第4話 人は一面だけじゃない。
職場見学の後は、職場を見てわかったことを三人でレポートにまとめる。だから、なんだかんだ大沢樹貴とかいう陰キャラと協力しないといけないのは、仕方ないのかもしれない……と、思いつつも、ジャン負けした上野緋奈は、自分を憎たらしく思う。
本当になんていうか……ついていない。しかも班員の男の性格は最悪だ。
「はぁ……」
だから、職場見学も楽しくなさそう……と、思いながらも、集合場所に集まる。
正直、憂鬱……なんて思いながら、グリズリーランド見学を志望した生徒達の中でのんびりしていると、小走りでかけて来る影が見えた。
「う、ううっ、上野さん……!」
見た目の派手さだけなら自分にも引けを取らない、小野朱莉だ。化粧もリップ程度しかしていないのにギャルの自分から見ても可愛いと思う。
でも……なんかこう……なんか、この子はギャルじゃない気がする。見た目だけギャルっぽいけど、なんかやたらと背伸びしている様に見える。
や、同い年で同じ事しているのに人のこと言えないだろうが……何故だろう?
「小野ちゃん、はよーっす」
「お、おはよう……!」
……なんか普段、学校で樹貴と話している時と大分違う。あの時は割と砕けた話し方をしていたはずだが、何故かガチガチに緊張されてしまっていた。
いや……まぁ、なんとなく察してはいるが。だって、あの男と自分はアレ以来、口を聞いていないし、その唯一口を聞いた初コンタクトでギスったのだ。緊張しない方がおかしい。
まぁ、その為にもとりあえず声をかけてあげることにした。
「ね、小野ちゃん」
「は、はいっ……!」
「そんな緊張しなくてイーからさぁ、せっかくだし仲良くしよ?」
「っ、よ、よろしくお願いします……!」
あれ、これ普通にコミュ障なのだろうか? いや、ていうかその可能性も元々、無きにしも非ずだ。何せ、友達があの樹貴以外にいないくらいだったのだから。
……良い機会だし、彼女とも仲良くなろう。そして、なんならあの男との縁を切らせてやろう。だってあんな性格悪い奴と関わりたい女子なんて普通はいないし。
「ねぇ、因みになんけどさぁー、あの大沢って奴は何なん?」
「え、何って……?」
「いや、この前喧嘩売られたし」
「あー……」
まぁ……今にして思えば自分の言い方に問題があった気がしないでもないが……でも、なんかああいうカースト最下位の奴に生意気な口を叩かれると腹が立つ。
……特に、自分が嫌いな男に言われると尚更だ。
少し迷った様に腕を組んで考え込む朱莉。てっきりボッチ同士が集まっているだけかと思ったが、もしかして友達ではあるのだろうか?
「ま、まぁ……少し変わった子ではあるよね……。正直過ぎるし、合理的過ぎるし、あれで頑固だし」
「トータルするとガキってことっしょ? 高校生にもなって人付き合いできないとかないわー」
多分、今まで友達とか出来たことないのだろう。正直、いじめてやろうかと思ったくらいだ。
そんな中、朱莉が相変わらず緊張気味の表情を浮かべたまま呟いた。
「でも……あいつが言ってることはね、ムカつくけどあんまり間違ってもないんだ」
「は? 何処が?」
「あ、あーいや……アタシと話してる時だけかもしんないんだけどさ! ……だから、アタシはあんまり嫌いじゃないって言うか……」
「……ふーん」
なんだ、向こうの肩を持つんだこの子……と、思いつつも、何となくこの前、言われたことを思い出す。
確かに……まぁ、書きに行くのが面倒で樹貴に行かせようとした感は否めないし、それに対して言い返して来るのも当たり前と言えば当たり前かもしれないが。
でも……やはり腹は立つ……ていうか、もう集合時間まで3分だけど、何をしているのだろうか?
まぁ、何にしても……あの男の事よりも、だ。目の前のギャルもどき、割とあの男にいつも怒鳴っていて仲良いわけでもないだろうに、庇ってあげている。
「……小野ちゃんさぁ」
「っ、な、何……?」
「可愛いじゃん」
「へっ……!?」
「ぎゅーっ」
「わっ、ぷ……!」
思わずハグをしてしまった。ちょっとムカつくくらい可愛い子だけど、だからこそなんか健気に見えて好きになった。
「ね、今日終わった後、二人でグリズリー行かん?」
「え……あ、アタシも……?」
「そー☆ ……あ、予定あんならいいけど」
「な、ない! 行く!」
よっしゃ、と小さくガッツポーズ。……この機会だ。彼女のことについて色々と知ろう……と、思っている時だ。
「ふわあぁぁ……ぁ、いた」
気の抜けた声が二人の元に届く。顔を向けると、そこにいたのは樹貴。相変わらず顔だけは可愛い男だ。……まぁ、だからこそ尚更、性格の腹立たしさに拍車をかけているのだが。
その樹貴に、朱莉が声を掛ける。
「あ、大沢。遅いから」
「1分前だけどね」
「5分前行動を習わなかったわけ?」
「いや、基本的に俺、社会科見学とか遠足とか修学旅行の前説って聞かないんだよね。書いてあることしか言わないし」
「5分前行動をその前説でするって分かってる時点で習った記憶あるでしょ!」
「ないなんて言ってないでしょ」
「じゃあなんで言い訳した!?」
「ごめんね」
「結局謝ってるし! 今の意味のない時間は何!?」
……あれ、やっぱり仲良いのだろうか? なんて少し思ってしまう。この二人が話すようになったのはほんの数日前だったと思うが……なんか、コントでも見せられている気分だ。
何故、朱莉はこの男に対してはこんなにガンガンいけるのだろうか?
……いや、何となく分かるが。こんなひ弱そうで友達もいなくてスクールカースト最底辺の代表みたいな男の子が、信じられないほどの毒をぶちかまして来るから、言い返したくなるのだ。
「え……二人とも、仲良いん?」
「良くない!」
「家でよく一緒にゲームやってるけどね」
「え」
「どっちかの家でゲームやった、みたいか紛らわしい言い方すんな! オンラインゲームでしょうが!?」
それ結局やってるじゃん、と思わないでもない。なんていうか……思ったよりも仲良しに見えるから。
そんな中、先生が集合している生徒達に声を掛けた。
「全員、集合ー」
グリズリーランドの引率は、中野梨奈先生。全員に声を掛けた。
「これからみんなで、グリズリーランドのグリズリーリゾートで講演を聞いてもらいますー」
との事で、とりあえず引率の先生に従った。
×××
見学会、と言うより、本当に講演会だった、というのが感想だ。資料を配られ、話を聞き……特にアトラクションが新しく出来る過程などを詳しく知ることができたのは面白かったが、残念ながら「現場の面白さを体験」のようなことは無かった。
でもまぁ、それは行く前から分かっていたことだし、朱莉としては特に何も不満もない。
さて、そんなわけで……いよいよ楽しい時間である。
「グリズリーだー!」
「し、知り合いとは初めて来た……!」
友達を作る良い機会……とは思っていたが、まさか本当にこんな事になるとは。
正直、自分はコミュニケーションが得意ではない。ギャルっぽい口調を作ってはいるが、ふとした時に標準語が漏れることも少なくない。
本当は彼氏と同じくらい友達も欲しいのだ。ギャルグループに入ってキャッキャウフフして、彼氏を捕まえてダブルデートする……みたいなのに憧れていた。
しかし、コミュニケーションが取れないとそんなのは無理だ。特に、自分より気が強そうで見た目も派手な人相手では全然、うまく話せない。
だから正直、樹貴が一緒にいてくれるのはありがたいかも……なんて思った時だった。
「じゃあ俺は帰るから」
「えっ、か、帰るの!?」
そんな聞き捨てならない言葉が聞こえて、思わず反射的に顔を向ける。
「え、いやだって今日はもう解散でしょ? 俺がいると二人とも邪魔だろうし」
「い、いや……」
むしろいてくれないと困るんだけど……と、冷や汗をかく。二人きり、と言うのはちょっとハードルが高い。
それに……その、何? オタクに優しいギャルとしては、ここは明日も良い場面だろう。
「良いじゃん、遊ぼうよ〜」
「こう見えて忙しいんだよ。今日はこの後、椎茸の栽培をしないといけないから」
「それ絶対嘘でしょ! なんであんたが椎茸の栽培すんの!?」
「それくらい忙しいってことだよ」
「いやどれくらい椎茸の栽培が忙しいのか知らないし! そもそも椎茸で例える理由も意味不明だし!」
なんでこの男、こんなにこっちの思い通りに動いてくれないのか? 普通の男なら羨ましがる所だ。こんなに可愛いギャル二人とグリズリーランドで遊べるのだから。
オタク男子でも、内心では「役得かも……」なんてソワソワする所なのに……と、少し困っている時だった。
「何、あんたもしかして照れてんの?」
口を挟んだのは、上野緋奈だった。そういえばこの子、樹貴とずっと仲悪かったはずなのに、今日は割と静かだったな、と今更になって思う。
「は?」
「暇なんだから来れば良いでしょ。友達付き合いも出来ないん? それとも、美人二人と一緒は緊張しちゃう? 意外と可愛いとこあんねー」
「なんで美人二人だと緊張すんの? まだ目の前にゴキブリがいた方が緊張するわ」
「は? 何ピチピチのJKと害虫を比較してんの?」
せっかくフォローしてくれたのにまた喧嘩腰に……気まずさで言えば、やはりいない方が良いか? とも思ったが、でも緋奈の方が歩み寄ろうとしてくれているし、ここはそっちを尊重したい。
「そうだよー、大沢。それに、レポートを書くならこういうところの経験も含めた方がより良いものが書けるんじゃない?」
「……」
言ってみると、予想通り少し考えた。この男が真面目なのはなんとなくわかっていた。
だから、こう言えば少しは考えてくれるかも……そして、それは当たりだった。
「……分かったよ。俺も行く」
「はい、決まりー」
「最初から素直に言えば良いのに。……めんどくさいオトコ」
「面倒臭いのはお互い様じゃね。その一々、憎まれ口叩かないと気が済まない辺りとか」
「は? あんたが言うなし」
「ほ、ほら! チケット買いに行こう!」
慌てて二人と入園チケットを買いに行った。やはり、割とこの二人と一緒にいるのは疲れるかもしれない。
×××
入園してから、朱莉は思わずテンションが上がってしまった。
「すっごー! シンドケヤ城!」
「ねー! マジあれ見るだけで上がるわー」
「あんなのあるんだ、グリズリー」
「え、知らないの?」
「知らない。グリズリー自体初めてだし」
「「えっ!?」」
それは驚いた。そんな学生がこの世にいるなんて思わなかった。乗り物が楽しいからグリズリーに興味なくても行くって人は多いし、家族旅行とかで来たりしなかったのだろうか?
「ほ、ほんとに高校生……?」
「え、何が楽しくて生きてたの? 今まで……」
「? お前の楽しみはグリズリーだけなの? それで良いの人生?」
「ゲームオタクに言われたくないし!」
「ほ、ほらほら! それより、早く園内回ろ? まず何乗ろっか?」
喧嘩が始まる前に二人を促してアトラクションへ向かった。
まず向かったのは、いきなりジェットコースターから。
ジェットコースターは大好きで、昔はよく弟と一緒にはしゃいだものだ。
「よし、乗ろう!」
「これはどうやって楽しむものなの?」
「別に決まりなんてないから。とりあえず座って普段感じられない爆速の中で風を感じるだけ」
「ふーん……」
なんか……宇宙人が人間のふりして学園生活を送る系の漫画の主人公に見えてきて、少し困る朱莉だが、その手を緋奈が掴んでジェットコースターの方へ連れ出した。
「ほら、乗ろ」
「あ、うん」
平日だからか、あまり並ばずに済み、すんなりと順番になった。
三人でシートに腰を下ろす。横に二人までしか並べないので、自分の隣には緋奈が座り、後ろの席に樹貴が座る。
さて、上から安全バーが降りてくる。
「この安全バーが降りてくる感じ……すごく懐かしい」
「あんま遊園地とか行かない系?」
「ううん、行く友達がいないだけ……や、なんでもない」
「あー……ごめん」
しまった……いらない自虐を言ってしまった。
「後ろのとは行かないん?」
「まだ知り合ったばかりの男子と二人で遊園地は流石にいけないかな……」
カフェには行ったけど、という余計な情報は飲み込む。あの時はまだオタクに優しいギャルというものがわかっていなかった。……今もオタクをドギマギさせられていない以上、分かっているとは言い難いが。
「アタシも、ぶっちゃけあんま男と遊んだことないし」
「え……そ、そうなの?」
「何その反応。そんなに遊んでそうに見える?」
「い、いやそうじゃないけど……」
そうです、どう見ても遊んでそう、と思っても口にはしない。友達を作るチャンスに、そんな毒はいらないから……。
「え、お前だって彼氏とか五人くらいいそうじゃん」
「……は?」
「大沢黙りなさい!」
なんで火に油を注ぐようなことを言うのか。ドン引きである……が、その直後だった。ジェットコースターが動き始めた。
よし、このタイミングで今のバカの小言を誤魔化そう。
「うわっ……や、やっぱりここだよね……動き出し。ここすごくドキドキする」
「あーめっちゃ分かるわそれ。この緊張感が良いんだよね」
「っ、う、うん……最後に乗ったの中一の時だから、久しぶり……」
「じゃあ……上がってる感じ? なんかこう……バイブス的な奴?」
「そ、そうかも……?」
ば、バイブス……? よく分からないけど、まぁテンション的な何かなら上がっている。もうグングンだ。
……さて、まぁここまで一緒にいたわけだが……意外と、悪い人ではなさそうだ。いや、元々悪い奴と思っていたわけでもないが、樹貴に対する当たりの強さから、割と棘のある性格なのかな、とは思っていた。
でも、話しやすいし可愛いし気にかけてくれたりするし可愛いしで、普通に良い人だ。
何にしても……友達っぽい人ができて良かった……なんて思っている間に、乗り物は坂道に差し掛かった。
このジェットコースターは「ウォーターフォールマウンテン」と呼び、ツキノワさんというツキノワグマがテーマの作品な訳だが、コースターが奥に向かうにつれ、内装に設置されたフィギュアの物語を楽しめるようになっている。
そして……坂道が上がり切った後、一気に滝の下……すなわち水の中に突っ込む……というコンセプトだ。
「おお……キタキタ……!」
「ちょっと怖いんだよね……この辺が」
何せ、最後の水の中に突っ込むところが一番の売りであり、恐怖ポイント。だからこそ、この感覚を楽しむものだ。
「ね、小野ちゃん」
「な、何?」
「ここだけの話さ……最初にこれ乗った時、アタシ小二だったんだけど……気絶したんよね」
「え、そ、そうなの?」
「めーっちゃ急降下の直前、怖くて。上から、これから落ちる水面見た直後にクラッて。生まれて初めて失神したわー」
意外……この人も、気が弱かった時があったなんて。少しおかしくて、クスッと笑みを浮かべてしまった。
「ふふっ、可愛いね」
「あー、今バカにしたっしょ?」
「し、してないよ。アタシも、ダークフォレストエンカウントでおねしょした事あるし……あっ」
しまった、茶化したと思われたくなくて余計なことを言った。
……のだが、意外と緋奈は「いやいや」といった表情。
「いやあれは子供なら誰でも漏らすっしょ……夜の森で出会うクマのホラーアトラクション、リアル過ぎるから……」
「あれ、絶対子供向けじゃないよね……トラウマになってしばらくキャンプとか行きたくなくなったし……」
恐怖の方向性がおかしい……今でこそマイルドになったらしいが、二人が小学生の時にあったその乗り物はガチで大人を泣かせにかかっていた。
そんな少しゲンナリしている時だった。ようやく坂道。
「来た……降りる……!」
「小野ちゃん、両手ちゃんと上げて」
「う、うん……!」
その直後だ。もはやそれはこの乗り物では暗黙の了解になっている……いわば共通的無意識。
乗客のほぼ全員が両手を上げ、一気に声を上げた。
「「「「きゃああああああああ!!!!」」」」
ドッボーン☆ と、ぐしょ濡れになる勢いで水の中に突入した。
水飛沫が思いっきりかかり、それと同時にコースターの勢いは少しずつ緩やかになる。普段、髪が濡れるのは抵抗がある人も、本当ならあまり濡らしたくない服を着ていた人も、みんな揃って満足げだ。
何せ、これが楽しくて乗っていたのだから。そこで「あっ」と朱莉が声を漏らす。
「どしたん?」
「虹!」
「わ、ガチじゃん。エモっ」
「写真撮りたかったなー」
「流石に無理っしょ〜」
そんな話をしながら、その後はあっという間だ。元の位置に戻る。その間にウォーターフォールマウンテンの物語は完結し、下車する時間になった。
安全バーが上げられ、スタッフさんが声をかけてくれる。
「はい、お疲れ様でしたー。足元にお気をつけてお降りくださいー」
それを聞いて「終わった」と言う感じが焼き付いた。
軽く伸びをしながら立ち上がっていると、緋奈が聞いてきた。
「もう一周しない?」
「え、もう一周って?」
「同じのもっかい乗るって奴。……え、やらん? そういうの」
な、なるほど、そういうのもあるのか、と少し感動。最近の女子高生、と言うものを学んだ気がする。
「じ、じゃあ……乗ってみようかな」
「っし、良いね〜。じゃ、並びに行こ」
「うん。……大沢、行くよー」
いまだに座り続けている男に声を掛ける。……というか、こう言う乗り換えはスムーズにしないとスタッフに迷惑だと思う。知らんけど。
何故あの野郎は微動だにしないのか?
「ちょっと、大沢。聞いてんの?」
「ほっとけば?」
「いや、スタッフさんに迷惑でしょ多分。……大沢ー」
ちょっとシカトに腹が立ち、強引に起こしてやろうとした時だ。目は開いているが、その顔を見て思わず悲鳴をあげそうになってしまった。
何故なら……白目を剥いて失神しているから。
「きゃああああああ!!」
「え、どしたん……ひえええええええ!?」
悲鳴をあげそうになったと言うか、あげてしまった。
あまりにグロテスクな失神に、死んでいるのかと思い、二人の絶叫が響いた。
×××
「超恥ずかしかったんだけど!」
「俺は気絶してただけだから。悲鳴あげろなんて言ってない」
「飲み物奢ってもらっといて何その言種!?」
「ごめんね、ありがとう」
緋奈と朱莉からの苦言を聞かされた樹貴はとりあえず謝る。
その様子を眺めながら、緋奈はニンマリと笑みを浮かべた。
「ぷふっ、だっさ〜? 高校生にもなってジェットコースターでビビって失神するとか?」
「え、ジェットコースターって何歳なら失神しても良いの?」
「いや知らないけど……小二くらい?」
「あ、上野って小二でジェットコースターで失神したんだ」
「……っ!」
こいつ……ほんとに腹立たしい奴だ。これだから、口先だけの男は嫌いなのだ。
だが、まぁ今回に関してはこちらも反撃の手立てはある。
「つまり、あんたのメンタルは小二のアタシと同じってことじゃんそれ」
「それはー……そうかも」
「うわダッサー♡ ザーコザーコ、クソ雑魚メンタル」
「分からせられそうなこと言うなお前」
「は? 何を?」
「純粋真っ直ぐちゃんかよ……」
なんかよく分からないけど、わからないこそこのレスバは勝てそう……なんて思っていると、慌てた様子で朱莉が間に入った。
「わ、わーわー! 二人とも落ち着いて……そ、それより、どうする? 次、何乗る?」
「え、もう一周じゃないん?」
反射的に聞いてしまったが、朱莉は「いやいや……」と、少し困った様子で首を横に振るう。
「大沢がいるしさ……」
「いや、気にしなくて良いから。二人で乗っておいでよ。俺、待ってるから」
「え、良いの?」
聞き返したのは朱莉だが、緋奈も同じように意外そうな顔で樹貴を見てしまった。そんなの退屈じゃないのだろうか? せっかくお金払って入園しているのに……それを、自ら提案して来るとは。
「ていうか、俺まだ動けんから。少し休ませて」
「あ、なんだ。そういうこと?」
「そういうこと」
……人付き合いの経験がない朱莉には分からないだろうが、その辺は緋奈には分かる。
つまり……気を遣われている。あの気遣いとは無縁そうな男に。それが、なんとなく腹立たしかった。
断ってやろうか、と思ったが、その前に朱莉が誘ってくれる。
「じゃあ、行こう。上野さん」
「……んっ」
「なるべくゆっくりして来てね」
「ジェットコースターでどうやってだし」
そのまま二人で乗り物へ乗りに行った。
のんびりと並び、乗り物を乗るまで待ちながら樹貴のことを考えたが……まぁ、実際の所、失神したばかりだし休みたいと言うのが本音だろう。
ちょっと驚いたが、あの男がまさかそんな気遣いをするとは思えない。何せ、言いたいことを言うタイプだし。
だから、あんまり下手に考えすぎないことにした。今まで自分が関わったことのある男とは違う人種かもしれないが、基本的に男は勝手な生き物なのだから。
そんな風に思いながら、乗り物に乗り込む。今度は一番前の席だった。一番濡れる反面、迫力も一番の席だ。
またゆっくりとした出だし。そんな中、隣の席のまだ知り合って二週間ほどの少女が声をかけてきた。
「意外と悪い子じゃないっしょ? 大沢」
「……どうだか」
「ちょっとムカつくだけで」
「それはそれでどうなの?」
この子も割とナチュラルに酷い評価を下してるな……と、思いつつも、のんびりとコースターを楽しむ。
二週目だからだろうか? 少し終わるのが早く感じた。気が付けば、落下のタイミングになっている。
「「「「きゃああああああ!!!!」」」」
お決まりのタイミングで、お決まりの悲鳴をお決まりのポーズでかました。やっぱりこれが楽しい。このアトラクション。
……でも、さすがに三連続はしんどいので、とりあえずここまでだろう。
「戻ろっか」
「ん。あいつ待たせてるし」
まぁ、そもそもあの手の人種は待つことが苦痛じゃないことを知っている。待ち時間はスマホゲームで時間を潰せば良いだけだから。
……いや、なんならスマホゲームをしたいから待つ役を買って出た可能性さえあるかも……なんて思いながら合流した。
「お待たせー」
「あ、来た。写真撮ったけどいる?」
「は?」
何急に? と、思いながらスマホを見せられた時だ。思わず引いた。
何せ……スプラッシュした直後、周囲の水飛沫に虹がかかり、笑顔で両手を上げる自分と朱莉が映っていた。
「……え、写真上手っ」
「勝手に撮ったからいらなかったら消すけど、いる?」
「……」
こいつ……ホント何なの? と、思いながら樹貴を見上げてしまった。まさか……こんなの撮ってくれるとは……もしかして、こいつはこいつなりに楽しんでいるのだろうか?
「アタシ欲しい!」
「じゃあ、上野。お前も欲しかったら、小野に送ってもらって」
「あ、うん」
……もしかしたら、本当に悪い奴ではないのかもしれない……なんて思いながら、とりあえず写真はもらうことにした。
「あれ、これ心霊写真じゃね?」
「えっ」
「ほら、上野の腕三本ある」
「う、嘘っしょ!?」
「嘘」
「あんたまじムカつく!」
でもやっぱり良いやつでもない気がしてきた。
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