魔王からの挑戦状

 俺の攻撃の手を緩めさせて逆転を図るつもりだろう。

 自分で聞いておいてなんだが、攻撃を緩めることはしない。このまま殺しきる。


「次は案外、早く転生できるかもしれん」

「なっ……!?」


 衝撃の一言だった。

 16年でさえ人類にとっては短い間隔なのに、さらに縮むというのか。


「苦しみ紛れのハッタリか?」

「そう取って貰っても我は構わんよ。それはそれで我が再び復活した時、己の浅慮を恥じるお前の姿が見れるのもまた一興だ」


 さらにリンカネルは、俺が尋ねてもいないうちに詳細な情報をベラベラと語り始める。


「あの娘が聡明なのはお前も知っての通りだろうが、それと知覚を共有していたのだ。その過程で色々応用の利きそうな知識も得られた。短命の種族の知識だからと端から決めつけていたが、なかなかどうして、下らないと思っていた石ころの中に宝石が混じっていたのだな」


 こいつが素直に種明かしをする理由は、すぐに見当が付いた。


 完膚なきまでに、俺を打ちのめしたいのだ。

 

 単に暴力で圧倒するだけではない。

 俺の心まで叩き潰したいがためだけに、不意打ちのような形で蘇るのではなく、あえて予告をしたのだ。

『せっかく教えてやったのにお前は無力だな』と、したり顔で俺をなじるために伝えたのだ。


 奴が嘘をついている可能性も考えた。

 しかし、『遅く』復活すると騙して人間側の対策を手薄にするのであればまだしも、『早く』復活すると騙す理由が奴にはない。 


「さしずめ挑戦状、か」

「そうだ。まあ、受けるか逃げるかは勝手だが、な?」


 言葉とは裏腹に、リンカネルに俺を逃がすつもりはないだろう。

 もっとも、それは好都合であるのだが。


「逃げるつもりはねえよ。リーシャを殺したお前は必ず殺す。百回だろうが千回だろうと、どこにいようと必ずだ」


 俺の言葉を聞いたリンカネルは、どこか嬉しそうな顔を見せていた。


「一度壊れた人間がこんなにも綺麗な彩りを見せてくれるとは。……あぁそうか、これが愛の力か」


 何かに得心のいったような、満足げな声。

 

「面白い。ああいいぞエリアス・エメロード。我は元々自らの死程度で約束を曲げるような性格ではないが、それを抜きにしても……お前を殺さなかったのは正解だったかもしれない」


 空に演説するがごとく、辞世の句を高らかに詠む。


「我に向けろ! 敵意を、憎悪を、憤怒を! 再び相まみえたとき、『もう負けない』と自信に満ちたお前の心を再度ヘシ折り、跪かせようではないか!」


 リンカネルは言い残すと、静かに事切れた。

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ランキングが見える俺、魔王に復讐する ねこぽん @nekopon

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