第13話 ゲームはオンラインより、一箇所に集まってマルチ。

 さて、とりあえずシャワーを借してくれた。このままでは風邪ひく……とのことだ。

 緋奈が先にシャワーを借りた後、着替えも借りて出て来る。

 下着は、ここに来るまでに近くのスーパーで迷惑であることを承知の上で購入した。流石に樹貴は泥だらけだったこともあり入れず、緋奈がお金をもらって購入。男性の下着を購入したのは生まれて初めてだ。


「ふぃ〜……ごめんね、小野ちゃん……」

「ううん、平気」


 今は、朱莉の部屋でドライヤーを借りている。樹貴がその後も使うため、乾かしたらなんなりする、とかは後にしたのだ。

 思いっきり朱莉の部屋着なわけだが、胸に違和感。パッドをつけていないから、無乳さが露わになっている。


「あ、あはは……ちょっと恥ずいわー……アタシ、ホント小さいから……」

「何も恥ずかしがることないと思うけど……」

「さっすが、立派なものを持っている人は違いますなー?」

「も、も〜……やめてよ。大きいのは大きいので恥ずかしいんだから……」

「いやいや、胸元開けてるからでしょ」


 何であんな格好をするのかいまだによく分からない。あんな典型的な「ザ・ギャル」みたいな女子校生いるんだ、と思った程だ。

 だが、朱莉は少し複雑そうな表情で呟いた。


「いや……隠したら隠したで恥ずかしいんだ……露出してないのに主張しちゃうから、それはそれで男の人の視線、集めちゃって……」

「あー……まぁ、男のフェチって多種多様過ぎてよく分かんないかんなー」


 なんとなく変態が多いイメージ。そういうところも嫌いだったりする……反面、樹貴にはそういう面はないんだろうな、と思わないでもない。

 しかし、大きい人には大きい人の悩みがあるんだ……と、思わないでもないが……まぁ、やっぱり羨ましい。


「でも……ブラがあるのとないので、服を上から着てる時に何一つ変化が見られないのも寂しいんだよね……」

「ご、ごめんね……?」

「謝るなしー! この巨乳ー!」

「ちょーっ、も、揉むのやめてって……!」


 頭に来て揉みしだこうとした時だ。部屋の扉が開かれ、中に樹貴が入ってきた。……ツキノワさんの着ぐるみ型の寝巻きを着た樹貴が。


「シャワーもらったー。ありがとー」

「ぶはっ!」

「ぶふぉっ!」

「え、なに」


 仮にもJK二人が吹き出してしまった。何一つ事情を知らない緋奈は、肩を震わせながら尋ねる。


「え……ちょっ、な、何その格好……!」

「え? いやだってこれが着替えに用意してあったから」

「ごめっ……それが1番、男の子っぽい奴だったから……!」


 まぁ、ここは朱莉が住んでいる家だし、仕方ないと言えば仕方ないのだが……にしても、似合いすぎて面白い。

 二人揃って静かに笑っていると、頭にきたのか、樹貴が真顔のまま言った。


「笑うなクマー」

「バフォっ!」

「クマの語尾がクマって何っ……!」


 しばらく笑い転げた。


 ×××


「で、つまり……二人はアタシをつけてた、と?」

「はい」

「先生、俺は止めました」

「黙って」


 さて、まぁとりあえず落ち着いたので、改めて事情を聞いたのだが……まさか、つけられていたとは。

 全然気が付かなかった、と少し八つ当たり気味の苛立ちが漏れるが、つけてた方が悪いので隠すつもりはない。

 特に、緋奈は反省しているみたいだが、樹貴は「俺は悪くない」と言わんばかりの態度なのでほんとムカつく。

 だが、次の事項はつけられていた以上に腹立たしいことなので、すぐに緋奈でも簡単には許さない。


「……しかも、あ、アタシが……その……援交してるとか、なんとか……」

「それはホントごめん!」

「先生、俺はハナッから無いと言っていました」


 ……道理で自宅を知っているわけだ、とか、変に納得してしまった。

 何にしても、だ。突飛な話ではあったが、気持ちは嬉しい。


「……まぁ、アタシを心配してくれたんでしょ? だから……別に怒らないよ」

「小野ちゃん……!」

「でも、もうやめてね」

「う、うん……!」


 まぁもっとも……本音を言うと「友達が家に遊びに来る」というシチュエーションに憧れがあっただけなのだが。

 これは絶好の機会……! なんて思っていると、樹貴が声をかけてきた。


「そうだよ、もうそういうのはやめなよ」

「あんたも謝りなさいよ!」

「ごめん」


 促された樹貴も謝る。改めて思うと……今、自分は男子を家の中に入れてしまっている事に少し変な感覚が残る。これが家族に知れたら……割と面倒だ。

 ただでさえ、割と普段の自分は偽ってるとこあるのに……なんて少し身構えていると、緋奈が口を挟んだ。


「にしても……デッカい家だよねー。小野ちゃん家って、お金持ちなん?」


 やっぱりきた、その質問。聞くことは誰でも一緒である。もう慣れっこだ。


「そんな事ないよ。普通だよ」

「だから、バイトとか必要なかったんだー」


 まぁ、そういうことだ。特に父親が「友達と遊びに行くときにお金がないとハブられて孤立して付き合い悪いと思われて知らない間に友達がいなくなってた」と言ってお小遣いをくれる。学生時代、何かあったのだろうか?


「うん。あと、お母さんが厳しい人だから、成績が悪いと怒られちゃうし」

「なるほどねー。いやー、羨ましいわ。アタシもホントはバイトとかしんどいしやりたくないしー」

「そうなんだー……」


 でも……親からの援助があまりにも多すぎると、それはそれで少し困るものだ。なんだか、楽してお金をもらうことに少し申訳なさが出てきてしまう。

 そんな風に思っていると、樹貴が口を挟んだ。


「下の車庫、何入ってんの?」

「車が二台くらいかな。お父さんの趣味」

「へ〜……大きさ的に、片方は四駆?」

「アタシあんま車に詳しくないから知らない」

「ふーん……じゃあ、勝手に見ちゃマズい?」

「うん。少しでも汚れると怒るから。……弟が幼稚園に通ってた時、泥団子ぶつけてマジギレされてた」


 あの時の父親は今でも忘れられない。そして、母親が父親にマジギレして、父親はその日、パジェロで寝ていたことも思い出す。


「父親はどんな仕事してんの?」

「テレビ局」

「へぇ、すごいな。じゃあこの前の職場見学とか、ほんとはテレビ局が良かったりすんの?」

「そんな事ないよ。アタシはそっちで働く気ないし」


 親の後継とか、そういうのは弟がやる。……というか、そうだ。二人を弟や家族に見られるわけにはいかない。二人を、というより、二人と話している姿を、だ。

 そして、二人にもまた家族と話している所は知られたくなかったりする。


「そ、そうだ。二人とも、ちなみに何時ごろ帰る?」

「あー……だよね。確か夜、予定あるんしょ?」

「そ、そう。弟に勉強教えてあげないといけないから」

「ああ、用事ってそれだったん?」

「うん」

「弟君、成績どんな感じなん?」

「上野よりは頭良いと思うよ」

「大沢黙れし!」


 あはは……と笑顔で流しつつも、実際、緋奈よりは賢いとは言えない。


「う、うちお母さんが厳しいからさ、成績はなるべく良くないと怒られちゃうんだよね……だから、弟も怒られないようにしょっ中『教えて』って言ってきて」

「うえ〜……うちと真逆じゃん。アタシなんてママもバカだから『勉強なんて出来なくてヘーキ』みたいに言われてるし」

「良いなぁ……」

「それ、本人にちゃんとやりたいことがあれば、の前提だと思うけどね。そういう話は。勉強を無条件でしなくて良いって話じゃないし、羨む話じゃない」

「うぐっ……う、うるさいし……このクソ真面目……」


 それはそう。都合の良い部分だけ切り取って、聞こえの良い言葉を武器していたら、それなら勉強を真面目にしていた方が良い。

 言われた緋奈は、ぐあっと樹貴に食いかかる。


「大体、アタシはちゃんとここ最近、勉強してるから!」

「いや授業中に聞いてりゃ、わざわざとりあえず家で勉強する事ぁないと思うよ」

「どっちだし!」

「別に勉強しろなんて言ってないから。まぁでも、勉強してんなら、もう次の試験は一人で大丈夫だよね?」

「そ、それはダメだから! 何子供みたいな意地悪言ってんの!?」

「何子供みたいなわがまま言ってんの?」

「んがっ……!」

「ま、まぁまぁ……ぷっ」


 喧嘩になりそうだったので止めるが…笑みがこぼれてしまった。樹貴の格好が原因だろうか? なんか……二人の喧嘩を見ていると笑えてくる。


「? 何? 急に笑い出すとか怖いよ」

「え、何がおかしかったん?」

「ごめっ……そ、その……大沢の格好が格好だけに……いつもより、喧嘩が微笑ましくて……」


 自分の冬用のパジャマなのだが、まさかホントここまで似合うとは……と、樹貴を見て思ってしまう。もうこのまま差し上げたいくらいだ。

 緋奈も、ぷはっと笑いを漏らす。


「確かに……ちょっと微笑ましいかも……!」

「その割にいつもと変わらない様子で怒ってたけどね」

「ね、写真撮って良い?」

「肖像権」

「えー、良いっしょ別に」

「撮るならSNSに載せない、誰にも送信しない、という誓約書を書いた上で印鑑か母印をもらい、もしもの時は訴えられる覚悟もしてもらうけど、それなら良いよ」

「どんだけ厳しい制約をつけられないといけないワケ!?」

「お前みたいな頭の軽い女を相手にするにはそれくらいしないと」

「信用が無さすぎる!?」


 あはは……と、苦笑いを浮かべながら目を逸らす朱莉。やはり、普通に仲悪いのかも……と、思っている時だ。

 緋奈は鞄からルーズリーフを取り出した。


「で、書けば良いの?」

「本当に書くのかよ。どんだけ俺なんかの写真欲しいの」

「うるせーし。……あ、母印どうしよ」

「アタシ、とってくる」


 一度、緋奈は部屋を出て行った。……緋奈が撮った写真、ちょっと自分も欲しいかも、なんて思いながら準備を終えて部屋に戻ると、緋奈は既に書き終えていて、樹貴は自分の部屋の中を眺めていた。


「はい。朱肉」

「サンキュー」

「小野、テレビいじって良い? プレ4見たい」

「どーぞ」

「あ、あと母印はやっぱいらない。そんな個人情報の代表格、俺は保管しきれない」

「「じゃあなんでとりに行かせたし!?」」

「いやああ言えば諦めると思って」


 さて、そんなわけで母印がない誓約書を樹貴に預けて、改めて緋奈はスマホを構える。


「じゃ、撮るよー」

「どうぞ。小野、EPEXいじって良い? 俺こんなでかいテレビでゲームやった事ない」

「え、良いけど……」


 写真撮るんじゃないの? と、思った通り、すぐに緋奈が言った。


「ちょっと、写真」

「撮りたきゃ勝手に撮って良いよ」

「ポーズくらいしろし」

「ゲームやってるポーズ」

「手抜きか! てか、人の家に遊びにきてゲームとかなくない!?」

「遊びに来たんじゃなくて避難しにきたんでしょ。それに、こういう機会がないと小野にゲーム直接教える機会ないし」

「む、む〜……!」


 本当にこいつはどこまでもマイペースである。……もしかしたら、割と今の写真を撮られるの嫌なのだろうか?


「あんた、もしかしてあんま写真撮られたくない?」

「……」


 聞くと、樹貴は黙り込む。この反応……久々の図星だ。

 それは緋奈にも伝わったのか、にんまりと笑みを浮かべる。


「えー、やっぱそうなんー?」

「そうだよ。こんな格好の男が写真を撮られたがるわけがないでしょ」

「照れてるんだ?」

「恥ずかしがってんの」

「う、うん……そうなん……」


 意外……でもないとはいえ、やはりちょっと素直過ぎてどうからかったら良いのか分からない様子。


「でもまぁ、ストーキングしてた上に、急に押し掛けて貸してくれた服だし、文句は言えないでしょ?」

「そ、そう言われると申し訳なくなるんだけど……」

「気にしなくて良いよ。むしろ、申し訳なく思うべきなのは3割俺と7割上野だから」

「なんでアタシの方が多い……いや、アタシが一番悪かったわ……」

「い、いいから……それはもう……」


 少しお通夜みたいな空気になってしまった時だ。樹貴がコントローラを置いて、こちらに向き直った。


「はい。写真」

「え、良いん?」

「本当に流出とかしないでよ。したらありとあらゆる手を使って同じ目に合わせるから」

「わ、分かったし! じゃあポーズ」

「……」


 意外となんだかんだ優しいとこある……いや、空気が重くなったので切り替えただけかもしれない。本当は嫌だろうに、優しいとこある……と、少し感心した時だ。

 その樹貴は、両手首を前方に倒して胸前で構え「がおー」と小声で口ずさんだ。


「ノリノリじゃないの!」

「いや、撮るからにはノッてやった方が良いでしょ」

「可愛いのがムカつく!」

「嬉しくないから言わなくて良い」


 思わずツッコミを入れる中、緋奈のスマホがシャッターを切る。


「よし、撮れた!」

「見せて?」

「これこれ」


 映っていた樹貴を見て、やはり可愛い……と少し苛立つ。

 一方で、あまり興味がないのか、樹貴はサクサクとゲームの準備を始めていた。


「小野、ヘッドホン使われると嫌とかある?」

「え? いやあんまり……」

「なら借りるよ」

「そういや二人がやってるゲームなんだっけ。どんなん?」


 限られた空間だからか、緋奈も興味を持つ。二人で樹貴が座っている床を左右で挟んだ。


「EPEXっていうFPSゲーム。3人部隊20チームに分かれて、最後の1チームになるまで殺し合うゲームだよ」

「え、意外と野蛮……小野ちゃん、そういうの好きなん?」

「いや〜……あはは」


 言えない。オタクに優しいギャルを演出するためだった、なんて言えない。

 一方で、ツキノワさんの格好をしたツキノワ樹貴はヘッドホンを装備したからか、無言のままゲームを開始する。


「大沢は上手いん?」

「上手だと思うよ。見れば分かるけど……」


 今回は野良で開始のため、一人プレイ。樹貴のプレイを見ながら、朱莉は緋奈に解説する。


「まずはドロップシップって言って、マップを船が横断するから、そこから飛び降りるの。……ま、大体はすぐ降りたりすると敵に捕まりやすいし装備も揃わないこともあるから、時間空けてから降りるんだけど……」

「え、降りたけど」


 そう言う通り、降りられるタイミングで樹貴はすぐに降りた。


「ま、まぁ……凄い戦いたがりは降りるかもね……?」

「ふーん……」


 そのまま降りた樹貴は、まずは武器を拾うために建物に入った。


「落下した後は武器ないから、まずは拾うんだ。建物の中とかによく落ちてるから。それで周りの敵から倒す」

「武器が床に落ちてるって……怖っ」

「アタシもたまに教室の机の上の筆箱とか拳銃に見える時あるよ」

「え、だ、大丈夫……?」


 あ、ヤバい。ドン引きされたかも……と、思ったのも束の間、すぐに樹貴が独り言を漏らす。


「あ、やば。武器ない」

「……あれ、武器ないって」

「……ま、まぁそういうこともあるから……でも即降りして武器無かったら死ぬしかない気がするけど……」


 そう言う通り、足音を聞きつけてか敵が迫ってきて、樹貴は逃げるしかない。

 同じエリアに降りた敵は他にもいたため、逃げ惑うしかない。

 後ろから少しずつ撃たれるものの、くねくねした移動で弾の命中率を下げながら、壁を使ったりして移動。


「……あのHPの上のゲージがアーマーの体力。あれがなくなったら、その下のHPが削れて、それがなくなったら死んじゃう」

「なるほどー。二つあるんだ、HP」

「そういうこと」


 しかし……粘る。中々、死なない……と、思っていると、別チームに挟まれる。これは流石に……と、思ったらアビリティを発動した。一定時間、無敵になる代わりに移動しかできないアビリティ。

 それにより姿を消すのと同時に……後ろの敵と前の敵を食いあわせる。その間にスタコラさと逃げ出した。


「なんか……全然、死なないけど」

「……」


 逃げて逃げて、遠くで武器を見つける。ようやく拾ったのは、ハンドガン。アサルトライフルやらライトマシンガンがある世界では少し頼りないという印象。


「さ、流石にハンドガンじゃあの中で戦うのは無理かなー。味方と合流した方が良いかも」

「銃って弱いの?」

「まぁ、連射出来ないし、射程短いし、特別なアタッチメントがないと使えないし……あまり使う人は……」


 それを理解してか、遠巻きにさっきの戦闘を遠巻きで眺めつつ、味方に「敵がいる」とピンだけ差す。

 そして、戦闘が終わった直後、先に仕掛け始めた。何度か撃ち合いをしていると、敵の反対側から味方が突撃。挟み撃ちによって撃破した。


「……」

「なんか……勝ったけど」


 少しずつ……すこーしずつ、朱莉の頬は膨らむ。この野郎、普段と全然、違うプレイングしてくれやがって。お陰で解説が知ったかぶりみたいになっている。

 ちょっと頭にきたので、後ろから首筋を突いてやった。


「うおっ? な、なんだよ……」

「解説が解説じゃなくなるでしょー!」

「いや何の話?」


 すごく恥をかかされた気分で、思わず頬を膨らませてしまう。


「てか、マジ大沢上手いなーゲーム。そんなにやり込んだの?」

「ゲームしか友達がいなかったからね」

「……あの、どうして友達いない人はそういうことを平然と会話に混ぜるの?」

「? そういうこと?」

「……」


 樹貴は分かっていなかったが、朱莉には分かる。なんかちょっと今まで寂しい思いしていました、みたいな話の事だろう。

 自虐ネタで言っているつもりはなかったのだが、聞く側は割とやめて欲しいのだろう。


「大沢、なるべくやめよ? 友達がいないとかをネタにするの」

「え、ネタにならないでしょ、友達いないの……っと、敵だ。ごめん」


 ヘッドホンを着け直し、ゲームに戻る。……改めてこうしていると、やはりあの少年の感性はよく分からない気がする。

 しばらくして、ゲームが終わった。見事に樹貴はチャンピオンを取り、ヘッドホンを外す。


「ふぅ、やっぱ画面デカいとやりやすいな……はい、これ返す」

「あっさり勝ってる……」

「味方が強かったからね」

「……弱くて悪かったね」

「いや、そもそも俺があんま勝つ気あるわけじゃないから。負けるのは構わないよ」


 ……やはり、分からない。価値観が。

 少し怪訝に思う中、緋奈が口を挟む。


「え、小野ちゃんが一緒だと勝てないん?」

「うん。……上野もやってみる?」

「うーん……じゃあ、少しだけ」


 あれ、と少しだけ意外に思ってみたり。まさかやるって言い出すとは……と、少し驚いている間に、樹貴はモードを「射撃訓練場」という練習用モードにした。


「ヘッドホン貸してー」

「いや、今は練習モードにしたから平気」

「へー、そんなモードあるんだ」


 と、そこから先は三人でゲーム。やり方を教えて実際にゲームをやってみて、キル取れたーとか、味方を助けられたーとか、あ、それレア武器じゃん、勝てる勝てるーとか。

 緋奈がいるからだろうか? なんだかあまりイライラする事なく、和やかにゲームをしていた時だった。


「ただいまー」

「……あっ」


 弟が、帰ってきてしまった。


 ×××


「あれ、誰か帰って来た?」

「っ」


 声を漏らすと、隣の朱莉は肩を震わせた。友達の家でゲーム大会とか、小学生の時以来だったが普通に楽しかった……のだが、弟君が来たのならそろそろ解散かもしれない。


「じゃあ、そろそろ帰ろっか。雨どんな感じ?」

「や、割と土砂降りだけど」

「マジかー」

「ちょっと待って二人とも!」


 急に立ち上がった朱莉は、自分達の前に立ち塞がり、両手を前に出して構える。


「? 何?」

「傘貸すから……窓から帰ってくれない?」

「え、どこのスパイ?」

「な、何言ってんの……?」


 思わず樹貴と意見が合ってしまう程度には困惑してしまった。


「お、お願い! 家族には会わないで……!」

「いや、シャワー借りた以上、挨拶しないわけにもいかんでしょ」

「お、弟にしても仕方ないでしょ!」

「家族にするんだから意味ないことは無いと思うけど」


 そ、そんなにシャワーを借りるのってかしこまる必要があるの? と、緋奈は冷や汗をかいたが、何も言わなかった。とりあえず、同級生がそう思っているのなら、自分も同じ考えということにしておかなくては。


「ていうか、普通に考えてここ二階っしょ?」

「いや、一階が車庫だから三階だよ」

「あーそっか。いや、尚更そこの窓から降りるとか無理っしょ」

「うっ……!」


 それはその通り……仕方ない。こうなったら……弟にバレないように外へ連れ出すしかない。


「挨拶は今度、改めてにして。弟、人見知りだからその辺はちょっと……」

「あー……ナルホド」

「じゃあ会わない方が良いか」


 二人とも飲み込んでくれた。大丈夫、両親は帰ってくるの遅いし、弟さえ誤魔化せば何とかなる。


「俺の服は?」

「あー……どうしよっか」

「うん……どうすっかー」


 なんて話しながらも、朱莉にはシンプルな解決方法があった。そして、それは緋奈も同じことを考えているようで、鞄の中からポーチを探し始める。


「? なんか解決方法あんの?」

「あー……その、何。大沢には悪いんだけど……」


 説明しようとした直後だった。ふと、自分の耳が音を捉える。マズい……この音の感じ……弟が来てる!


「ごめん、二人とも隠れて。弟きた」

「え、なんで?」

「いや、弟に会うのそこまでシビアに拒絶しないといけないレベルなの? それもうそういう病いなのでは?」

「人の弟を精神病患者にすんなし! いいから隠れて耳を塞いでて!」

「隠れろったって……てかなんで耳を塞ぐ必要が?」


 二人が見回すが……隠れられそうなのはクローゼットしかない。


「クローゼット!」

「え、二人は無理っしょ……!」

「大丈夫、俺小さいから」

「なんであんたはノリノリなワケ!?」

「いやノリノリっつーか、世話になってる立場だし」

「っ……し、仕方ない……」


 ホント、樹貴の義理堅さには助かる所がある。そのまま二人はクローゼットの中に入っていった。……焦っててちょっとアレかもだけど、よくよく考えたらあの狭い空間に男女二人って大分マズイかも……いや、考えないようにしよう。

 その直後だった。弟が部屋に入ってきた。あとは……念のため、二人に会話を書かれないようにするだけだ。


「姉さん、勉強……」

「その前に、お茶にしましょう? 疲れたままの状態で勉強しても、中々集中出来ないわ。集中出来ない勉強ほど、時間の浪費となる物はないから」

「あ、うん。了解。……誰か来てるの?」

「来てないわ。気にしなくて結構よ」


 そのまま一度、部屋を出ていった。このまま一度、リビングで待っててもらって、その間に樹貴と緋奈を家に帰す……そう作戦を決めた。

 じゃないと、家では淑女で通していて、学校でいる時とキャラが全く違うことがバレてしまうから。



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