第24話 友達がいたことない奴の思考回路は独特。
高校生に上がった時、哲二は髪を染めた。グレようと思ったからだ。
野球を辞めた一番の理由は、そもそも辞めざるを得なかった事だ。肘の故障が原因だ。
別にその時、急にダメになったわけではない。ただ、このまま投げ続けるといずれ壊れる、とのことだ。
それを知ってから、荒れた。高校でもやるつもりではあったから。
だが……グレるにしてもやり方が分からない。そのため、茶髪にしてとりあえず路地裏とか歩いてみたら、絡まれて喧嘩して勝ててしまって、気が付いたら最強になっていた。
別に最強になりたかったわけではなく、ストレスが発散できればそれで良いかな、なんて思っていたが、結果的に少し強くなったことに、正直なところ快感は覚えていた。なんか漫画やアニメの主人公のようだが。
……けど、それもそろそろやめようかな、と思うようになって来ている。何故なら……。
「後藤くん! 次、アレ乗ろー!」
「お、おう……」
友達が出来たから。そして、元々いた幼馴染とも、また関わるようになったから。
だから、あまり喧嘩はしない方が良い気がしてきた。ああいう真似は、周りのメンバーにも迷惑が掛かる。
何より、朱莉に迷惑がかかるのが一番、嫌だ。本当は緋奈と回りたかっただろうに、一番関わりの薄い哲二と回ることになってしまったにも関わらず、こうしていつもと変わらず楽しそうに振る舞ってくれている。
こんな子に……迷惑は掛けられない。
「何に乗るって?」
「あれ!」
さて、次に乗るのはベアーズクルーズ。川の間を船で降り、その途中で太古のクマの姿を見ることが出来るものだ。
「久しぶりだな……」
「そう言えば、昔は緋奈さんとよく来たの?」
「ああ……まぁ、小学生くらいの時な、現れたクマとかに石投げて、どっちが多く当てられるかをやってた」
「えっ」
勿論、二人とも一投目で怒られて辞めさせられた。懐かしいが……まぁ、当然ながら自慢できるようなことではない。
「あの頃は……俺も緋奈もヤンチャだったからな……」
「緋奈さんもそうだったんだねー」
「でも……仲が良かったかは微妙だったわ。喧嘩のが多かったし」
「ふーん……」
否定も肯定も出来ない……と言った様子の返事だ。まぁ、実際の所、仲悪いわけでもなかったのかしれない。仲が悪いと言うのは、中学以降の自分や緋奈の関係を言うのだろうから。
さて、それはさておき、だ。いよいよベアーズクルーズに乗り込む。
当然ながら隣同士に座る。外が見やすいように、朱莉に外側へ座ってもらった。
「落ちンなよ」
「落ちないよ!」
「緋奈は小3の時、落ちた」
「それなのに的当てゲームとかやってたの!?」
あいつは割と懲りることを知らないから仕方ない。
さて、座っていると船長から声が聞こえてくる。
『えー皆様、本日はベアーズクルーズにようこそおいで下さいました。これから皆様を冒険の旅にお連れ致します!』
というアナウンスの元、船はゆっくりと水上を動く。目をキラキラと輝かせる朱莉は、外を眺めて水を見る。
『さて、まず見えて来ましたのは……あちら、ホラアナグマです!』
何か見えた? と、思ったのも束の間、よくよく見ると、船が通る道道沿いに見える、河岸の奥に洞穴があり、そこにやたらと恐ろしい……というより、リアルな作りの熊がいた。
『あちらはホラアナグマ。氷河期に生息していたと思われるクマでございます』
「……なンか、グリズリーってたまにやたらとリアルなモンあるよな」
「うん、だからとっても勉強になるよ!」
前向きだなこの子、と思っても口にしない。
ちなみにこのベアーズクルーズがコンセプトの映画はそのまま「ベアーズクルーズ」と言う作品。探検家が「絶滅してはずの熊達が生息する島がある」という噂を掴んでそこを探検し、苦難と壁を乗り越えていくストーリー。
つまり、リアル仲間が出るのは当たり前なのだ。だから、まぁ……勉強になるのは当然だ。
「スゲェな、相変わらずリアル過ぎる……」
「ね……ん?」
「どした?」
「緋奈さんから写真……」
スマホを開いて中身を見る朱莉。映っていたのは、目を覚ました樹貴と緋奈がカフェでお茶してる写真だった。
「目、覚ましたのかよ。あいつ」
「らしいね。……ふふ、緋奈さん顔真っ赤」
「……」
思えば、今でもあの緋奈がこんなひ弱な男を好きになったのが少し不思議だったりする。別に勝手にすれば良いとも思うが。
なんて思っている時だ。朱莉が自分に声をかけてきた。
「ね、後藤くん。アタシ達も一緒に撮らない?」
「ア? ……ああ、写真か?」
「で、送ってあげようよ。向こうにも」
「……」
正直、嫌だった。撮るのは良いが、送られるのは。何せ、後で緋奈に揶揄われるだろうから。
……でも、朱莉がそうしたいのなら、自分も拒否するわけにはいかない。
「好きにしろ」
「じゃあほら、こっち寄って」
グイッと椅子の上で腕を引かれる。パーソナルエリアぶち壊しかよ、と思わないでもないが、さっきの集合写真とは違って、必要以上にくっ付かないよう調整している。ちゃんとその辺、弁えてはいるようだ。
「撮るよー?」
「おう」
「はい、チーズ……」
と、写真を撮ろうとした時だった。船が少し揺れた。
「うおっ……」
「ちょおっ……!」
その拍子に、朱莉の手元からスマホが落ちてしまった。落ちた先には、船の外側の手すり……つまり、外に落ちる……。
「危なっ……!」
反射的に手が伸びた。朱莉の前に乗り出し、スマホをキャッチする。間一髪……と、ホッとした時だった。
「あ、ありがと……」
「いや、いい」
「あの……でも、その……手、どかしてくれると……」
「あ?」
言われて、スマホを掴んでいる方の手……ではなく、身体を支えている方の手を見た。
それは……朱莉の太ももの間にすっぽり挟まっていた。
「っ、わっ、わわわ悪い……!」
「い、いや平気……」
「……」
「……」
やってしまった。セクハラどころの騒ぎじゃない……と、顔が熱くなる。意外と脂肪的な柔らかさはなく、普段から運動してそうなハリはあったな……と、思いつつも、足と足の間はやはりマズイ。
少し頬を赤らめつつも、とりあえず腕を抜いた。
その自分に、朱莉が笑顔を浮かべて告げる。
「ほ、ホントに気にしないで! スマホ、取ってくれたんだし!」
「あ、ああ。そうだな」
「それより、よく取れたよね。あのタイミングじゃ絶対、普通は取れないでしょ」
話を逸らしてくれている。なら、乗っかるしかない。このまま二人で気まずくなるのは良くないから。
「まぁ、野球やってたからな」
「さっすがー。じゃあ、また落としそうになったらよろしくね?」
「アホ、もう落とすな。……てか、乗り物乗ってる時のスマホは危ねェっつーの」
「あ、そ、そっか……でも、ギャルだったら上手く撮るんだろうなー……」
ギャルだったら、って……と、少し呆れてしまう。こいつは一体、何を目指しているのだろうか?
まぁ、楽しむための努力と言われればそれまでだが。でも、たまに朱莉の言動を聞いていると、イマイチピンと来ないことが多い。
「別に、ギャルじゃなくてもイイだろ。お前はお前だし」
「へ?」
「誰の真似してンだから知らねェけどよ、お前がやりてェことしろよ」
いや……まぁ、本当に写真くらい撮りたかったのかもしれないが……でも、たまに感じる。ていうか、おそらく樹貴も緋奈も感じているだろう。
なんかこう……それっぽくあろうとしているような、そんな感じが。
しかし、朱莉は真顔で小首を傾げた。
「……いや写真は普通に撮りたいよ?」
「そォかよ。……なら、今度は落とさねェようにしろ」
写真は、ということは、普段はそう言う節があるのを認めていることになる。
まぁ、悩み事があるにせよないにせよ、今は楽しまなければならない。
とりあえず記憶しておくことにして、今は二人で楽しんだ。
×××
さて、時刻は12時半。パレードに参加するには、この時間帯にお昼を食べなければならないわけだが、まるっきり別行動をしてしまったので一度合流する必要がある。
その為、緋奈は樹貴と一緒に目印になるアトラクション「ベアーウォーズツアーズ」という建物の前で待っていた。
「ふぅ……楽しかった」
「すごいな、上野」
「? 何が?」
「今日、一回もまだ倒れてない。最初の除いて」
「ふっふーん、でしょ? アタシにかかれば、ここでの色んな楽しみ方なんて簡単にプランを立てられるから」
大学生になったら年パス買う予定なまである。中学の時のソフトボールの顧問が年パスを持っていて「私はグリズリーに『ハチミツビール』を飲むために足を運ぶこともある」と言っていたのは憧れだったりする。
「なんでその計画性が勉強で出ないんだろうね」
「う、うるさいし!」
「宿題の計画はもう立てた?」
「そ、それは……まだ」
「もう八月だよお前。やる事やんないと遊んでても思いっきり楽しめないでしょ」
「そ、そんな事ないから!」
大体、期末試験が終わったばっかなのにすぐ勉強とか嫌すぎる。せめて夏休みが始まって勉強しなくて良い期間が一週間は欲しいところだ……あれ? ていうか、明日で夏休み開始一週間では? と、小首をかしげる。
ていうか、だ。人に言う前に自分はどうなのか?
「あ、あんたこそ宿題終わってんの!?」
「終わってるよ」
「優等生か、あんたも小野ちゃんも!」
「うん」
「ムッカつく……!」
「でも、今日のお礼に、分かんない問題があったら教えてあげるよ」
言われて、緋奈は少し目を見開く。この野郎、本当に落として上げる達人だ。独特過ぎる話の順序に弄ばれて困ってしまう。
「上野?」
「っ、な、何?」
「顔赤いよ。熱中症? 俺より先に」
「っ、ち、違っ……!」
「んー……いや、ないな」
「〜〜〜っ!?」
自分の額に手が当てられて限界だった。顔が真っ赤に染まり、思わず額を前方に振り下ろし、頭突きをかましてしまった。
「ゴフッ!?」
「っ……へ、ヘンタイ!」
「え〜……な、なんで? ホワイ?」
「ホワイ? じゃないし!」
あーもうっ、と頭を掻きむしりたくなった時だ。
「お待たせー……って、大沢どうしたの?」
「死ンだフリしてるセミごっこか? もってこいの季節だなおい」
「君達に人の心とかないの?」
当然の文句を漏らしながら、樹貴は立ち上がる。
「とりあえず……昼飯でしょ?」
「うん。アタシ、良い店知ってるから、パレードまでに準備するからね」
「はーい」
「? 準備? ドユコト?」
「さァな」
話しながらも緋奈の後に続いた。
×××
そんなわけで、準備を終えた。出店で買ったものを、外で食べながらパレードの場所取りをすることになった。
で、その場所取りも終えて四人は座って食事にする。
「……このバーガー美味い。なんだっけ?」
「グリーのサーモンバーガー」
「大沢、暑くない? 平気?」
「大丈夫」
朱莉と哲二がバーガーを貪り、緋奈が持参した日傘を樹貴に貸してあげる……などして食事を続ける。
そんな中、哲二が緋奈と樹貴に聞いてきた。
「お前ら何処で何してたンだ?」
「カフェの後は、イッツベアーズワールドに乗って、パンダの森で隠れパンダー・ジャイアント探してた」
「おかげで俺まだ一回も倒れてない」
「倒れる方がおかしいンだけどな」
「上野のおかげだよ」
「っ……ば、バカ……」
「「おお……」」
「そ、そこ、感動しない!」
朱莉と哲二が意外そうに目を丸くしていたので、思わず食いかかってしまう。
だが、何一つ気にしている様子を見せない樹貴が続ける。
「上野、ずっと優しかったよ。なんか知らないけど、定期的に飲み物飲むように促してくれたり、塩分チャージくれたり。前は俺と会話する度に苛立ってたのに」
「ちょっ、辞めてって……!」
「おう。それで?」
「ほかにどんなところが?」
「そこ! 詳しく聞かない!」
そうは言うが、樹貴はもしかしたら優しくされて少し嬉しかったりしてるのかもしれない。そのまま続けた。
「あとね、乗り物乗った時も、俺が落ちないようにずっと手を繋いでてくれたし」
「マジかお前……!」
「おおっ……だ、大胆……!」
「うるさいっつーの! てか、大沢も黙れし!」
「正直、ちょっと恥ずかしくはあったけど……でも実際、落ちてアトラクション止めたことあるし、仕方ないかなって」
「マジかお前!?」
「お、おお……大事な事だった……」
それは初耳。ていうか、この子は何処まで鈍臭いのか。
いや……そんな事よりも、だ。なんか……自分も少し聞き入りたくなってきてしまった。こいつは素直だし、割と本気で褒めてくれているのはわかる。
良い機会だし、止めるふりしてこのまま耳を傾ける……と、思っている時だ。
「そんなに夏休みの宿題やばいの? まだ始まったばかりなのに」
「……は?」
「え?」
「ア?」
一気に空気が冷ややかになったが、一番凍らせたのは自分だから当然と言えば当然だ。
苛立った緋奈は、ジロリと樹貴を睨む。
「あんた……なんでアタシが世話焼いてたと思ってんの?」
「え? 宿題を教えて欲しい科目が多いからでしょ?」
「………は?」
「うーわ……」
「ないわー」
「え?」
朱莉と哲二もドン引きしているが、目に入らない。余りにも頭に来たので、日傘を上からどかしてしまった。
別に、気持ちに気づいて欲しかったとかではない。気付くわけないから。
……でも、ギブアンドテイク、持ちつ持たれつ……そんな利害の一致と思われたのは嫌だった。
「なんで怒ってんの? 違うの?」
「違うし!」
「え……じゃあ何?」
「アンタのために決まってんじゃん!」
「俺の……タメ?」
マジかこいつ、と苛立ちがブーストされる。今まで、朱莉と一緒に買い物で準備をしたり、今日可能な限り気を回したのが……全部、緋奈の宿題のためだと思われていたのだろうか?
「……最低」
心底腹が立つ。……だが、腹を立ててはいけない。元々、かなり寂しいやつな事は知っているはずだ。割と昔は騙されていたらしいし、何より美鳥に「よろしく」と言われた。
「……大沢」
「うん?」
「アタシは、あんたのために……今日の為に色々と準備してきたの」
「俺? なんで?」
「なんでとか良いから聞いて」
「お、おう?」
力技で黙らせた。流石の樹貴も、威圧されてしまっていた。
「心配だったから。あんたなら、絶対に倒れると思って。倒れられたら、あんたが楽しめないから」
「俺?」
「そう、俺」
下手に言葉は選ばず、ストレートに言ったほうが良い……と、思っている自分の横から、朱莉が援護してくれた。
「本当に大沢のために、二人で買い物に行ったんだよ。途中で合流した美鳥さんも含めて三人で、必要になりそうなものを選んで」
「そうだったんだ」
第三者の一撃により、さらにすんなりと受け入れ始めた。
ありがとう、と心の中でお礼をしながら、緋奈がさらに告げた。
「……あんたが楽しめるなら、宿題なんて手伝ってくれなくても良い。だから、ギブアンドテイクだとか、そういうの忘れて」
「……そう?」
「そう」
「分かった。ごめんね」
頭の良さだけあって、あっさりと理解してくれた。それだけ理解力があるなら最初から理解して欲しかったりするが……まぁ、今は気にしなくて良いだろう。
とりあえず、ホッとしている時だった。ふと二つの喧しい視線を感じる。
「……ほとンど告白じゃね?」
「なんであいつに伝わんないの?」
「そこ! 黙って!」
「え、今告白されてたの?」
「なわけないでしょバカバカッバァーーーーーカッッ!!」
とりあえず誤魔化した。
×××
さて、食事を終えて少しインターバル。パレードの楽しみ方とかいまいちピンと来ない樹貴は、とりあえずトイレに行くことにした。
「ごめん、トイレ」
「俺も行くわ」
「いってらー」
話しながら、男子組はトイレに向かう。しかし、と樹貴はため息をつく。
正直な所、段々と樹貴は緋奈のことが分からなくなってきた。
何故、自分にここまで構うのだろうか? 正直、嫌われていなくとも好かれてもいないと思っていたのだが、なんだか自分の妹のように世話を焼いてくる。
まぁ、ありがたいけど……ちょっと困る。
「俺なんかに、あんな世話焼いちまってな……」
「上野の事か?」
「うん。なんでそこまでするかね」
正直、分からない。樹貴自身、緋奈を友達として既に受け入れている。それは緋奈だけでなく、朱莉と哲二も同様だ。
だが、今まで友達が出来たことがない樹貴には、これが普通の友達なのだろうか? と疑問が生まれる。特に、緋奈の世話の焼き方がもう困る。
「そこまでされると……俺も何かした方が良いんかなって思うんだけど……」
「そンな気にすることじゃねェよ。ただ、あいつは全員で楽しむために手を尽くしてるだけだ。自分のためだけじゃなく、オマエのためにもな」
「や、そりゃさっき言われたことで分かるんだけどさー……」
トイレに到着し、小便器の前に並んで立つ。
しかし……困る。やはり、何か面倒をかけさせっぱなしでいるのは性に合わないのだ。世話をかけさせた上でさっきは怒らせてしまったみたいだし、気にしてしまう。
何かしてやりたい……自分も、今いるメンバーが楽しめるよう、何か手を打ちたい。
「何か、したいな……飲み物でも買って行こうかな?」
「そこまでかよ……まァ、別に悪いコトじゃねェし止めねェけどよ……」
「よっしゃ」
「でも、もうパレード始まンだろ。今から買いに行ったりしてたら、むしろ盛り下げンじゃねェの」
それは……そうかもしれない。すると、哲二が「あっ」と何かを思いついたように言った。
「なら、俺に任せろ」
「何、バトルトーナメントでもやる気? ごめん俺一回戦も勝てないと思うよ」
「お前は俺のことをどう見てやがンだ! 違ェよ!」
だよね、大体それ迷惑にしかならないし、と自分にツッコミを入れつつ、改めて聞いた。
「じゃあどうすんの?」
「テメェで預けて行ったろうが」
「?」
鞄から手渡されたそれを見て「え、こんなんで良いの?」と思いつつも従ってみた。緋奈のためになるのなら仕方ないから。
×××
さて、緋奈は朱莉としばらく待機する……が、そのテンションは少し低めだった。
「はぁ……やっちゃった……」
「いやいや、緋奈さんは悪くないよ」
「いや……でも、怒っちゃダメじゃん……それも、打ち上げで」
「まぁ……そうかも?」
自制したとはいえ……あれでは怒ったことがバレていただろう。
「でも、本当にあいつ鈍いな……何なのマジで」
「ま、まぁ……もうそこは仕方ないんじゃない? ほら、割とあの子、人の心わかんないとこあるし……」
「機械かっつーの……」
友達が一切できずにいるとああなるんだな……と、少し引いてしまう。
「まぁでも……ほら、せっかくだし楽しまないと! 多分……少なくとも今日は緋奈さんの考え、理解してくれたと思うから」
「まぁね……」
「でも、本当に緋奈さんは大沢のこと好きだよねー?」
「そ、それはないから!」
「まだ否定するんだ……」
なんて話している時だった。
「お待たせー」
戻ってきた声が聞こえる。とりあえず、謝ろうかな……と、思いながら振り返った時だ。
「大さ……わっ!?」
「何故、そんな最後に力入れたの?」
熊耳を、つけていた。ただでさえ女の子みたいなベビーフェイスが、自分の大好きなグリズリー耳をつけている……唐突な不意打ちであったこともあり、見事にそれは緋奈の胸を穿った。
「ゴフッ……!」
「あれ、どうしたの? 持病?」
吐血するように後ろにひっくり返った。
×××
さて、その後は四人で楽しむ。パレードの後は、いろんな乗り物に乗って、樹貴も頑張って倒れないようにしていた。
だが、帰宅の時間になってしまった。
「……はぁーあ……そろそろ、帰らないとかー」
「ね。早かったねー」
パレードの影響でぐしょ濡れになったりしたものの、トイレとかで着替えてから遊び回ったので、四人とも違う服装。
樹貴は美鳥に世話を焼いてもらって、替えの服を持ってきていた。
「ていうか、タツキ。テメェ飲み物飲み過ぎなンだよ。小便行き過ぎだ」
「いや、熱中症と脱水症状対策には当然でしょ」
「限度があンだろうがよ」
なんて話している哲二と樹貴の会話に、緋奈が割って入った。
「ちょっとー、仕方ないでしょ。大沢は弱いんだからー」
「そうだそうだー」
「テメェは情けねェとは思わねェのか!?」
自分の弱さを全肯定する姿は確かにダサいが、緋奈は苦笑いで流す。
とりあえず、代わりに提案してみることにした。
「そうだ、みんなで晩御飯食っていこうよ」
「良いよ」
「俺もイイぞ」
「アタシも……」
満場一致かな? なんて思った直後だった。ヴーッヴーッとバイブの音。誰のスマホだろうか? と、周囲を見回すまでもなく、朱莉がポケットからスマホを出した。
「ごめん、アタシだ。……はい。あ、お母さん?」
母親から? と、思っても、聞き耳を立てるのは良くない。三人とも聞かないように話を続ける。
「うん……うん。え? あ……分かったわ。ええ……じゃあ、また後で」
話がまとまったようで、電話を切った。
「ごめん、お母さんが帰って来いって」
「マジかー」
ご飯行くくらい良い気もしたのだが……しかし、まぁそう言うなら仕方ない。何か事情があるのかもしれないし。
とりあえず、そういうことなら三人だけでグリズリーで食べるのも申し訳ないし、帰宅することにした。
しかし、と緋奈は思う。基本的に自分や樹貴などには割と言いたいことを言える朱莉が、母親には全く口答えしなかった。
割と……難しい親なのだろうか? ちょっと不思議に思いながらも、ひとまず帰宅した。
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