第1話-6 恋は、ピンクか?ブルーか?
第6章 恋の色?
ミユリは、まり子先生と隆史の後ろに付いて由比ヶ浜の丘の途中にある学校に行く。
道場の開け放たれた入口近くに立ち、稽古を見守るのであった。
隆史は、ネイビーの道着に着替え竹刀を持って道場に挑む。まり子先生と、ヒナノは白い道着と、黒の袴姿で、剣道場の片隅に現れた。続いて、弓道部からの移籍組も道場に入って来た。
ミユリの視線は、隆史だけに注がれている。
まり子先生は、それに気付く。そして、正面で稽古しているヒナノに話しかけた。
「ヒナノちゃん、あの道場の入口にいる女の子、知り合い?」
ヒナノは、まり子先生の視線の先にいる少女をチラリと見る。
道場の入口に立ち尽くす一人の髪の長い少女。褐色の髪は、全体ではなく、所々、数本がブルーに染めてあった。陽の光に時々反射して空の色と重なる。風に髪をなびかせ、剣道の稽古を随分、熱心に見守っているのであった。
「いや、知らない・・・と言うか、この高校の子ではないですね。けれど、どこかで見た気がするんですよネ~、あの青い長い髪・・・」
まり子先生は、それを聞いて、また稽古に戻る。
「ふ~ん、サッキ、あの子、海にも来てた。隆史を見てた。それに挨拶もしてた」
ヒナノは、もう一度、道場の開け放たれた入口に立つ髪の長い少女を見た。
(どこかで、見かけたような・・・)
次の進学塾の日、ヒナノは、隆史の自転車に後ろに乗せてもらって来た。
塾の入口前に、あの青い髪の交じる、長い髪の少女がいた。隆史と、ヒナノが塾に入る時に隆史に軽く手を上げ挨拶を交わしていた。隆史とヒナノは、教室が違う。別々の教室に入る。
隆史が教室の席に着くと、ミユリが側に来た。
「今度の土曜日も海、行って良い?」
と、ミユリが隆史に聞いた。
「どうぞ、どうぞ」
と、応える隆史は、続いて何気にミユリに聞いてみた。
「サーフィンでもヤル?」
「いやいや、それは無理」
そう、片手を横に振って微笑むミユリの頬はホンノリ、ピンクに染まっていた。
それを、睨むように見つめる金のシャチホコがいた。
次の土曜日の朝、ミユリは由比ヶ浜に来ていた。
隆史は、鎌倉の伝説、ジーンとマリーとサーフィンをしていた。
三人は、順番に波に乗る。
それを、眺めるミユリがいる。
そして、その後の昼前、ミユリは道場にも付いて行く。
道場の入口前に佇み、隆史を見つめるミユリの姿がある。
稽古しているヒナノはその姿が気になっているのだった。
次の進学塾の日、ミユリは、受講前に隆史に囁いた。
「明日の夜、うちの両親、居ないんだ。家に来てくれない?一人だとコワイんだ」
少し、考えて隆史は応える。
「あ~、分かった。行く、行く」
その日、進学塾の帰り、隆史はヒナノを家に送らなかった。
ミユリを自転車で送って帰ったのだ。
隆史とミユリのクラスの授業は、ヒナノが次の授業に入る前に、休講となってしまった。ヒナノは、次の授業が始まる前の休憩中に、隆史が自転車の後ろにミユリを乗せて塾から去って行く姿を眺めた。そのヒナノの後ろに、同じく隆史とミユリの後ろ姿を眺めている金のシャチホコがいた。
隆史の自転車の後ろに乗るミユリ。バイクの後ろに乗っているかのように前の隆史に抱き着いている。何回も何回も体を隆史にくっつけて、楽しそうな笑顔。
(ミユリ)
もしも、私に最高の幸せが来たのなら、海の風よ、チャンと教えて
囁いて
あなたの色はブルーなの?
私はこんなに幸せな気分なのに、なぜ?涙が出そうなの?
海に半分、足を付けた夕焼け 太陽
あなたの色はピンク
これから燃える赤にかわる そして消えていってしまう
夕陽よ 今 この恋の色は何色なの?
身体をジャレルように密着させてくるミユリに隆史は、少し困った様子。
ミユリの手を緩めるように、掴み直し捕まる位置をずらす。
「頼むよ、運転しずらいし、漕ぎずらい、バイクじゃないんだから!」
ミユリは少し、すねた様に、
「は~い、だって楽しいんだもん。自転車の後ろに乗るなんて小学校ぶり」
と、言いながら今度は、隆史の背中に顔を埋めるのだった。
金のシャチホコは、アジサイ色の髪をした相棒の運転するバイクの後ろにフルフェイスのヘルメットをかぶり乗る。
バイクは、ライトを点けて空ぶかしを数度してから、排気ガスを垂らしながら発進した。隆史の自転車を追うように。
隆史の自転車の後方にバイクが現れる。そして、抜きざまに後部座席の男が、隆史の自転車に蹴りを入れた。隆史は、後ろにミユリを乗せた状態で自転車ゴト転んでしまう。
隆史は、後ろのミユリをかばうような姿勢で転倒したため、ミユリは、ヒザを擦りむいた程度であった。しかし、自転車を左片手で支えて大きな転倒事故を免れた隆史は、その左腕を骨折したようだ。かなりの痛みが走っているのだろう。隆史は、目に涙さえ浮かべている。
翌日、隆史は、学校にも来れず、病院でギブスをハメることとなった。当然、隆史はミユリの家に行くことも無かった。
ヒナノは、学校帰りに仁さんのパン屋さんで買っておいたターコイズブルー色のクリームソーダパイを持って、隆史を見舞いに行く。そして隆史の家近くに来たのだが、隆史の家の前に髪の長い少女が立っており、暫く隆史の家の方を窺っていた。
暫くして、彼女は、去って行った。
(?)
ヒナノが、学校での授業のノートと、クリームソーダパイを持って隆史の家に見舞いに来た。隆史は、左腕をギブスに固められていたが、それ以外は大丈夫のようだ。
隆史が家の奥からヒナノの前に現れた。
ヒナノは、隆史のギブスをハメられた左腕を食い入るように見つめ
「大丈夫?」
と、聞いた。
「大丈夫と言えば、大丈夫」
と言う隆史の笑顔にヒナノは安堵した。
「ところで、今、誰かお見舞いに来てた?」
隆史は少し上を向いて考えてから、
「いいや、来てないと思うヨ。かあ~さん、今、誰か来た?」
と、奥にいる母親に聞いてみた。
「ヒナノちゃん」
「ヒナノなら目の前にいるヨ、その前!」
「来てないよ~」
「だって」
と、隆史は、ヒナノに答える。
ヒナノは、ノートと白い紙袋を、
「これ、本日の授業のノート、と、ソーダパイ!」
と言って隆史に差し出した。
隆史の目線は、白い紙袋に釘付けである。ヒナノから奪い取るように受け取った。
そして、
「お~有難い、ノートはいいや、明日には学校行くし」
「大丈夫なの?」
と、心配して腕のギブスに見入るヒナノに、
「大丈夫、大丈夫、後ろにヒナノ乗せてなくて良かった!」
と答えた。
(!そう言えば、後ろに誰か乗せてた・・・)
「誰か乗せてなかった?誰?その人は、大丈夫なの?」
とか言いながらヒナノは、何故か、ムカついていた。
「浜田みゆり?とか言う娘、塾で俺と同じクラス」
隆史は軽く言って、家の外に出る。ヒナノもそれに続く。
二人は、由比ヶ浜を眺める丘の坂の中段にある、隆史の家の前から海を眺める。
陽は西の海に落ちて行こうとしている。
空と雲、海の白波、全てがピンクに染まり、オレンジ、赤へと移り変わろうとしている。
フレームの中の風景写真、風景画。
翌日から、隆史は自転車の後ろにヒナノを乗せていない。寄り添って歩いている。
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