第七話 激闘
俺の軽率な行動で戦が始まってしまい、不本意ながらも但馬家を窮地に追いやってしまった。しかし無意識に放った
「……豊国殿、取引とは何ですか? 勝手な真似は控えて下され!」
「そうですよ。こんな幼い子に取引を持ちかけるなんて、大人気ないです。クリフ、相手にしなくても良いわよ!」
先程まで怯えていたのが嘘のように、隆義様とスミコは取引を打ち切ろうとしていた。当然、俺も真意が分からない。応じるつもりはない。
「但馬家の弟と
すると再び秀明から威圧的な
「これで邪魔は入らんな。フォフォフォ」
この取引に但馬家の命運が懸かっている。高笑いする秀明を見ながら、俺は心底そう思った。でも大丈夫なのか。体がこわばる。やばいくらい足が竦んでいる。
「そ、それで取引とは何ですか?」
明らかに声も震えていた。でも臆する訳にはいかない。俺は勇気を振り絞って取引に応じる姿勢を見せた。
「フォフォフォ。ワシと勇敢に向き合うとは見事じゃな。それで取引じゃが、それはただ一つ。豊国家の小姓と戦う事だ。貴様が勝ったら、敗北を認めて撤退しよう!」
豊国家の小姓と戦うだと……。それが取引なのか。どういう事なんだ。意味が分からないぞ。でも勝てば撤退するんなら、絶対に勝ってやる。俺は取引に受けて立つと頷いた。
「おい、グレイや!」
「お呼びでしょうか?」
すると俺と同じ年頃の『グレイ』という少年が現れた。栗色の髪に
「フォフォフォ。敵を見くびるとは愚か者のする事じゃぞ。グレイに負けて『世界の広さ』を知ると良い!」
しかし俺の考えていた事は顔に出ていたのか、秀明がズバリと言い当ててきた。何で俺の心が読めるんだよ。つーか、愚か者だと……。フザけた事を言いやがって……。
「だったらその言葉、そっくりそのまま返してあげますよ!」
コイツに勝って目に物を見せてやる。俺は声高に言いながら一直線に走り出し、左拳から炎を発した。
「
そして勢いよく、ボォーと唸る炎を放った。これは俺の代名詞的な技。避けれるものなら避けてみろ。そう言わんばかりの渾身の一撃だった。
「おっと、危ないね。不意打ちなんて卑怯だよ?」
ところがこの技をグレイは余裕で避けてみせた。それどころか蹴りで応戦してきた。しかも俺の攻撃を不意打ちじみた卑怯と罵りながら……。
「卑怯だと? 先手必勝と言ってくれないか?」
ムカつく奴だ。こんな皮肉じみた奴に負けたくねぇ。俺は負けじと即座にガードし、今度は右手で炎を放った。あの顔面に一発ブチかましてやる。
「クリフ、このままじゃ負けるわよ。冷静になりなさい」
そこへ戦況を見つめるスミコの声が聞こえてきた。なに言ってるか分かんねぇよ。頭に血が昇ってんだ。コイツらは俺の馬鹿にし、偉そうに取引まで持ちかけてきた。目の前の奴は皮肉りやがる。これ以上は我慢できねぇよ。
「
俺は感情のままに動いていた。戦況がどうなっているのかも分からない。周りの声も聞こえない。ただ分かるのは、自分の攻撃が空を切っている事だけだ。クソッ、何で当たらないんだよ。
「ふーん。やっぱり短気で猪突猛進。『
炎帝、天洋族。何だ、それは……。何かの種族名みたいだけど、そのスカした顔。気に入らねぇな。
「
自分でも苛立っているのは分かる。おそらく顔も
「君ってホントに馬鹿なんだね。そんな力任せに攻撃すれば、誰だって動きを読めるよ!」
全く攻撃が当たらない俺に対し、グレイはここぞとばかりに皮肉を飛ばしてきた。この期に及んでまだ言うか。
「……逃げ回っているお前に言われたくねぇ!」
もう我慢ならねぇ。俺は最大火力で烏丸広場を火災現場に変え、炎の中に姿をくらました。
「……チッ、怒りと力に溺れた単純な奴め。見境なく焼き尽くす気か?」
炎に紛れると、俺はすぐにグレイを見つけた。どうやら逃げ道を探してるみたいだな。でも逃さねえぞ。
「隙あり!」
俺は狙いすましたように炎の中から現れ、渾身の一撃を放った。この戦闘での初めてのクリーンヒットだ。腹に当たって少しは効いただろ。
「ガハッ……。ど、どうやって攻撃を?」
不意を突かれたグレイは戸惑っていた。当然だよな。これはついさっき思い付いた攻撃方法だ。教える訳ねえ。そう思いながら、俺は再び炎の中へ身を隠した。
「……どうやら自分の能力を上手く使ってるんだね。どうやら見くびり過ぎたみたいだね。なら僕も本気を出すよ」
するとグレイの目つきが変わった。何をする気だと思った矢先、俺は目を疑った。な、何だ、あの姿……。青い炎の鳥か……。
「僕は『
負けた事がないだって……。それなら絶対に勝ちたい。俺は本領を発揮したグレイに勝ちたいと本気に思い、頭がスッキリした感じがした。ここから本当の激闘が始まるのであった。
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