第1話-4 恋は、ピンクか?ブルーか?

第4章 海は広いな、お⁉薙刀!

 放課後、海クラブの部活動時間。海を眺める隆史とヒナノの二人。


 フレームの中の由比ヶ浜の景色に、ジーンと、マリーは戻って来た。

そして隆史とヒナノも戻って来た。


 隆史とヒナノ、剣道はクラブ活動ではない。土曜日に行われている稽古である。毎週、毎週、欠かさず剣道の稽古をしている。ヒナノは、練習、稽古では二刀流であるが、試合の時は、片手に1本の竹刀だけで戦う。あまり動かない剣法。隆史は、3歳から習っているので正統派。

 今日も、ヒナノは隆史相手に打ち込みの稽古。

 剣道では、相手と対峙している時から威嚇するような奇声を発する。

ヒナノのは、少し控えめ、テレもあるようで、

「サア~、シャア~」と言う感じ。

 隆史は、

「やあ~、さあ~」と言う感じ。

 どちらにしろ、体育館の道場の戸口に立って二人を眺めている白衣姿のまり子先生には、タマラナく、ツボに入っている感じだ。必死で大笑いするのを堪えている。

まり子先生は、土曜も勤務らしいのであった。剣道の稽古が終わったら、隆史とヒナノと由比ヶ浜の海へ一緒に行こうと待っているのだ。勤務中であっても海クラブの部活として、部の顧問として正々堂々と海に繰り出せるのだ。


剣道部の部員も、土曜日の剣道場としての稽古には積極的に参加している。

以前、対校戦をボイコットした生徒達は、特に厳しい訓練を受けている。彼らは、ヒナノが代わりに出場してコテンパンに叩きのめされたことが後ろめたくもあり、自分達が恥ずかしくもあり、情けなくもあり、猛練習を続けているのだった。

 剣道の打ち込みの練習は、一般的には、他の連中も、普通は、一人が竹刀を面の高さで横に構え、それを目がけて相手は上段から竹刀を打ち込む。だが、ヒナノの場合、隆史相手に、色々な場所に突きや打ち込みを喰らわしている。隆史の気合を入れる掛け声は、だいたい、「いて!」とか「いた~」とかである。それでも、隆史は文句ひとつ言わない。ヒナノの好きにさせているのだった。

 ヒナノがまともに打ち込み、隆史と面が合った時、隆史がヒナノに囁いた。

「あのさ、噂で聞いたんだけど、ここで以前、女子の薙刀(なぎなた)の稽古もやっていたらしいヨ!ヒナノ、薙刀、似合いそうだけど、復活させてみたら?」

 ヒナノは、少し考える。

(たしかに、テレビか映画で見たことのある薙刀、カッコよかった)

「教えてくれる人とか、道具とか、どうすんのヨ」

 隆史も声を潜めて、

「俺、師範とかオヤジとか先生、先輩に聞いてみるよ。噂だけど、道具も全て残して有るんじゃないのかナ?」

と言う。ヒナノも、

「分かった、考えとく」と声を顰め、次の瞬間、思いっきり隆史の面を叩いた。

「痛って~」


稽古が終わって、後片付けを終えた二人は、まり子先生の待つ、保健室に向かう。それから、三人で由比ヶ浜に向かうのだった。

ヒナノは、制服姿。

隆史は、やはり制服姿ではあるが、スラックスはカナリ、ラフ。下に既に海パン着込んでいる。また、開け放たれたボタンダウンの白いシャツの下には海用のTシャツを着こんでいる。

まり子先生は、白衣、しかしその下には、ピンクのウエットスーツ。


 隆史が何気に、まり子先生に聞いた。

「まり子先生、うちの高校に以前、薙刀部が在ったのって、知ってます?」

 まり子先生は、ウンウンと、軽く頷いた。

隆史は、

「その部員の人とか、顧問だった先生とか、知りません?」

と聞いた。

まり子先生は、

「私だけど。最後の部員」

と、軽~く答えた。


(悪い予感がする!)ヒナノと隆史は目を合わせた。


「その時の薙刀って、試合とか練習とか、カタだけが多かったんだよネ。それで、試合が近づいた日に、思いっきり、打ち込み稽古したら、翌日から私以外、皆、部を止めちゃったんだよネ、部活を」

(分かる気がする。それは恐ろしかったんだろう。乙女たちには)

「そんで、退部した皆を探してみたら、殆ど弓道部に入ってたんだ。だから、私、連れ戻そうと思って、弓道部に行って、(弓道なんて簡単な事やってんじゃね~よ)、って弓を借りて2~3本、矢を射ったんだ。弓ってさ、地元のオジサンたちが、馬に乗ってやってる、ホラ、あれ、ハルサメだっけ?」

(いや、流鏑馬、ヤブサメだし)

「ソレくらいしか知らなかったから簡単だと思ってたんだ。それが結構、難しかったんだよネ。全部、隣のテニスコートに打ち込んじゃって、1本位、誰かに当たったみたい」

(エッ⁉)ヒナノと隆史は、また目を合わせた。

「翌日、私、停学。停学開けて、学校出て来たら、顧問の先生は学校やめてたし、薙刀部は廃部にされてたんだよネ、なんだかな~」

まり子先生は、なんだかんだの事情が理解できず、ツマラナソウに語った。


(なんだかな~)で済まされるもんなのか?


「お陰で、サーフィンしか出来ない、弱々しいミーハー女みたいになっちゃった・・・」


(決して、弱々しくはないと思います。頭は、弱い・・・かな?)


「ねえねえ、ヒナノちゃん、一緒に薙刀やんない。私が、教えてあげる」

まり子先生は、楽しいことを見つけた乙女のような口調でヒナノを誘う。

ヒナノは、

「先生、私、足悪いんですけど‥‥‥」

と及び腰に答えるのだが、まり子先生は、続けた。

「大丈夫、剣道では二刀流のようにして、ヒナノちゃんは、竹刀の一本を杖みたいに使ってるでしょう?薙刀、長いし一本でどうにでもなるから。私、優しく教えるから、大丈夫だよ⁉」

「はぁ‥‥‥」と言ってヒナノは頷いてしまった。

(大丈夫じゃないような気がする・・・)

隆史が、ヒナノの顔を心配そうに覗き込む。


 翌日には、全て話はついていた。薙刀の道具は、剣道具の倉庫に保管されていた。校長には、まり子先生が、自分が海クラブと兼任の顧問だと部活に認定させた。体育館の道場の使用は剣道師範代理で剣道部顧問の先生を体育館裏に呼び出し、即日了承オッケーとなった。


(恐ろしく、独断即決即行である。蛇の道は蛇?なのに、仁さんとのことは、何時までもウジウジ考え込んでいたんだ・・・) 


 平日と、土曜日に、ヒナノは剣道ではなく薙刀を稽古することになる。

 まり子先生が指導する。

 まり子先生は、ウキウキしている。まるで、青春を取り戻したかの様だ。

 ヒナノは、恐る恐る、道場に入って来る。要領は、剣道場に入る時と同じなので、今までと同じなのだが、そこに待っているのは、隆史や師範や今までの剣道仲間だけではない。蛇がいる。まり子先生がいる。


 初日は、まり子先生は、ヒナノに薙刀の持ち方、基本形を教えてくれた。

「薙刀の真ん中を持って、元を床に着けて杖の代わりすればイイよ」

と、優しく教えてくれた。

(確かに動きやすい。色々なバリエーションが剣道より可能だ)

 剣道の稽古終了に合わせて、薙刀の稽古も終わり、隆史、ヒナノ、まり子先生の三人は、海に向った。

 海に着くなり、まり子先生は、先に波に乗っている仁さんのもとに、ボードを持って急いだ。

 石垣の上から、ジーンとマリーの二人の姿を暫く眺める、隆史とヒナノ。

 隆史がヒナノに問いかける。

「よく、薙刀部なんて入ったヨネ」

 ヒナノは、それには、隆史を睨むように答える。

「あんたが言うか?自分が、そうさせたんでしょ!」

 隆史は、それを聞き流すように空を眺めて呟いた。

「しっかし~、驚いたよネ。まり子先生が薙刀部だったなんて」

 ヒナノも隆史と同じように呟く。

「おまけに、最後の一人、廃部に追い込んだ張本人」

 そして、隆史とヒナノは、また、ジーンとマリーの二人のサーフィンを楽しむ姿を暫く眺めていた。

 波がまったく無くなり、波待ちの仁さんは、ボードにまたがりながらコックリ、コックリと寝てしまっている。

 まり子先生は、パドルを持ち出し、波の無い海で、ボードに立って、パドルを漕いで自由に海を渡っている。SUPを満喫している。まり子先生は、ボードにまたがり寝むっている仁さんに静かに近づいて、パドルで一撃を食らわした。

急なことに驚いて、目を覚ます仁さん。ボードから海の中に落ちてしまった。

 ヒナノは、それを見逃さなかった。

「おっ!あのパドルの持ち方、薙刀と同じ持ち手だ~」

 隆史は、波も無いこともあって今日は、海には出ていない。ズッ~とヒナノの隣に居る。二千ミリ、以内の距離に満足しきっているのだ。海は広い。二千ミリの距離など何でもない筈なのに、先日までは果てしなく遠い距離に思えていた。

隆史とヒナノ、一ミリたりとも離れて居たくない。


 夏から、秋に向かう由比ヶ浜の風景。


 又ではあるが、とある、剣道部の対校試合。

 試合は、隆史やヒナノ達の高校の道場で行われる。

 相手は、また、県内でも極悪で知られる男子高校だ。

 隆史は、剣道部には所属してはいないが、また、指導教師に頼まれた。

 まり子先生とヒナノは薙刀姿で試合見学だ。

 対校戦相手の部長、指導員が部員たちを引き連れ、隆史たちの指導教師のところに挨拶に来た。今回もスゴミは有るが礼儀正しい。

 隆史たちの指導教師は、やはり、一歩、尻込みをする。

対校戦相手の部長は、隆史たちの指導教師と、この高校の他の部員選手を一通り舐めるように眺めてホッとしたように挨拶する。

まり子先生がいない様で安堵した感がある。しかし!次の瞬間、道場の片隅に立つ薙刀姿の、まり子先生を見つけ驚愕した様子を一瞬、見せた。それから、動揺を隠しながらユックリと席に着いたのだった。何気に足が震えている?様に見える。貧乏ゆすり?


 試合、開始。

 隆史は、今回は先方ではない。大将として最後に構える。

 試合は、双方、2対2、2勝2敗となったので、勝敗は最後の大将戦に掛かってきた。

 隆史とヒナノの高校の剣道部員は、かなり腕を上げていた。

 確かに、毎日、毎日、厳しい稽古を続けていた。

 彼らは、ヒナノが前の対校戦に代わりに出場し、胴を喰らい、後ろに跳ね飛ばされ、転んだことに自分達の不甲斐なさを恥、奮起したのだ。

 大将戦が始まろうとしていた時、対戦校の選手ではない部員、数名がヒナノの元に寄って来た。

「ねぇ~、ねぇ~、お嬢さん、剣道やめちゃったの~?」

「こんど、一度、竹刀で殴って貰いたかったのにな~」

「俺は、パンパン、お嬢さんを、竹刀で打ちたかったな~」

「あんたに、会いたくて剣道、続けてたのに!つまんねエ~な!」

 そこに、ヒナノを庇うように、まり子先生が割って入った。

「君たち、さっさと、自席に戻りなさい」

 まり子先生は、静かに、低い声で対校戦相手の男子生徒に言う。

「なに?このオバサン」

「オバ?」

次の言葉が出る前に、まり子先生の薙刀が、相手に炸裂していた。一旦、倒された男子は飛び起きて他の者と、まり子先生に詰め寄り、殴りかかる勢いである。そしてまた一人、手近な男子が、まり子先生の薙刀の餌食になる。

鋭い目付きで構える、まり子先生。

この騒ぎに、対校戦相手の部長が気付いて、まり子先生の元に飛んで来た。

そして、男子生徒たちに、

「何やってんだ!お前ら!」

と、怒りながら生徒達を押し戻す。そして、薙刀姿のまり子先生に、頭を下げながら、

「申し訳ございません。どうしようもない奴もいまして、良く注意しておきます!」

 その言葉に、

「どうも。よろしくネ?」

と、軽く頷いて、

「やっと、思い出したんだけど、同窓だよネ?弓矢の刺さった跡はもう消えた?」

 対校戦相手の部長は、

「はい!もう、全然、大丈夫です」

と、まり子先生に答えて、席に戻った。

(この人なんだ⁉弓道場から射られた、まり子先生の矢に当たった人・・・)

 後から、聞いた話では、剣道部の数名が、稽古を抜け出して、テニス部の女子の短めのスコート姿をテニスコート近くの茂みに隠れて見てニヤ付いていたところに、まり子先生の放った弓矢が飛んで来たらしかった。数本は、彼らをかすめたが、一本はこの部長先生に当たったのだ。


 隆史の大将戦の始まりは、大きな掛け声での睨み合いから始まり、一度、鞘当てをして押し合いの様相となった。

 その対戦の間、(さ~、おりゃ~)とかの掛け声は、また、まり子先生のツボにはまっていた。

 必死に笑いを堪えている。下を向いている。肩とは言わず、全身が震えている。


 隆史は、押し合いの中、突き飛ばされた。

 竹刀で押されただけではない。

 相手は、隆史の脇腹に蹴りを入れていた。

 隆史は、後ろに突き飛ばされ転倒していまう。

 仲間が、転倒した隆史の所に集まり、心配をしている。

「おい、大丈夫か?」

 隆史は、手を借りて起き上がり、皆に、

「大丈夫、大丈夫」

と言いながら、息を上げながら相手を睨みつけた。

 審判は、相手に注意する。

 相手は、頭を下げたが、面の中の顔は薄ら笑いをしているのだった。


 再度、立ち合い。

 また、同じことが起きた。しかも、今度は、転倒した隆史は、面横(頭横)を踏みつけられたのだった。

 再度、部員は転倒した隆史の所に集まり、心配をしている。

「おい、大丈夫か?」

「ヒデエ、奴だな」

 もう一度、隆史は、皆の手を借りて起き上がり試合に臨む。

 再度、仕切り直し。

 また、相手は足で隆史を蹴り倒そうとした。隆史はそれを避け、その足に渾身の力を込めて、思いっきり竹刀を振り下ろした。多分、骨が折れたくらいの太刀であろう。

 今度は、相手が痛がり、床に転げまわることとなった。

「一本!」

 審判の声が上がる。

 隆史達の勝利が決まった。


 剣道の対校試合は、何事もなく?終わり、剣道部員は後片付けをする。

 ヒナノは、まり子先生の指導で、薙刀の形をおさらいしている。

 薙刀では、あまり対戦試合のようなモノはなく、形が中心となっている。

それに満足しない、まり子先生は時に剣道部員を相手に大立ち回りを行うのであった。時代劇の主役にでもなったように、活き活きとしている。

そして、密かに、ネットで実戦の対戦が出来る試合、大会、相手校を探し求めているようなのだ。ヒナノには、内緒にしている。なんせ、自分では試合とか参加出来ないのだから、選手が辞退して逃げては困る。ヒナノの稽古という理由に色々、昔の道場破り的な活動を目論んでいるようなのだ。

 足の不自由なヒナノにとっては、薙刀は、杖の替わりにもなるし、形を演じるということでスポーツ、武道を行っている感じなのでとても気に入っている。実戦で戦う剣道のように面や小手や胴、そして脛宛てまでつけてのたたき合いの試合は御免こうむりたい、と思っているのだった。


 まり子先生は、ついに、対校戦ができそうな学校をみつけたようだ。

「ヒナノちゃん、対校戦出来そうなんだけど、選手、5人いるんだって。後、4人誰か探してくれないかな?」

と、言って来た。

(無理だ、あんたが顧問なかぎり・・・)

「まあ~、居なきゃ、隆史達に女装させて出る手もあるけどネ?」

「⁉」

「あ~、ちょっと心当たり当たってみます」

とヒナノは取り合えず答えた。隆史達が女装して試合に臨むのも見てみたい気はしたが、気の毒な気もしたのだ。まり子先生ならやらせかねない。


 ヒナノは、まり子先生から聞いた話、昔、女子の薙刀部員が、まり子先生のせいで薙刀部を脱出して弓道部に入ったことを思い出した。それで、弓道部の女子に、助っ人を頼んでみようと考えたのである。

 ヒナノは、薙刀姿で、弓道場に向った。

 ヒナノが現れ、その薙刀姿に、弓道部の顧問先生は、一瞬、青ざめた。

 多分、まり子先生に見えたのだろう?

 弓道部の顧問先生は、

「何なんですか?弓をひかせろ、なんて絶対させませんからネ!」


(イヤ、私、何も言ってませんけれど・・・)


(絶対、この先生、昔、まり子先生が弓借りて2~3本、矢を射た時、その場に居たんだ)


「あの、練習終わった後に、部員の皆さんに、ご相談したいことが有りまして・・・」

 ヒナノの言葉に、弓道部の顧問先生は、少し考えて、

「それでは、練習は、後、少しで終わりますから、その後ろの席で見学してて下さい」

 そう、言われた。

それで、ヒナノは、射手が横並ぶ後ろのベンチに腰かけて、弓道の練習が終わるのを静かに待った。


「それでは、本日の練習は、これで終了!」

と、弓道部の顧問先生は、席を外した。

「有難うございました」

と一礼して、部員全員がヒナノのもとに集まった。

「なに、なに、ヒナノ。剣道部とカラオケ?パティー?」

「誰か、告った?」

 みんな、興味津々である。顔は綻んでいる。

 ヒナノは、言葉を慎重に選んで、

「あの~、私、前、剣道部の男子校との対校戦に代理で出たんだけど・・・」

「今度は、薙刀部で女子高との対校戦があるのネ。あと、4人、選手足りなくて、4人ソノ日だけでいいから、薙刀の試合、出てくれないかな?」

そして、続ける。

「恰好は、袴だから弓道のママでいいんで、頼みます」

 一同には、衝撃のお願いだったようだ。しばし、沈黙が続き、堰を切ったように発言が皆からでて来た。

「え~?」

「薙刀なんて、やったことナイし⁉」

「まさか、今から薙刀、訓練とか?」

「マリーにシゴカレルの?」

「いや~」


(やはり、まり子先生の名前が出て来ちゃった・・・)


 そこで、ヒナノと同じクラス、弓道部主将、ルッコが、

「イイよ!蓮田、横山、内海、岬、アナタたち、週1、薙刀1時間習って試合出て」

と、テキパキと指示を出してくれた。

「ありがと、ルッコ」

「私も行くから」

(あっ、ルッコ、剣道部の1年下の稲村とイイ仲だった・・・)


 次の週の水曜日の放課後、剣道場の片隅に7人の女性剣士の姿があった。

 まり子先生、ヒナノ、そして、弓道部の1年生、蓮田、横山、内海、岬、それにルッコ。

 それぞれ、薙刀を持って、ぎこちなく形の稽古。

 隣で練習している剣道部の男子、こちらも形の稽古、面は付けていない。

 剣道部の男子、稲村がルッコの姿を見ながら、手で合図した。ルッコも気づいて笑顔で挨拶。 

 ところが、まり子先生は、自分が挨拶されたのかと勘違いして、こちらも満面の笑みで挨拶を返している。稲村、目を逸らした瞬間に、隆史から竹刀で小突かれた。

「な~に、ニヤついてんだ!稲村」

「あっ!隆史の野郎・・・」

と、ルッコがムカついている。

 しかし、他の弓道女子は、目がハート?

「あっ、青井隆史だ・・・カッコいい~」

「青井様だわ!」

「ルックス良くて、背高くて、頭よさそうで、最高」

(頭は、幼稚園児よりは良いかも?)

と思っていた時、ヒナノは、ルッコと目が合った。お互い呆れ顔というやつだ。

 そこで、まり子先生、

「ハ~イ、みんな、形は一つだけ覚えればイイですからねエ」

「打ち込み、いきますよ~」

 剣道部が打ち込みの練習に入ったのと同時にこちらも打ち込み稽古。

「や、や、や、キャ」

と、みな幼稚園児のチャンバラごっこダ・・・

それでも、まり子先生は満足気である。

「ちょっと、私と胡桃沢さんで稽古してみるから、それに近いようになってね」

 ヒナノが薙刀を振り下ろす。

 まり子先生が、それを受けて、流す。

 この繰り返し。

 ヒナノは、すこしでも力が入らない様、まちがっても、まり子先生の手、指に当たらない様、細心の注意を払っている。万が一にも、まり子先生の防衛本能に触れない様にしている。条件反射でも一撃されたら身が危ういのである。

 隆史が二人の段取りを見つめ、微笑んでいる。


 対校戦、当日。

 会場は、対戦側の女子高。

 まり子先生、以下、部員、助っ人が会場、道場となる体育館に入る。

 対戦校の顧問指導員は、またしても?まり子先生の姿に腰を抜かしそうになる。一瞬ではあるが、顔面蒼白!

 まり子先生は、対戦校の顧問指導員、部長に一礼した。

「熊手(くまで)まり子、さん?」

「久美ちゃん?」


(⁉もしかして、同窓生・・・)


「あら、久美ちゃん、薙刀、続けてたんだ」

「ええ、まあ~、今はここの顧問、部長です」

「相手してくれて、有難うネ」

「いや、由比ヶ浜の高校に、薙刀部、復活したんだ、と興味あって。まさか、あなたが復活させたとは思わなかったけど‥‥‥」

(潰したり、作ったり、気ままな人だ)


 試合は、予想外の1勝4敗。

 誰も予想していなかったが、先方で出場したヒナノが勝った。杖替わりに元を床に着けた構えが、相手には余計な緊張をもたらしたようだ。後に控える借り物部員は、全敗。それでも、武道を志した者達である、悔しくてたまらないようだった。

 まり子先生においては、最初から分かってはいたけれど、やはり、自分が戦えないのが、非常につまらない事だ、と実感したようだ。この最初となった試合以降、対校戦相手を探すことはなくなった。ヒナノに護身術として形を教えるだけで非常に満足しているようだ。もちろん、海ではいつも通り、活き活きしている。

 ヒナノとしては、まり子先生の道場破りのような事の片棒を担がされなくて、ホッとしている。しかし、弓道部からの臨時雇いは、ドオいう訳か?コチラ薙刀部に移って来た。多分ではあるが剣道部の男子が目当て。

 薙刀の稽古といいながら、剣道部の男子ばかり見ている。ルッコに至っては、稲村君のことばかり、二人でアイコンタクトし合っている。隆史は、そんな二人を見ながら、ヒナノに微笑む。

 キャーキャー言っている薙刀部の女子を尻目に、ヒナノは、今日も隆史と海に寄ってから帰る。隆史に支えられながら。

 海には入らない。海の、浜の風景を眺めている。

 夕日に照らされて、白い雲は、ピンク色に染まる。

 波の飛沫の白は、空の青と、海の藍色を映し出し、取り込んでいる。ブルー。

秋の深まる由比ヶ浜の風景。

この恋はピンクか?ブルーか?

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