第5話 勉強の向き不向きだけは認められない。
グリズリーランド見学が終わり、その次のロングホームルームでは、その見学会での報告書を書くことになる。
そのために、班で意見をまとめ、それを先生に提出するのだ。
そこが、緋奈が孤立することを一番、恐れていた点だった。こういうグループワークにおいて一人であぶれると、そのままずっと孤立する可能性がある。
何故なら「あの時の工場見学マジウケたよねー」という会話ができないから。
こっちはそっちに興味津々だが、向こうはこちらのボッチ二人と組んだグリズリーになど興味ないのだから。
「……」
とはいえ……こっちはこっちで楽しかった。意外とウマが合った朱莉と、ウマはまるで合わないけど、まぁそんなに悪い奴でもなかった樹貴。
一緒に盛り上がったウォーターフォールマウンテン、恥ずかしかったけど面白かった失神、わざわざ撮ってくれたちょっと引くほど上手い写真……あの後も、朱莉がいまだにホラーが苦手だったり、密林クルーズで無粋にも「え、なんで密林にホッキョクグマがいるの?」とツッコミを入れたり、グッズコーナーで三人でつけ耳をして一番似合うのがまさかの樹貴で少し腹が立ったり、ハチミツスペイン茶が何故か美味しかったり、こっそりと一人で園内に入ってた梨奈先生が実に幸せそうにヒグマーと写真撮ってもらっているのを発見したり……正直、話したいことは山ほどあった。
「でさぁ、工場長がめっちゃ面白くて」
「分かる。銅魂読んでて『パトリオット』とか言い出してたのめっちゃ笑ったわー」
「あれ割と工場当たりだったんじゃね? ってなったわ。サッカー部の三人も負けて工場来てたし」
と、話には入れそうにないし、こちらの話を聞こうともしていない。
なんだか、緋奈としても朱莉という存在はちょうど良い。基本的に自分は男が嫌いだが、いつも連んでいるメンバーは彼氏持ちだ。前々から話に入れなくなることも多かった。
……だが、朱莉ならそれも出来る。何せ、朱莉が連んでいる男子は樹貴だけだし、樹貴も……まぁムカつくだけで悪い奴じゃないから、聞くだけなら苦痛ではないから。
だから……次のロングホームルームが楽しみな気がしないでもない。
そんな時だった。教室の扉が開かれる。
「はい、全員席着けー」
梨奈が入ってきて、席に戻る……というか、少し気まずい。
いや、先生には気付かれていなかったが、ヒグマーと写真を撮っている梨奈はもうまんま見た目の通り幼く見えたから。突撃しようとした樹貴を拳骨で止めてしまったほどだ。野郎は本当に恐れを知らない。
さて、教壇に立った梨奈が軽く手を叩きながら、全員に言った。
「じゃあ、この前の職場見学のレポートを書いてもらいます。班ごとに席座れー……あ、ごめん。その前にアレだ、日直号令」
担任を持って2年目だからか、割とまだ不慣れな様子だが、それがまた可愛くて生徒からは人気である。
日直の号令を終えたあと、改めて班ごとに座る。
「こことここの列が工場、こことここがテレビ局で、残りの二列がグリズリーにしようかー」
とのことで、指定された席に向かった。自分のクラスにもグリズリーに向かった生徒はいたが、あまり関わりある人達ではない。
とうとう、ギャルチームとも引き離されてしまった……なんて思いながら合流した。
「小野ちゃん、大沢〜……え、二人ともどうしたん?」
くっきりとクマが目の下に出来ていた。二人揃って。
「……だからさ、小野……お前、やられてもやり返せる実力ないんだから熱くなるのやめてよ……」
「ご、ごめん……もうしない……」
「……ゲーム?」
なんかグロッキーだ……もしかして、夜中までやっていた? なんていうか……本当に二人揃って上げて落とすのが上手い人達だ。
「何、そんな遅くまでやってたん?」
「3時まで……」
「ゲロ眠い……」
「うーわ……大沢、あんたあんま女の子遅くまで付き合わせんなし。夜更かしは美容の大敵だから」
「言われてるよ、小野」
「うう……ごめん、上野さん……付き合わせてたのはアタシの方……」
「何してんの……」
てっきり逆だと思ったのだが……まぁ、なんにしてもやめた方が良い。
とりあえず席に座り、当日に配られた書類を机の上に置く。
「ほら、二人とも起きろし。これ終わらせないとだから」
「大丈夫……ヒグマーと写真撮ってる先生の姿見せれば待ってもらえるから……」
「撮ったん!?」
「だから少し寝かせて……」
「私も……」
「あ、ちょっ……!」
二人とも机の上に伏せる中、先生によってプリントが配られた。
「二人とも起きろー。ロングホームルームだからって寝て良いとかないぞー」
ぽこっ、ぽこっと軽く頭を紙で叩きながら、梨奈は別の机に配りに行く。
仕方ないので、先に緋奈がプリントに目を通した。クラスと名前、そして見学地が書かれていて、下の白紙の部分に自由に文章なり図なりを記述すれば良いらしい。
……ちょっと自分一人の手には負えないかも……と、思いながら、二人を見るが、二人とも身体は起こしているものの、ほとんど死に体だ。
せめて二人が持っている当日配られたプリントに目を通した。何かメモ書きでもないだろうか? なんで自分は全く書いていない癖に期待しながら、まずは朱莉の方を見る。
ちょいちょいマーカーとかで大事そうな所にラインを引いていた。
これは使える。この線が引いてある部分を文章っぽく改造すれば良い。やはりこの子も根は真面目なのかもしれない。
「……一応こっちのも見るか」
樹貴のメモ書きを覗く。まぁあんまり期待しちゃいけないかもしれないが……と、思いながら見ると。
「えっ」
びっしりと書かれていた。それはもう引くほど。マーカーによるラインとかそんなレベルではなく、メモ書き、この部分はどうなっているのか、これをやる意味はどこにあるのか……場所によっては、話してくれた社員さんの豆知識みたいな事まで書いてあった。
「……ガチ過ぎる……」
もしかして、グリズリーが好きなのだろうか? それとも、このレポートのためにわざわざ? どっちにしても「すご……」と思うしかない。
これがあれば、ぶっちゃけもうレポートまんまになる気がしてきたので、借りることにした。
「……仕方ない。アタシ書くから」
「よろー」
「しくー」
確かに、この男はただムカつくだけじゃないかも……そんな風に思いながら、ペンを動かした。
×××
身体を起こしたまま5分くらい寝ていたからだろうか? ようやく頭が冴えてきた朱莉は、目を擦りながら軽く伸びをする。
目に入ったのは、一人でレポートを書いている緋奈の姿。
「ごめん……寝ちゃってた……!」
「大丈夫。もう終わるし」
「え?」
もしかして、人らで終わらせてくれていたのだろうか?
やばい、申し訳ない、と一気に目が覚める。
「そ、そうはいかないわよ。私にも何かさせて!」
「じゃあ……誤字脱字ないか見てくんね?」
「了解!」
良かった、仕事は与えられた流石に班行動しているのに何もしないのは申し訳ない……と、思いつつ……ていうか、と辺りを見回した。
「……大沢は?」
「さっきアタシが作ったレポート見て『頭痛くなってきた』って言ってトイレ行った。あいつマジ腹立つ」
それは確かに失礼かも……と、思いながら、とりあえず緋奈が作ったレポートを見ると……思わず半眼になる。
カラフルなペンを使い、丸文字や顔文字をふんだんに使い、やたらとキラキラテラテラしたものになっていた。ちょいちょい、グリズリーのキャラが書いてある。
図自体は分かりやすいけど、文字が所々、読みづらい。
確かに……痛くなるかも。頭。
「ど?」
「お、終わってから読むね……」
ギャルって……レポートまで可愛く見せないと気が済まないのだろうか……?
まぁでも、それはさておき絵がうまいのは驚きだ。ちゃんとツキノワさんとか、ヒグマーとか違いが分かるように書き分けられている。
「絵、うまいんだね」
「まぁ昔からグリズリーのキャラはよく描いてたかんね」
そうなんだ、と少し目を丸くする。あんま絵とか興味ないと思ってた。
「好きなんだ、グリズリー」
「うちにDVDとか結構あるし」
「へぇー、推しは?」
「良いん? 語ると長いけど?」
「うん。良いよ」
友達……或いは彼氏を作るには、話が聞けるようになることであることは知っている……のだが、何故か緋奈は少し目を丸くしていた。
「? ど、どうしたの?」
「何でもない。じゃあ、推しの話だけど……」
「終わった?」
そんな中、樹貴が戻ってきた。手をハンカチで拭きながら、軽く伸びをしている。
「もうちょい」
「相変わらず異次元みたいな色合いのレポート作ってんなお前」
「は? 別に良いっしょ。可愛くね?」
「せめて黒と赤と青の三色にしてよ。目が痛いんだよ」
「はーあ……あんたみたいな地味なインキャには分かんないか……」
「多分、誰にも分かんない。使ってる色がグリズリーの代表キャラのイメージカラーとか誰も気づかない」
え、そうなの? と、朱莉が止まったのとほぼ同時。緋奈も驚いたように声を漏らした。
「あんたわかんの!? ……え、もしかしてグリズリー詳しい系?」
「いや? でもこの前行ったアトラクションの看板の色とほぼ一緒だったから」
「よく見てる……キモっ」
「この報告書には負ける」
「あんたが書いた奴を参考にしてんだけど!?」
「それをよくこんなタイムスリップ中の景色みたいに出来たね。将来の夢はタイムマシンでも作ることなの?」
「ま、まぁまぁ二人とも落ち着いて!」
慌てた様子で二人の間に入る朱莉。本当、こんなことで喧嘩するのはやめて欲しい。
……というか、参考は大沢のなんだ、と思いながらその原本となったものを見せてもらうと、自分と同じプリントが配られたとは思えないほどびっしり書き込まれていた。
黒一色だが……これはこれで読みづらいな、まぁメモ書きだから仕方ないが。
これをよく(ここまでカラフルじゃなきゃ)綺麗にまとめたものだ。もしかしたら、こう言う要約するプリントとか作るのは得意なのかもしれない。
「でもほら、これ読むの先生だし……先生なら色合いとか、グリズリーカラーなの気付くかもだし、良いんじゃない?」
「……まぁ、それはそうかもだけど……」
「ほれ見ろー?」
「先生が気付く前提だけどね」
「気付くっしょ。絶対好きだし」
「気付いても許可を得られるとも限らないし」
「……は?」
「はい、とりあえず完成させよう!」
なんとか誤魔化して、作業を続けた。
×××
……で、放課後。職員室。
「見づらい。やり直し」
「「「……」」」
三人揃ってそれを言い渡され、樹貴と朱莉と緋奈は顔を見合わせる。……そして、樹貴がスマホをポケットから取り出し、無言で操作する。
「ちょっとー、呼び出し受けてるのにスマホいじるとかなめてるー?」
「先生」
「何ー?」
「これ、どうしましょう?」
例の写真を見せた直後、梨奈の髪が逆立ったように見えるくらい全身が震え上がった。
「……」
「……」
「今回は見逃してあげるー。……からー、私にだけ送ってすぐに消してー?」
「取引成立で」
写真は欲しいんかい、と三人揃って思いながら職員室から出て行こうとした。
「三人とも、そういえばそろそろ試験だから。その辺しっかりね」
「はーい」
よし、とりあえず任務完了……さて、今日は解散だが……先生、良いこと言った。もうすぐ中間試験……つまり、勉強を樹貴に教えてあげられる。
オタクに優しいギャル的に「意外とギャルのが勉強できる」と言うのは定番であり、逆にオタクは意外と勉強が出来ない。……後は、一緒に勉強の約束を取り付けるだけ……と、思い、実行してみることにした。
「大沢ー、この後暇? 一緒に勉強しない?」
「しない。一緒に勉強してどうすんの? 意味あるのそれ?」
まぁそうなるよね、と思いつつも、頑張って話を続ける。
「教えてあげるよ? こう見えてアタシ、10科目合計で800点以上は取ってるから
「あそう。俺は870点だけど」
こいつ、賢いのかよ……と、プルプルと拳を震わせる。なんでこんなに隙がないのこの男……と、少し困る。……というか、自分はこれより成績が悪い? 嘘でしょ? と、プライドさえ傷つき始めた。
そんな時だった。
「え……二人ともそんな成績良いん?」
緋奈が何故か絶望的に見える表情で自分達を見ていた。
「え……上野さん、成績悪いの……?」
「わ、悪くないし! 現文は65点だし!」
それが一番、良い点数ってこと……? と、少し雲行きが怪しくなる。
現文が一番得意ということは、おそらく文系に進むのだろう。ならば、数学系はまぁ良いとして……。
「英語は?」
「……」
「……頑張ってね」
「教えて! お願いだから!」
いや、別に良い。友達との勉強会とか、割と憧れてはいたし。でも違う、あなたじゃないの、それをやりたかった相手は、と内心で少し悔しさを滲み出す。
「じゃ、頑張って。俺は帰るから」
「か、帰んの?」
「? うん?」
「あ、アタシ文系苦手だから、そっち教えてあげてよ」
いや、樹貴が文系得意とは限らないけど、と内心で思い浮かべながら聞く。文系であってくれないと困るが……と、懇願する思いだったが、まぁそもそもなんでも出来そうなイメージはあるので問題ないと信じたい。
「てか、上野は他に友達いるでしょ。そいつらに教えてもらいなよ」
「みんなアホだから無理だし。勉強会でも、結局雑談とかになるに決まってんじゃん」
「え、その雑談まみれの勉強会に誘って何する気だったの?」
「今回はガチだから!」
「……てか、俺に教わるの嫌じゃないの?」
「去年、補修でグリズリーのサマーフェス初日行けなかったの!」
つまり、背に腹は変えられないわけだ。それなら手伝ってあげて欲しいな……と、チラリと樹貴の方を見る。
「ほら、やる気はあっから! 文房具、全部グリズリー製品だし!」
「それやる気と関係ない」
自信満々にペンケースを取り出して自慢する緋奈を見る。
……空回りしそう、と思いつつも……まぁここで恩を作って友達になっておくのも良いかもしれない。
「ほら、大沢。またフェルソナカフェ行けば……」
「期間限定に決まってるじゃん、ああ言うコラボカフェは」
「あっ……じ、じゃあ、飲み物一杯だけ奢るから……」
「なんで上野に勉強教わってお前に奢られなきゃいけないの。ちょっとそういう真似は出来ない」
「なんで変なとこ義理固いの!?」
「ていうか、それはアタシもやめて欲しいし」
緋奈にまで断られた。
ダメだ、やはりこの野郎に勝てない……と、肩で息をし始める。本当に変な男である。
そんな時だった。樹貴が「はぁ……」とため息を漏らした。
「ま、いいよ。教えるくらい」
「マ!? え、あんた良い奴なの?」
「ただし、条件がある」
「何?」
「教えるからには、お前にはせめて平均点は超えてもらう。俺の貴重な時間を使うわけだから、無駄な時間は過ごしたくない」
そう言いながら、緋奈がさっき取り出したペンケースを樹貴が手に持った。
「それくらいの緊迫感を持ってもらうために……この中のグリズリーグッズ、50点を下回る科目一つにつき一本、へし折ります」
「は!?」
「その代わり、俺も責任持って教えるので、俺もその時は……そうだな。家に置いてある漫画、新しいものからちり紙交換に出します」
「なんでそこまでするん!?」
「いや時間を使って時間を借りるならそれくらいしたいのが俺の流儀なんで」
本当に変に義理堅い男である……が、まぁそれは悪いことではないので……後は、緋奈次第……と、チラリと顔を向けると、なんかやたらとやる気な顔になっていた。
「よし、やってやるし!」
「言っとくけど、俺厳しいよ」
「上等だから!」
「じゃあまず計画からね」
「ケーカク?」
急にやる気あったはずの表情が曇る。
「勉強しないん?」
「闇雲にやってどうすんの? バカなのに。時間で終わらせる勉強じゃなくて、一日にやる範囲を決めて覚えるまで終わらない勉強にするから」
「え……」
「大丈夫、試験まであと一週間半。それまでには終わらせる」
「……」
あ、緋奈が涙目でこっち見てる。ごめんて、と朱莉は頭を下げる。まさかこうなるとは……せめて、自分も付き合う。
「あ、アタシも付き合うから」
「あっそ。じゃあ、とりあえず今日は計画な。図書室でルーズリーフに表にして書いて」
「へいへーい……」
そんなわけで、勉強会をやることになった。
×××
さて、そんなわけで早速、勉強会に入ったわけだが……まずは計画。緋奈はひとまず立てたものをルーズリーフに書いてみせてみたが……。
「……ふーん、一日放課後二科目が限界……」
「あ、あんたがアタシに決めろっつったんじゃん」
「いや、良いよ別に。人によって覚えられるキャパは違うし」
意外とその辺の理解はあるんだ……と、思い、朱莉と目を丸くして顔を見合わせてしまう。
「ところで、一応聞いとくよ」
「何?」
「英語で『あなたは野球をしたことがありますか?』って言ってみて」
「えっ……え、英語?」
「そう、英語で」
き、急に言われても……えっと、したことがある、だから過去形で……。
「わ……わずゆー……?」
「分かったもういい」
「最後まで聞けし!?」
ワズユープレイドベースボールであっているはずなのに、なんで遮ったのか?
少しムカついている間に、ふと隣を見る。朱莉が小刻みに震えているのが目に入った。
「な、何笑ってんの!?」
「ごっ、ごめっ……ぷはっ……! ……わ、Was youはない……!」
そ、そんなに自分はおかしいことを言った……? と、顔が赤くなる。真面目に答えたことが、同じ授業を受けている同級生に笑われてる……と、思うと死ぬほど恥ずかしかった。
「じゃあ次の問題」
「や、もうやめろしなんか……!」
「判官贔屓という諺があるが、それが元になった人物は誰か、理由も含めて答えよ」
「え? それ牛若丸っしょ? 立場が弱い人と強い奴がバトると、なんとなく弱い奴を応援したくなるーみたいな。頼朝に殺された義経が判官って地位だった頃から取られた的な感じじゃなかった?」
「正解」
「ふっふーん、そんくらいならラクショーだしマジで」
「よく出来ました」
「何様!?」
ドヤ顔で返すも、樹貴は顔も上げずに適当な褒め言葉を返して何かメモをする。
そのまましばらく問題を出された。国語数学社会英語理科から一問ずつ。
そして、解決したのか軽く手を叩いた。
「よしっ、社会系と国語系は自分でやれ」
「は?」
「数学系と英語を教える。それくらいまずい」
「特化させるほどダメなのアタシ!?」
「うん。Was youはない」
「小野ちゃんまで酷い!」
もー! と、肩をポカポカ叩かれるが、それは中学の頃から何してたのかわからないレベル。まだ、Ware youなら分かる。いや分からんけど、最大限譲歩して分かる。
けど……褒められる点が「過去形を忘れなかった」ってだけなのはもはや笑うしかない。なんなら「代名詞間違えなくて偉いね」と褒めてあげたくなる。
「ま、そういうわけで、全教科50点以上頑張って。大丈夫、ちゃんと面倒見るから」
「……」
なんか……改まって思った。これはとんでも無いやつに頼んでしまったのかも、と。
でも……ここまで面倒見ようとしてくれるなんて、やはり悪い奴ではないのかもしれない。ムカつくけど。
それに……夏のグリズリーサマフェスには死んでも行きたいし、ここは踏ん張るしかない。
「よし……やってやるし……!」
「頑張ってね、上野さん……!」
「うん、超頑張る!」
「とりあえず、英語は文法からね。ワズユーとか次、間違っても言ったら耳からドライバー通して頭のネジ閉めるから」
「地味に怖いこと言うのやめろし! てか本当に違うのそれ!?」
いや……やっぱり涙目になってる自分を見て愉しむ、ただのドSマスターなのかもしれない。
「終わったら、三人でまたグリズリー行くかんね」
「お、良いね!」
「俺はいいです」
「気絶するから? ダサッ」
「合格点100点にしてやろうか?」
「それあんたでも無理でしょ!」
とりあえず、やる。そう決めて勉強をした。
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