スタイルには個性と弱点があるようだ。そうだよな……。何でもできたら、無敵だもんな。


「そろそろ流儀スタイルを調べても良いですか?」


 一通り説明を終えた所で、俺とグレイは棒に手を伸ばした。自分の流儀スタイルを知るのって楽しみだ。ワクワクする。


「そうだな。ならば、グレイの流儀スタイルだけ調べるぞ」


 そう思っていると、佐吉さんはグレイにだけ流儀スタイルを調べると言い出した。えっ、どうして……。何で……。俺は佐吉さんの言葉に驚き、自分のは調べないのかと確かめた。


「いや、クリフ殿。お主は修行をやらなくて良い!」


 すると喜之助さんが手を掴んできた。何でだよ。どうして……。俺は不満を露わにし、掴まれた手を振りほどく。


「佐吉さん、喜之助さん。何で修行をやらなくて良いんですか? ちゃんと理由を話して下さい!」


 そして修行をさせろと言わんばかりに、俺は闘気オーラを発現させた。多分、目は釣り上がっているだろう。でもグレイだけに棒調術バーサーチさせるなんて納得できる訳ない。


「クリフよ。お前の流儀スタイルは、いずれ分かる時が来る。今は戦闘力と基礎フォームを徹底的に鍛えるんだ。そうすれば、戦場で活躍できる優秀な武将になれる。分かったな!」


 しかし俺の訴えは退けられた。戦闘力と基礎フォームだけ鍛えて何になる。このままだとグレイとの差が広がるじゃないか。


「クリフ殿。佐吉は意地悪で言っているんじゃない。ちゃんと考えがあ――」


「もう良いです!」


 言い訳なんか聞きたくない。俺はいじけるように座り込んだ。佐吉さんと喜之助さんは両手を広げ、どうしたもんかと顔を見合わせていたけど、それなら理由くらい教えてくれても良いだろ。


「それではグレイよ。クリフの事は気にせず、お前の流儀スタイルを調べよう。しっかり闘気オーラを出せよ!」


「はい、分かりました!」


 そんな俺を気にも留める事なく、佐吉さんはグレイに仙術の指導を始めた。チクショー、何で自分は教えてもらえないんだ。何か理由でもあるのか。意味わかんねぇよ。俺は膨れ顔をしながら胡坐をかき、親友の修行を見守る事しかできなかった。


 その後、グレイの流儀スタイルの系統が『複合流儀ミックススタイル』と判明した。それは複数の物を組み合わせ、別の物に作り変える事ができる効果を持つ仙術だった。刀を銃を組み合わせて『銃刀』を作り出したり、自分の体と無機物を一体化させたりできるらしい。でもそんな事はどうでも良い……。そう思いながら、俺は遠くで親友の修行を眺め、羨望せんぼうと怒りの感情を燃え上がらせていた。


 そして一通りグレイへの指導を終えると、佐吉さんと喜之助さんは道場から去っていくのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る