第110話 出場者の選考
現在会議室として使われている宮殿。
そこで馴染みのメンバーでお茶を飲んでいた。
魔王が町を去ってから、二時間が経過している。
まずは現場にいなかった者たちへの報告だ。
理想郷の建国に携わる各々の幹部たちを見回しながら、会議を始めた。
「―――魔王軍とのタイマンが決まった」
会議室に沈黙が訪れる。
驚いて黙り込むのが大半、黙然する者は少数。
俺も正直、相手が真剣勝負を挑んでくるとは思っていなかった。
帝国の軍事力など蟻の巣のように踏みつぶすことのできる魔王の軍勢が、実力行使にでるわけではなく、正当な戦いを提案してきたのだ。
「俺を眷属にすることが奴の目的だ。唯一無二の黒魔術を扱う者を戦力に加えれば、人魔大戦を有利に進めると思っているかもしれん」
隣でエリーシャが心配そうに見上げてきていた。
幹部たちの顔に怒りが浮かんでいる。
「案ずるな、奴の勧誘に乗る気はサラサラない」
ルールの説明は受けている。
七対七の大将を抜いたチーム戦である。
先に三回、勝利した陣営が勝ち。
相手の言うこと聞く、魔王が考えた単純なものである。
戦争じゃなくて良かったと、今でも思う。
「しかし、こちらが勝ったとしても相手は魔王。自らルールを破るかも」
クラウディアが手を挙げて言った。
「無い、断言できよう。あの魔王はたとえ初めから不利な状況になろうと一度決めたことを曲げはしない。吸血族は契りにうるさいプライドの高い種族だからな」
ゲームでもそういうキャラだった。
ロベリアを裏切ったのも魔王本人ではなく、魔王軍にいる別の奴だしな。
「待ってくださいロベリア殿、あのちんちくりん魔王……吸血族だったのですか!?」
あ、そういえば、世間では知られていなかったな。
ええと、魔王ユニの詳しい事情までは知らないが彼女は『吸血族』と『竜族』の混血だ。
父親(魔王)が竜人族で、母親が吸血族である。
双方の血が流れているからなのか、二つの種族の特殊な力を扱うことができるらしい。
竜人族の超飛行能力と怪力とか、吸血族の血を吸うことで仲間を増やす能力と不老とか数えるのも面倒になるほど多い。
「彼女の姓が『ブランシュ・アブニール』なのも疑問ですね。精霊樹の管理者ミアとなんらかの繋がりがあるのでしょうか?」
幹部の一人。
家畜や農作物を担当している顎髭の生えた男性ピークスが尋ねてきた。
妖精王国にある精霊樹の管理者ミア・ブランシュ・アブニールと確かに同じ姓を持っているよな。
魔王ユニの父親の姓は『マグレディン』だ。
記憶が正しければ、理由は、
「初代魔王シオン・マグレディンはミアに恋をしていたからだ」
爆弾発言に会議室が騒然とする。
吸血族の妻がいながら娘に、恋していた女性の姓を付けるなんてトンデモない男だ。
うん、俺もそう思います。
「で、でも、ちょっとだけ、ロマンチックかも……」
頬を赤らめながらエリーシャはこちらをちらりと見ていた。
俺のいた日本だったら批判の嵐だけどな。
「話を戻すぞ。奴等がこの国に戻ってくるのは一週間後だ。その間に、魔王軍に対抗しうる七人を選ばないとならない」
「ならば適任がもう居るではないか!!」
ジークが叫んだ。
常時元気だなこの男。
「我ら三人がいるではないか! なあクラウディア! ジェイクよ!」
やはり、この三人は外せないか。
そうなると、あと四人……
「――――いえ、残念ですが。ジークさん、クラウディアさん。二人は除外させてもらいますよ」
と、いつもの優雅な雰囲気で言ったのはボロスだった。
クラウディアが声にならない声をだし、絶句していた。
「ボロス……それは私情か?」
「まさか、彼等よりも適任がいただけですよ」
いつもの自信満々な表情ではなく、本気に近い真剣な口調でボロスは言った。
仲の悪いジークとクラウディアを外したのには二人が嫌いだからではなく、ちゃんとした理由があるからかもしれない。
もともと王様だった奴だ、こういうことは俺よりも人一倍慣れているのだろう。
「首を飛ばされたいみたいだな……竜王。私に何の不満がある?」
クラウディアは凄まじい怒りで肩を震わせ、剣の柄に手を伸ばした。
いつでも敵襲に対応できるよう会議室への武器持ち込みを許可しているが仲間に対して刃を突き付ける行為は言語道断だ。
「言わなければ分からないのですか? 戦力的に全部劣っていますよ」
悪気もなく告げたボロスの首筋に、剣身が到達しようとした直前。
一足先に魔力防壁でクラウディアの剣を防ぐ。
「頭を冷やせ、クラウディア」
殺気を込めて言い放つ。
ビクリと震え、恐怖した顔でクラウディアは大人しく自分の席へと戻っていった。
「す、すまない……ついカッとなってしまった」
故郷を支配され、多くの人を殺された。
クラウディアがボロスを恨むのには、それが大きく関係している。
過去を清算することは、そうすぐにできることではない。
だが、できるなら仲間同士で戦ってほしくはない。
「勝てる可能性があるでは不足なのです。勝つ、これは決定事項です」
自分が殺されていたかもしれないことなど気にも留めず、ボロスは話のを続けた。
何だか、良く分からないけど、こういう時のコイツって一番信用できるような気がするんだよな。
「判った、お前に委ねよう」
黙って、耳を傾けることにした。
ボロスはお許しが出たことで非常に嬉しそうにしていたが、咳ばらいをして自分を落ち着かせていた。
「ジェイクさんの出場は決まりとして、あと六人候補がいます――――」
理想郷側の選手が、一晩の激論の末に決まった。
まさか、この七人になるとは誰も思っていなかったことだろう。
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