第1話-3 恋は、ピンクか?ブルーか?
第3章 素晴らしき色とりどりの世界
立ち昇る波はブルー
風の詩よ
愛しき人よ
この恋の色は、ブルー
零れ落ちる涙 この恋の色はピンク 桜色の花びら
あなたに捧げる花はピンク色
恋しき詩よ
恋しき人よ
この恋の色は、ピンク
滴り落ちる雨の雫は、ブルー 海へと誘う
想いの洪水は、この心に激しく流れ込む
進め 進め 舞い上がる思いを抱き
負けるな 負けるな 愚かな思いに
走れ 走れ 夢の中
夕陽の色 海の色 波の色 空の色 砂の色
恋の色 情熱の色 涙の色
素晴らしきコノ色とりどりの世界
夏が通り過ぎようとした、ある日の黄昏時。
胡桃沢ヒナノは、高校の保健室の熊手まり子先生と帰宅の途中にいた。
まり子先生が、ヒナノの家まで送って行く。
途中のピンク色のパン屋の前を通りかかった時、店の中から二人の姿を見かけた難波仁さんは、店を飛び出して来た。
仁さんは、まり子先生にピンクのアップルパイと、ヒナノにはターコイスブルーのクリームソーダパイを無言で渡し、店の中に戻った。
まり子先生は、店の内の仁さんに目で挨拶をし、ヒナノは軽く頭を下げ謝意を伝える。
まり子先生は、自分の頬の傷跡を指さしてヒナノに自分の昔話を始めた。
「この傷、昔、海でジンと遊んでいた時に事故にあった跡なのよね。ジンはこれが自分の所為だと言って私に気兼ねバカリしてた、それどころか、私を気使って、私の面倒を看よう、看ようとしてたのよ。それで、私は、そんなジンが見ていられなくて(近づくな、このド変態!)と言ってしまって・・・ジンのこと、追い払っちゃったんだよね」
まり子先生は、そのことが悲しくて、後悔してもしきれない様子だ。そして、声を落として続けた。
「お互い、隣に居るだけで幸せな気分になれることは、分かってた。だけど、自然に寄り添えなかった。二人は時が何とか解決してくれると思っていた。でも、時は二人を子供から男と女に変えていっただけで・・・何も解決してくれなかった」
と、一息ついて、思いを巡らせ、
「でもね、私、一度勇気を出してジンの店に行ったんだよ。そうしたらジンがね、新作の菓子パンだ!ってクリームソーダパイを私に試食して欲しいと渡してきたの」
まり子先生は、思い出を大切そうに心に巡らせている。
難波仁は大学を卒業後、実家のパン屋に帰って来て稼業を継いだ。
マリ子は、専門学校を卒業後、自分の卒業した高校の保健室の先生となった。
地元で人気のピンクのパン屋さんに、仁がいる。いつかは、行こう、行こう。そう思っていても、なかなか店の中に入っていけないマリ子だった。
いつか、いつか、と時は経つばかり。
今では、子供でも知っているコトバ、
(いつか、は絶対に来ないですから)が頭を巡った。
今日は!と意を決してマリ子は、ピンクのパン屋に入って行った。
仁がいた。
マリ子の姿に動揺する仁がいる。
二人にとって、直ぐに時は巻き戻した。
「これ、新作。食べてみて」
仁は、自分で創作したターコイスブルーをテーマにしたパイをまり子に差し出した。
それを受け取り、まり子は、一口食べてみる。
「美味し~!」
マリ子は、思わず、涙を流しそうになった。
その味に、その色合いに、色々な想いがあふれ出て来たのだ。
その日から、保健室の先生となったていたマリ子は、数日の間、朝、仁の店に寄ってパイを買って登校するようになった。
二人は、何かを話さなければ!と思いながらも、いつものパン屋と、客の会話しか出来ない。何かが戸惑いを誘い、声に出来ない。お互いの想いを伝えられない。そして、お互いに、気まずさが感じられ、マリ子は仁のパン屋に寄ることが無くなった。
まり子先生は、ヒナノの買って来てくれたピンクのアップルパイを食べながら、それを指さして、
「そして、ヒナノちゃんが、このピンクのアップルパイを私に持って来てくれた。ジンのこのパイに込めた私への想いを教えてくれた。長~い、なが~イ、時間が掛かりました。隆史くんと、ヒナノちゃんの今は、昔のジンと私に似ているでしょう?」
微笑みながら、まり子先生はヒナノに話しかける。
「お互いに、一緒に居るだけで幸せなのは、分かり過ぎるくらい分かっていたの。だけど、相手のこと想いすぎて、これからの事が、展開が、心配で心配で何も言えない・・・」
まり子先生は、以前の自分達が歯痒くて仕方ないようだ。
「でも、ヒナノちゃん、アナタが取り戻せ!幸せな時間。隆史クンもジンも同じ。単純、明快、ウジウジした気の弱い男だ・・・優しすぎるバカども」
まり子先生は、両手をヒナノの両肩にあて、
「相手に、気になる別の女性が現れる前に!私の場合は間に合ったと言うか、アリガトね。ヒナノちゃん。今度は、アンタだ。時間は待ってくれない。ダメで元々?アッ、ごめん・・・」
と、エールを送る。そして、最後にまり子先生は付け加えた。
「あんな、弱虫なバカ共、相手から来るのを待っていたら時代が変わる!闘い続ける者が勝ち残る!」
ヒナノは、まり子先生に感謝した。しかし、ヒナノは、ジーンとマリーが自分と隆史と同じような想いを経験していたとは驚いた。ここは、自分で自分を追い込み、隆史をも追い込んだ自分が行動を起こすしかない、と決意するのだった。
放課後、海クラブの部活動時間。
夕陽を眺める隆史とヒナノ、その二人の距離は、二千ミリ離れている。
フレームの中の由比ヶ浜の景色。
オフショアの心地よい、いい風が吹き始めた。
大きく空に両手を開き、風を吸い込む。
二人とも、爽快な風を感じている。
ヒナノが、隆史との距離を縮めてきた。
「今度、隆史くんが、剣道しているところが見たいんだけど」
隆史は、その声の近さに一瞬、飛び上がりそうに驚いた。
マジマジとヒナノを見つめ、
「道場、汗臭いヨ。気絶しない?」
と、答える。単純、明快な満面の笑顔をヒナノに向ける。
ヒナノは、
「私でも出来るかな?剣道」
少し照れ気味に隆史に聞いてみた。
隆史は、
「もちろん!ヒナノちゃんは白い袴が似合いそうだ。それに、普段の杖が武器になるから護身にも良い」
嬉しそうに、熱く、熱くヒナノに語った。
隆史は、自分は幼稚園のときから剣道一筋と言っていた。父親が剣道を続けていて師範級らしく、その流れで剣道をしているとか。しかし、隆史は、剣道着、剣道具は臭くてたまらないので、極力やりたくナイのだ、とも言っていた。
ヒナノは、隆史がサーフィンや海遊びよりも熱心に続けている剣道なるものが、以前から気にはなっていたのだ。
(しかし、そんなに、防具とは臭いのか?海の公園のトイレより?)
と、すこし恐怖も感じていたのだった。
ヒナノは、よく、剣道をやってみたいなど言ったものだ、と少し後悔している。
ただ、ヒナノは、隆史と元の男子と女子に戻るには、隆史の一番の関心事を持ち出すのが良いと思ったのだ。そして、仲直り?出来た気がした。仲が悪かった訳ではない。ヒナノが隆史を遠ざけていただけ。
土曜の昼、学校の道場の中、扉は全て開け放たれている。
その、扉に拡がる外の景色。
フレームの中の校庭と、由比ヶ浜の景色。
白い袴(少し淡いピンクがかっても見える)、道着、道具のヒナノがいる。竹刀を二本持っている。二刀流?一本は、杖の代わりを担っているようだ。独特の剣術にもみえる。
一方、隆史は、ネイビーブルーのオーソドックスな道着姿で、素振り、打ち込みの稽古をこなしている。20人前後の生徒に稽古をつけている師範らしき教師は、面は付けておらず、頭に手拭いを巻き、鋭い眼差しを生徒たちに向け、時に大きな声で指導する。
そして今度は、二人一組での打ち込み、かかり稽古。
いつも通り、ヒナノと隆史の組み合わせ。
隆史が、竹刀でヒナノの打ち込みを受ける。
一瞬、ヒナノがよろめいた!
「アッ!」
と、心配する隆史。
その次の瞬間、ヒナノの一本の竹刀が隆史の面を強く打つ!
ヒナノが面の中でほくそ笑む。痛快な笑顔。
痛がりながらも微笑む隆史。
道場の開け放たれ扉。
そこにはフレームの中の由比ヶ浜の景色。
そこに、白衣(はくい)姿の一人の影が現れる。まり子先生が現れ腕組みをして隆史とヒナノの二人を眺めている。その姿に気付く師範らしき教師。
「ハ~イ!止め~。休憩」
と、稽古を中断し、師範らしき教師は、まり子先生の方に近づいて行った。
「いや~、まり子先生、最近、ちょくちょく稽古を見に来て頂けて‥‥‥」
完全にまり子先生が自分に興味を持っていると勘違いしているようだ。
そこに、隆史とヒナノがやって来た。
まり子先生は、隆史とヒナノをニコヤカに見つめ、満足気に頷く。
「二人とも、よくコンナむさ苦しい所でチャンバラごっこしてられるネ?」
やさしい声色ではあったが、この剣道の指導教師にはグサリっと突き刺さったようだ。
そして、まり子先生は、
「たまには、二人で海にも来なよ!ジンが心配してるから」
と、隆史とヒナノの二人に声をかけた。
「ハイ!分かりました!」
丁寧に頭を下げる隆史とヒナノを見て、サッサと去って行くまり子先生。
「あっ・・・」
何かを言おうとした剣道の指導教師は、取り残された感がある。
「ジャ、休憩して来ます」
と、隆史とヒナノは指導教師に、一礼して、道場を飛び出し近くの水飲み場に急いだ。
蛇口をひねり、先ずは顔を洗う二人。
ブルーの袴と白い手拭い。
白い袴にピンクの手拭い。
蛇口から勢いよく流れ出す水に青い空の色、白い雲が写り込む。
ヒナノは、蛇口を指で塞ぎ、太陽と隆史に向ってシャワーを浴びせる。
水しぶきには、七色の虹が現れる。
フレームの中の由比ヶ浜の景色に虹が入り込む。
紺と白の道着姿の隆史とヒナノが戻って来た。
痛快な笑顔で。
とある日の、剣道部の対校試合。
隆史も、ヒナノも、剣道部には所属してはいない。
しかし、指導教師に頼まれた。
対校試合をボイコットした部員がいて、人数が足りないらしいのだ。
相手は、県内でも極悪で知られる男子高校だ。
試合は、隆史やヒナノ達の高校の道場で行われる。
相手校の選手達とともに部員、応援も来ているが、揃ってガラが悪い。
隆史、ヒナノを含めた選手が居並ぶのを見た、相手校達は、
「おい!あの白いの、女じゃネエ?」
「およ、ベッピンさんがいるゾ!俺らの学校、なめられてネエか?」
「おい、おい、オマケに二刀流だぜ。打たれて~。打って~」
対校相手の部長、指導員が隆史たちの指導教師のところに挨拶に来た。
スゴミがある。チンピラなどではない。ヤクザ以上のスゴミ!
隆史たちの指導教師は、一歩、尻込みをする。
対校相手の部長は、恐喝するようなスゴミをもって言う。
「随分、舐めたことしてくれますね?女の子をうちの部員たちと戦わせるつもりですか?」
隆史たちの指導教師は、恐怖で言葉がでない。
相手校の部長は、少しニヤ付いた表情で囁く。
「女の子、どうなっても知りませんよ?」
そこへ白衣を纏った、まり子先生が登場。
「なにか、問題でも?」
と、静かに、重みのある声で言った。
それに、相手校の部長は、怯えるように立ち尽くす。そして、ヤジを飛ばしている自校の部員たちに、
「おい!だまらんか!静かにセイ‼」
と叫んで、まり子先生に、
「失礼いたしました。こちらの高校にいらしたんですか。あいつらには後ほど、コッピドク注意しておきます。なんの問題も無いですので」
と、いって引き下がってしまった。
(さすが、マリーだ。県内に昔の狂暴さが知られてる⁉)
(昔の?昔からの?)
隆史も、ヒナノも、指導教師も、去り行く、まり子先生を呆然と眺めるしかなかった。
(一応ではあるが、仁さんが居なくて良かった)
と隆史は思うのである。仁さんは、まり子先生を守るためなら何をしでかすか分からない。
試合が始まる。
審判が、先方で最初に出てきたヒナノの姿に
「高校剣道で、二刀流は認められてないゾ!」
隆史が飛び出て来て、
「すみません、彼女、二刀流じゃなくて、足が悪くて、一本は杖替わりでして‥‥‥」
審判は、マジマジとヒナノの姿を上から下まで見ながら
「なんと、神聖な剣を杖替わりじゃと?」
と呟く。
「いえ、一本で戦えますので」
と、ヒナノは、竹刀の一本を隆史に渡し、一本の竹刀を支えに位置についた。
両者向合い、戦い開始。
先ずは、剣を合わせる。
「お~、いい女じゃないか?可愛がってやるよ!」
ぽ~ん、と剣で突き放されて、片手で力強く胴を決められた。
バランスを崩したのと胴を払われた勢いで、ヒナノは転倒した。
「ふん」
とばかり相手は開始位置に戻る。
道場の開け放たれた扉に白衣を纏った、まり子先生の影。
それに、怯える相手校の部長。
すぐさま、自校の先方に竹刀で一撃を喰らわし、転んだヒナノの前に土下座する。
「すみません。お怪我、ないですか?」
ヒナノの方が慌てる。一撃を喰らった生徒の方をチラリと見て、
「あの、大丈夫ですので。やはり、足の悪い私には無理のようで‥‥‥」
それから、次の立ち合いも、ヒナノは力ない一撃を喰らい完敗したのだった。
その他、全敗で対校戦は終了。対戦校の生徒達は笑いながら帰って行った。
まり子先生も、姿を消した。
ヒナノは、悔しかった。最初は、隆史とヨリを戻すために始めただけであったが、負けず嫌いのヒナノには(やはり、足が悪くては何も出来ない!)と思われることも、思うことも、悔しくてたまらない。
後片付けを済ませ、全員、水飲み場で顔を洗う。誰かが、蛇口を指で塞ぎ、皆にシャワーを浴びせてフザケテ見せる。
青い空に水しぶき。七色の虹が現れる。
校庭越しに、由比ヶ浜の海、波、空、雲、岬、丘、浜辺の風景。
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