第七話   激闘

 俺の軽率な行動で戦が始まってしまい、不本意ながらも但馬家を窮地に追いやってしまった。しかし無意識に放った闘気オーラで格上の勝忠を倒し、戦の流れを変えた。それが評価されたのか、敵の総大将に取引を持ちかけられた。


「……豊国殿、取引とは何ですか? 勝手な真似は控えて下され!」


「そうですよ。こんな幼い子に取引を持ちかけるなんて、大人気ないです。クリフ、相手にしなくても良いわよ!」


 先程まで怯えていたのが嘘のように、隆義様とスミコは取引を打ち切ろうとしていた。当然、俺も真意が分からない。応じるつもりはない。


「但馬家の弟と姫君ひめぎみよ。貴様らの意見など、聞いておらん。横槍を入れるな!」


 すると再び秀明から威圧的な闘気オーラを放たれた。一体、何なんだよ。隆義様とスミコは動きまで封じて……、この人は化け物なのか。目の前の小男が俺には何倍にも大きく見えた。


「これで邪魔は入らんな。フォフォフォ」


 この取引に但馬家の命運が懸かっている。高笑いする秀明を見ながら、俺は心底そう思った。でも大丈夫なのか。体がこわばる。やばいくらい足が竦んでいる。


「そ、それで取引とは何ですか?」


 明らかに声も震えていた。でも臆する訳にはいかない。俺は勇気を振り絞って取引に応じる姿勢を見せた。


「フォフォフォ。ワシと勇敢に向き合うとは見事じゃな。それで取引じゃが、それはただ一つ。豊国家の小姓と戦う事だ。貴様が勝ったら、敗北を認めて撤退しよう!」


 豊国家の小姓と戦うだと……。それが取引なのか。どういう事なんだ。意味が分からないぞ。でも勝てば撤退するんなら、絶対に勝ってやる。俺は取引に受けて立つと頷いた。


「おい、グレイや!」


「お呼びでしょうか?」


 すると俺と同じ年頃の『グレイ』という少年が現れた。栗色の髪にいろせた群青色ぐんじょういろの小袖を着ていた。どう見ても強そうには見えない。むしろ普通の奴だ。それが第一印象だった。


「フォフォフォ。敵を見くびるとは愚か者のする事じゃぞ。グレイに負けて『世界の広さ』を知ると良い!」


 しかし俺の考えていた事は顔に出ていたのか、秀明がズバリと言い当ててきた。何で俺の心が読めるんだよ。つーか、愚か者だと……。フザけた事を言いやがって……。


「だったらその言葉、そっくりそのまま返してあげますよ!」


 コイツに勝って目に物を見せてやる。俺は声高に言いながら一直線に走り出し、左拳から炎を発した。


火炎弾レッドバレッド


 そして勢いよく、ボォーと唸る炎を放った。これは俺の代名詞的な技。避けれるものなら避けてみろ。そう言わんばかりの渾身の一撃だった。


「おっと、危ないね。不意打ちなんて卑怯だよ?」


 ところがこの技をグレイは余裕で避けてみせた。それどころか蹴りで応戦してきた。しかも俺の攻撃を不意打ちじみた卑怯と罵りながら……。


「卑怯だと? 先手必勝と言ってくれないか?」


 ムカつく奴だ。こんな皮肉じみた奴に負けたくねぇ。俺は負けじと即座にガードし、今度は右手で炎を放った。あの顔面に一発ブチかましてやる。


「クリフ、このままじゃ負けるわよ。冷静になりなさい」


 そこへ戦況を見つめるスミコの声が聞こえてきた。なに言ってるか分かんねぇよ。頭に血が昇ってんだ。コイツらは俺の馬鹿にし、偉そうに取引まで持ちかけてきた。目の前の奴は皮肉りやがる。これ以上は我慢できねぇよ。


緋車レッドウィング


 俺は感情のままに動いていた。戦況がどうなっているのかも分からない。周りの声も聞こえない。ただ分かるのは、自分の攻撃が空を切っている事だけだ。クソッ、何で当たらないんだよ。


「ふーん。やっぱり短気で猪突猛進。『炎帝えんてい天洋族てんようぞく』で間違いないみたいだね」


 炎帝、天洋族。何だ、それは……。何かの種族名みたいだけど、そのスカした顔。気に入らねぇな。


焔舞レッドガトリング


 自分でも苛立っているのは分かる。おそらく顔も修羅しゅらのようになってるだろう。でも勝てば良いんだ。この高速の炎のパンチが当たれば、一気にカタが付く。サッサと当たれ。


「君ってホントに馬鹿なんだね。そんな力任せに攻撃すれば、誰だって動きを読めるよ!」


 全く攻撃が当たらない俺に対し、グレイはここぞとばかりに皮肉を飛ばしてきた。この期に及んでまだ言うか。


「……逃げ回っているお前に言われたくねぇ!」


 もう我慢ならねぇ。俺は最大火力で烏丸広場を火災現場に変え、炎の中に姿をくらました。


「……チッ、怒りと力に溺れた単純な奴め。見境なく焼き尽くす気か?」


 炎に紛れると、俺はすぐにグレイを見つけた。どうやら逃げ道を探してるみたいだな。でも逃さねえぞ。


「隙あり!」


 俺は狙いすましたように炎の中から現れ、渾身の一撃を放った。この戦闘での初めてのクリーンヒットだ。腹に当たって少しは効いただろ。


「ガハッ……。ど、どうやって攻撃を?」


 不意を突かれたグレイは戸惑っていた。当然だよな。これはついさっき思い付いた攻撃方法だ。教える訳ねえ。そう思いながら、俺は再び炎の中へ身を隠した。


「……どうやら自分の能力を上手く使ってるんだね。どうやら見くびり過ぎたみたいだね。なら僕も本気を出すよ」


 するとグレイの目つきが変わった。何をする気だと思った矢先、俺は目を疑った。な、何だ、あの姿……。青い炎の鳥か……。


「僕は『不死鳥ふしちょう幻獣族げんじゅうぞく』なんだよ。悪いけど、この能力を使って、同年代に負けた事は一度もない。覚悟するんだね!」


 負けた事がないだって……。それなら絶対に勝ちたい。俺は本領を発揮したグレイに勝ちたいと本気に思い、頭がスッキリした感じがした。ここから本当の激闘が始まるのであった。

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