第25話 予定してた遊びより予定してなかった遊びのが楽しかったりする。

 夏休みは、バイトをしている学生にとっては稼ぎ時なのだ。

 さて、そんな日々の中、緋奈は樹貴と同じバイト先で働き始め、早二ヶ月ほど。

 二人で並んでレジの後ろに立つのにも慣れてきた。

 従って、客がいない時間帯では、緋奈と樹貴は割と気の抜けた会話をするようになっていた。


「でさー、酷くない? テツ……後藤の奴、ちょっと偶然、顔を合わせただけで毎度舌打ちしてきてさー」

「良かったじゃん。舌打ち」

「何がだし!?」

「会うたびに舌打ちしてくれるって事は、存在を認知してくれてんじゃん。寂しいのは、友達だと思ってた奴と街ですれ違っても声をかけられないことだよ」

「寂しい価値観を擦り付けんなし!」


 なんだ、舌打ちしてくれる、って? 別に舌打ちはされて有難い行為ではない。


「ていうか、偶然顔を合わせるんだ、後藤と」

「家近いからね」

「昔はよくお互いの家に泊まったりとかしてそう」

「……誠に遺憾ながらね」

「一緒に風呂とか?」

「流石にそれはない」


 小二からの付き合いとは言え、家族ぐるみの付き合いというわけでもなかったし。


「他人の家で泊まり、か……眠れたのそれ?」

「楽しいよ。友達とお泊まり。部活の合宿とかもあったけど、夜中までお菓子食べながらトランプして……てか、修学旅行とか行ってないん?」

「あんま覚えてない」


 マジか……いや、そんなもんなのかもしれない。樹貴の場合は特に寂しいわけだし。


「ていうか、他人の前で隙を晒すのはちょっと怖いよね」

「え、隙って?」

「もしそこで暗殺されたら嫌だし」

「誰もしないでしょそんなの……」

「いや俺は敵多いから。教科書とか隠されたり、下駄箱にゴミ入れられたりしたけど、その度に証拠を収めて先生に提出して然るべき対処をしてもらったりしたけど、そいつら反省しないで俺への恨みを高めただけだったし」

「……あんたなんでそんな……いや、まぁ察してはいるけど」


 ……そう考えると、図星をつかれて逆ギレする人間多過ぎるな、と少し思う。ギブアンドテイク以外の人間関係が信用出来なくなるのも分からなくはない。

 でも、それは少し寂しいことな気がする。


「……でも、あんたよく気絶するじゃん」

「まぁ……そうね。流石に、お前とか小野とかが俺のことを殺すかも、なんて思ってないよ。殺されるとしたら、もっと早い段階でやってると思うし」

「うん、なんか割と誰でも使う言葉をあんたが使うと超重量級に聞こえるから、殺すとか言わないで」

「じゃあ……アレするとか? 処分? 始末?」

「うん、アタシが悪かったから、殺すで続けて」


 こいつの語彙力、剣呑すぎる。一番怖かったのはアレするが一番に出てきた点だったりする。


「だから、お前達のことはそこそこ信用してるってこと」

「……」


 こいつは本当にものをストレートに言うやつだ。ちょっと気恥ずかしい。

 ちょっと照れを隠すために、別の話題を出した。


「そ、そういえば……小野ちゃんの事、気にならない?」

「いや、大きいとか小さいとか、そんな気にすることないと思うよ」

「胸の話題じゃないし! アタシが小野ちゃんを気にしたら、まずそれが最初に来るんか!?」

「じゃあ何?」

「この前の事! グリズリーの帰りに……急に帰っちゃったじゃん」


 あの時間はまだ19時。食事して帰っても21時過ぎまでには家に着くし、親に帰ってこいと言われる時間ではなかったはずだ。

 七月中に課題を片付けなければ勉強の量を増やされるだの、少し厳しい親なのだろうか?


「家庭の事情でしょ。特に、金持ちの家だし、普通の家の子供より窮屈になることもあるんじゃないの?」

「えー……じゃあ、アタシ達あんま小野ちゃんと遊べないかもしれんの?」

「知らん。けど、俺らが口を挟むとこじゃないよ」


 まぁ、確かに他所の家の事だけども。思ったより樹貴はドライなのかもしれない……いや、樹貴くらい頭の良い奴なら、弁えている範囲を自分で定めている、と見るべきか。


「ふーん……」

「にしても、暇じゃね。今日」

「まぁ、朝から雨降ってるし……誰も出かけたがらないんでしょ」

「この時間で金貰ってるとは言え……ちょっと勿体無いな……」


 その気持ちは分からないでもないけど、何もしない時間というのはどうにも性に合わない。

 品出しも仮点検も清掃もやってしまい、本当に客が来てくれないとすることが無い。

 流石に何処かのバカなバイトのように、商品をゴミ箱に捨ててSNSにアップ……なんてしないが、にしても暇だ。


「じゃあ……どうする?」

「何かゲームしよう」

「はぁ?」

「そうだな。お互いに問題を出し合って、どっちが多く答えられるか。負けた方が……そうだな。帰りにラーメン奢りで」

「ジャンルは?」

「なんでもアリ。けど、出題者がわかる問題じゃないとダメ」


 なるほど、とほくそ笑む。つまり……グリズリーの事に関して出題すれば、勝ちの目はある。


「じゃあ、どっちから行く?」

「お先にどうぞ?」

「よっしゃ、負けないから悪いけど」


 よしっ、と緋奈はニヤリとほくそ笑み、指をゴキゴキと鳴らした。


「……暴力禁止で」

「殴らないから! じゃあ第一問!」


 そう宣言した直後、ピポピポピポーンという音楽と、自動ドアが開く音。お客様がご来店されたが、緋奈は気が付かなかった。


「グリズリー映画第四作目、この前実写リメイクされた美女とショートフェイスベアのショートフェイスベアの全長はいくつでしょうか!?」

「いらっしゃいませー」

「……」


 宣言した直後、お客様がこちらを見ているのに気がつく。「なんの話をしてんだこいつら」みたいな顔である。


「……い、いらっしゃいませ……」


 遅れて顔を真っ赤にして俯くしかない緋奈だった。


 ×××


 さて、お客様への接客を終え、そのままゲームをしながら仕事を続けた。

 制限時間は14時……つまり、本日の二人の退勤時間までなのだが……。


「第125問! 1963年アメリカでのみ放送された『アニメ版ホッキョクマキング』第21話に登場した日本人ハンターの名前は!?」

「オードブル山﨑」

「うがっ……!?」

「こっちも第125問。球の表面積を求める公式は?」

「え? え、えっと……ぱ、πとrと……な、なんだっけ」

「降参?」

「分かった、πr2乗!」

「ハズレ」

「もーーーおーーー!」


 既に退勤し、着替えをしながらもゲームは続いていた。面白過ぎた、樹貴にとっては。

 負けず嫌いも結構だが、なんだか「次こそはワンチャンある」と思ってギャンブルに注ぎ込む人を見ているようで楽しかった。


「そろそろやめたら?」

「ていうか、あんたなんでそんなグリズリー詳しいワケ!?」

「勉強したから」

「はぁ?」


 はぁ? とか言われても、理由なんて一つしかない。この前、だいぶ気を使わせてしまったし。


「またグリズリー行く時……もしくは、グリズリーの映画を見に行くことになった時とか……そういう時、もっと楽しめるように」

「っ……!」


 何故か赤面する。昔は素直にものを言うと怒られたのに、最近はなんか顔を赤くするようになってしまった。


「っ……あ、あっそ……じゃあ、今度……」

「まぁ、金ないしそんな機会、夏休み中はないと思うけど」

「……」


 あれ、またジト目。ため息をついた緋奈は、立ち上がって更衣室に向かう。


「もういい。着替える」

「ん。じゃあ俺帰るね」

「は? 待ってろし」

「え、なんで?」

「ラーメン、食べに行くっしょ?」

「あ、うん。てことはもうギブ?」

「っ……ど、どうせあんたに知恵くらべで勝てるわけなかったし……それでいい」

「分かった」


 呑気に話しながら、更衣室のカーテンを閉める緋奈を見守りつつ、自分も上半身しかない制服を脱いで、ハンガーにかけた。

 一応、緋奈とシフトが被っている日だから、樹貴は少しだけ前に教わったオシャレ知識を使って身だしなみを整えてきたが、正解のようだ。

 しばらくして、緋奈が出て来た。


「うしっ、じゃあ行こう」

「あ、うん。分かった」


 緋奈は相変わらず綺麗な私服に身を包んでいる。

 たかだかバイトに行くだけでオシャレなど考えていないと思うから、無意識で選んだ服装なのだろう。


「……大沢?」

「あ、ごめん。私服、やっぱ可愛いなって見惚れてた」

「ーっ!? あ、あんたはいちいち、人を照れさせないと気が済まないわけ!?」

「え、可愛いとかよく言ってるじゃん、女子は特に。ダメなん?」

「い、いや……ダメっていうか……」


 まぁ、でも確かにそういう褒め言葉をデリケートに捉える人もいるだろうし、そもそも最近はナンパ目的で思ってもない褒め言葉を言う輩もいるかもしれない。

 その辺、あまりわかっていなかったかも、と反省し、改めて謝った。


「ごめん、もう二度と言わない」

「えっ……そ、それは困るんだけど……」

「え? やっぱり言われたいの?」

「い、言い方! ……いや、まぁ言われたいと言えば言われたい、ケド……」

「……あ、別の言い方すれば良いってこと?」

「えっ!? ま、まぁ……そういうことになる、かな?」


 可愛い、を別の言い方で……と、顎に手を当てて悩む。

 今の緋奈の服装を改めて眺めてみる……が、改めて見ると凝っているようには見えない。白くてアルファベットが胸に書かれているシンプルなTシャツに、デニムのショートパンツ。そしてネックレス……なのに、何故かやたらと綺麗に見える。

 何故、シンプルなのに可愛く見えるのか……露出している太ももが眩しいから?


「太ももが眩しい」


 言ってみた。その直後、一気に顔を真っ赤にすると同時に白い服の裾を掴んで真下に引き伸ばし、太ももを隠しながら自分を睨み付ける緋奈を見て、樹貴は「ああ……」と察した。これは、間違えたな、と。

 殴られる覚悟を決めて、ゴクリと唾を飲み込んだ時だ。

 裾を引いたままの緋奈が、真っ赤にしたままの顔で視線を逸らしながら、ポツリポツリと呟くように聞いてきた。


「っ……あ、あんた……太ももが好き、なの……?」

「え? それはフェティシズム的な意味で?」

「? ファシズム?」

「ムッソリーニじゃなくて」


 いるのだ、たまにこういう略称の方しか知らない奴。仕方ないので、丁寧に説明してあげることにした。


「フェティシズム……略称『フェチ』。異常性欲を示すことで、異性の身体の特定的一部に性的興奮を覚える人のこと。だが、最近じゃ脚が好きだから足フェチだとか、割とマイルドに使われることが多い言葉」

「何その図鑑みたいな説明の仕方!?」

「良かったじゃん、また一つ賢くなって」

「ばっ……バカにすんなし!?」


 本当にこいつを揶揄うのは面白い、なんて少し思ってしまう。何かこう……リアクションが面白過ぎる。まぁ、あまりやると嫌われると思うのでやらないが。

 それで……そうだ。自分が足フェチであるかの質問については……勿論、違う。


「別に俺、足フェチじゃないよ。外見的特徴で言えば、とりあえず顔が良い人が良い」

「か、身体より顔ってこと?」

「よく、性格は顔に出るって言うじゃん。俺あれ、あながち間違ってないと思ってるから」


 シワの数、にやけヅラが顔に張り付くか、目付き、若白髪の数……などなど、キレやすい奴、ヘラヘラした奴、とっつきにくい奴と、様々だ。


「健康的な顔した人が良い」

「……そうなの?」


 あ、ダメだ。全然、ピンと来ていない。まぁ、そんな風に自分も偉そうに言ってはいるが、中には嘘をつくのが上手くて偽の顔を貼り付けている奴もいるし、結局の所、それだけじゃ人の中身なんて分からない所はあるのだが。


「じゃあ……その、顔以外は?」

「は?」


 すると、緋奈がモジモジしながら聞いてきた。


「だから……顔以外……」

「身体ってこと?」

「そう。身長とか、体型とか、髪型とか……」

「なんでそんなこと知りたいの?」

「い、良いでしょ! このくらいの雑談は!」

「いいからラーメン食べ行かない?」

「歩きながらで良いから答えろっつーの!」


 ……いや、まぁ別に良いけど……と、少し目を逸らす。

 とりあえずコンビニを出ながら、あらためて話しかけた。


「じゃあ俺が言ったらそっちも言ってくれる?」

「えっ……あ、アタシの好みのタイプが気になるの……?」

「いや別に。交換条件にしたかっただけ」

「絶対に嫌!」

「じゃあ俺も教えない」

「ラーメン奢るから!」

「それは……」


 クイズに負けた代償でしょ、と言おうとしたが、まぁあのクイズは樹貴から仕掛けたもの。それで負かしてラーメン奢ってもらうのはどうなのかな、とも思ってしまったので、ひとまずスルーしてやることにした。


「分かったよ」

「じゃあ、早速!」

「その前に食べるラーメン屋だけ決めようよ」

「アタシ、おすすめのラーメン屋あるからそこで」

「分かった」


 そんなわけで、緋奈の後に続きながらとりあえず好みの女の子を言うことにした。あまり考えたことなかったが……まぁ、パッと思いつく感じで良いだろう。


「身長はー……俺より背が高い子が良いかな。背が低い人を見たことないから想像つかない」

「う、うん……身長は、聞いたアタシが馬鹿だったわ……」

「髪は……まぁその子が気に入ってる髪型なら何でも良いかな。あんま俺と関係ないし」

「好みの髪型とかないわけ?」

「いや、日によって変えることでその日の機嫌を観察したい」

「女の子で観察日記でもつける気!?」

「あ、面白そう。お前でやってみても良い?」

「ダメ! じゃあ……体型! スリーサイズはどんな感じ!?」

「いや平均的な数値知らんし」

「ボンッとキュッで示して!」


 なるほど、それなら分かりやすい。樹貴は当然、と言わんばかりにキリッとした表情で答えた。


「ボンッ、キュッ、ボンッ」

「このおっぱい星人!」

「男はみんなそうだと思うよ」

「もう知らないっ!」

「えっ、なんで俺が怒られるの?」


 せっかく教えてやったのに、情緒不安定なのだろうか?

 納得いかないが……まぁ、割とさっきまでからかわれていた時のストレスが溜まっていたのだと思えばわからなくもない。

 とりあえず、何か言っておかないと。もしかして、胸が小さい自分を投影してしまったのだろうか?


「でも、大丈夫だよ。上野、優しいから、ボンッキュッボンッの女の子より好きだよ」

「はうっ!?」


 ……今度は喜び始めてしまった。今の一言……いや、本音ではあるのだが、それで顔の色がりんごみたいになるほど変わってしまうなんて、ちょっとチョロすぎて心配になる。


「どんだけ喜んでんの? 大丈夫?」

「うっ……るっさいし! あ、ああああんた! それどういう意味で……!」

「どういうって……嫌いな奴と友達になったり夏休みに顔合わせたりバイト先被せたりしないでしょ」

「だよね知ってた!」


 知ってたならなんで怒るの……と、半眼になるが、もう黙ることにした。何を言っても怒られる気がしたから。

 仮にもこの前のグリズリーで世話になった身として、これ以上ストレスを与えるわけにいかない。

 それより、ラーメン屋って何処なんだろ……なんて思っている間に、緋奈が笑顔を浮かべて告げた。


「でも、嬉しかったし。……その、アリガト」

「え……何が?」


 何かお礼を言われるようなことをしただろうか? と、思ったのも束の間、それを分かっていたように、緋奈は照れたような笑みを浮かべて告げた。


「好きって言ってくれて。……友達として、でも嬉しかったよ……?」

「っ……」


 ……あ、可愛い。と、普通にときめいた。つい、恋に落ちそうになってしまうほど。この子、最初の印象こそ最悪だったものの、こうして話してみると悪い子ではない……むしろ、過去にあった人間の中では良い奴の方だ。

 もしかして……こいつは……。


「も、勿論……アタシも好きだから……あ、と、友達としてね!? あ、友達としてだったら小野ちゃんの方が好きかな! だから、うん……その、うん! あんたは二番目だから!」

「……そっか」


 どうやら、勘違いだったらしい。自分の胸の高鳴りも、つい雰囲気に流されただけのようだ。

 そんな中、ラーメン屋の前に到着する。外にいるだけでも良い匂いが漂ってくる。


「……こ、ここ……」

「……そう」

「……食べ、よっか……」

「……ん」


 二人揃って中に入った。


 ×××


 さて、ラーメンは美味しかった。せっかくお昼も一緒に食べたので、夕方も少し一緒にいることにした。


「当然、食べたら動くし」

「え?」


 とのことで、近くにあるバッティングセンターに来た。

 バッティングセンターとは銘打ってあるが、ここで出来る事はストラックアウトと卓球、アーチェリーも出来る上に、その下にはゲームセンターがあるので、クーラーが効いている室内で遊べるのだ。

 さて、そんなわけで、二人でしばらく卓球をしていた。


「ゼェ、ヒィッ……」

「ほら、目標のラリー、二人で30回っしょ?」

「休ませて……腕が、上がらない……」

「そんなに激しくやってないから悪いけど。ほらほら、早く早く、ファストファスト」

「こういう時はハリーハリーが適切だと思う」

「絶対休ませないから!」

「あ、ごめんごめん嘘嘘人それぞれだからちょっと待ってちょっと待ってれ

「絶対に嫌だし」


 続行させられた。いや、もう本当に死ぬかと思うほど。呆れる程にボッコボコのボッコボコにされた。

 で、その後はピッチング。ストラックアウトで交互に投げて完全クリアを目指すが……。


「大沢ー、ちゃんと当てろし」

「腕が上がらないんだよ……どっかの誰かがバカみたいに卓球やらせるから……」

「だから教えてあげてんじゃん。最悪、ボールは手首のスナップだけでも投げられるって。軟式ボールなんだから尚更、軽く投げられるでしょ。ほら頑張って」

「蹴りじゃダメ?」

「あんたね、野球ボール蹴りとかそんな上手くいくわけが……」


 が、樹貴はボール射出機から吐き出された軟式ボールを太ももで上に上げると、足元でポンポンと軽くリフティングした後、低めのセンタリングを上げるような放物線でシュートした。


「……は?」

「リフティングは得意なんだよね。足が疲れるから20回くらいしか出来ないけど、技はある」


 なんだこいつ、と本気で思う緋奈だった。

 で、最後にゲーセン。バイトの後に体を動かして疲れたので、なるべく座ったまま出来るゲーム……と、いうわけで、高校生二人がメダルゲームを始めた。


「でさぁ、そういえば上野に行ってなかったけど……前に小野の家に行ったことあったじゃん? そんときに、俺弟に女の子と勘違いされたらしくてー……あの話どうなってんのかなー」

「ああ、あの女装して帰った時? 可愛かったもんねー」

「なんか、思ったより終わった後でも不快感無いんだよね。もっかい同じことがあったら、多分躊躇なく着れる」

「じゃあ着る?」

「いや好んで着たいわけじゃないから。てか、それお前らなら良いけど家族に見られたら喜んで死ねる」

「お、流石に恥ずかしいん?」

「いや、妹が『俺が虐められてる』と認定してお前らの事殺しに行くと思うよ」

「……じゃこの前のマジ危なかったん?」

「うん。危なかったん。あ、ジャックポット」

「ッシャ来た!」


 なんて、駄弁りながらメダルを獲得し続けたり、となんだかんだ遊び尽くしてしまった。

 気がつけば、夕方6時。そろそろ帰宅の時間である。


「そろそろ帰るかー」

「ん。……てか、思ったより遊んじゃったし」

「まぁね。でも楽しかった」

「そ、そっか……良かった」


 嬉しそうにはにかむ緋奈だが、樹貴は少しため息が漏れる。何せ……もしかしたら、これまでの夏休みでも同じように楽しめていたはずなのかも……なんて。

 でも、まぁこれまで緋奈や朱莉、哲二と知り合えたことはなかったので、やはり同じように楽しむ事はなかったのだろう、と首を横に振るう。

 その樹貴の隣で、緋奈はホクホクしていた。今日は本当に楽しかったし、なんなら得した気分だからだ。

 思いがけないデートと、今日の午後は宿題の予定だったけどやらずに済んで得した、みたいな。

 樹貴も楽しかったみたいだし、良かった……が、せっかくなのだ。出来ることなら、次のお出掛けの約束もしたい。二人でなくても、いつもの四人で。


「ね、大沢」

「何?」

「また暇な日ある?」

「あるけど宿題やったのお前?」

「うっ」


 やっていない……と、冷や汗が流れる。


「まぁ、やる日は任せるけども。俺も手伝うとか言っちゃったし。でも、ギリギリに呼ばないでよ?」

「う、うん……」


 それは近いうちに……と、思いつつも、だ。今は次のお出掛けの計画だ。


「そういえば、近いうちお祭りあるけど、行く?」

「倒れるからいい」

「まず断るのやめろっつーの……ほら、小野ちゃんとかも誘ってさ」

「まぁ……夜だから比較的マシかもだけど……でも、他の奴らは予定空いてんの?」

「後藤は空いてるっしょ。基本、暇人だしあいつ。小野ちゃんも大丈夫じゃない?」


 まぁ、樹貴としても断る理由はないのか、頷いた。


「分かったよ……じゃあ、後でグループで誘ってみよっか」

「うん」


 それだけ話して、その日は解散した。


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