第102話 結婚式の作戦会議
理想郷が城塞都市になっていた。
町全体を十メートル以上はあるであろう城壁が囲んでいる。
そしてロベリア邸は、一国を統治する貴族の館のように大きくなっていた。
内装が豪華な作りになっており、何故か廊下に知らない絵画が飾られまくっているし、ほとんどの部屋の天井にシャンデリアっぽいのがぶら下げられているし、専用の温泉まで完備されていた。
「おいボロス」
「はい、なんでしょう?」
「……なにコレ?」
「我らの偉大なるリーダーの肖像画です」
かつて魔術研究に使っていた部屋の壁に、でっかい絵が飾られていた。
描かれているのは、どう見ても俺。
ちょっぴり美化されたロベリアの半裸姿が描かれていたのだ。
「移住なさった難民の中には優秀な画家がおりまして、その者に描いてもらったのです。予想以上の出来に、思わず涙を流してしまいました……! って……あのロベリア様? 何をして………あっ」
「………」
絵をベリベリに破き、窓の外に捨てる。
研究室にこんな物を飾られていては集中ができない。
常時、絵のロベリアもどきに監視されているようで気持ちが悪い。
すまないな、名も知らない画家よ。
無駄に増やされた部屋の一室でボロスとティータイムをしていた。
洒落たように言っているが、理想郷の現状を報告してもらうだけである。
人魔大陸の土では作物は豊富に育たない。
国を維持させるために必要とされる資源が不足するのは目が見えていた。
それを回避するために妖精王国ファンブル・ヘイムへと同盟を結びに行ったのだが、帰ってみれば理想郷は健在。
それどころか以前より遥かに発展していた。
「ロベリア様。お忘れかと思いますがこれでも私、王様ですから。竜の、竜王ですよ。かつて大勢の配下を切り捨ててきた暴君! 竜王ボロスです!」
「不安要素しかないクセに、よくここまで栄えさせることができたものだ。まあ、肝心なのはそこではなくボロス、貴様はいつから理想郷の表を自由に出歩けるようになったんだ?」
「それは、話すと長くなりますよ?」
「掻い摘んで話せ。一分以内にな」
「長くなる話を一分以内に………ふふ、さては私を試しているのですね? 私がどれだけ分かりやすく説明できる有能な配下なのかを試してらっしゃるのですね!?」
「早くしろ、殴るぞ」
とりあえずボロスの話に耳を傾ける。
まず俺たちが理想郷から発って一週間後にある集団が町にやってきたらしい。
何が目的なのかと現町長であるユーマが尋ねると、奴らはある少女を探していると返したらしい。
知らないと断言するユーマだったが集団のボスらしき男に『少女を出さなければ理想郷を滅ぼす』と頑なに立ち去らなかったので戦いが勃発。
人数は理想郷側の方が多かったのだが、総戦力で挑んでも集団に圧倒されていたという。
それを影から見守っていたボロスは、理想郷の危機回避のために参戦。
集団をたった一人で殲滅するが、最後に残ったボスとの戦いだけは互角だったらしい。
あのボロスが最終奥義を出すに至るまでの死闘。
結果、満身創痍になりながらも勝利を収めたのはボロスだった。
「しかし、力を使い切ったことで気を失ってしまったのです。町の住人に介抱されたことで何とか一命をとりとめることができたのですが………」
「存在がバレてしまった、ということか。話を聞く限りは致し方ない状況だったのだな」
目の届かないところでボロスは理想郷を守ろうと奮闘してくれたのだ。
理想郷の住人達に見られないようにしろとは言ったが、相手が相当な手練れならば目立たずに戦うのは無茶だろう。
「ええ、かなり手強い相手でした。正体を聞く余裕もなかったので、どこの組織なのやら……」
「どうせ仲間がやられたことで、また新たな刺客を差し向けてくるはずだ。その時に俺も参戦しよう」
「おお、心強い。これなら敵は手足も出せませんね!」
「あまり俺を買いかぶるな」
理想郷の戦士はA級魔物を単独で撃破できるほど強い。
その戦士たちを圧倒したとなれば、油断はできない。
そのためにも、俺も鍛錬をしておかなければ。
「一つだけ疑問がある」
「はい、何でしょう?」
「アルスとジェシカのことだが……」
それを聞いた途端にボロスの眉がピクリと動くのが見えた。
そう、ここからが最も肝心な話だ。
いつもよりも圧のある声で、言葉を続ける。
「俺の知らないところで、師匠第二号が誕生したようだが――――ほう、良い度胸ではないか竜王」
「話すと、長く、なりますが……?」
「端的に話せ、一分以内にな。それだけの時間があれば死滅槍を生成できそうだ」
「待ってください。気にはならないのですか!? どうしてあの二人の身体が急激に成長したのかを!」
ピタリと武器をとる手を止める。
そうだ、それが一番知りたいことだった。
「やはり貴様の仕業だったのか……」
「あれは、あの二人が望んだことなのです。ロベリア様の力になりたい、理想郷を自分達の手で守りたい。それを聞いて、私は感銘を受けたのです。あの二人の意志ならばきっと―――なので私の血を二人に分けたのです」
「は?」
え、血を分けた?
つまりは、あの二人の体内にいまコイツのが流れているのか?
「『竜の血』は貴重です。飲めば不死身になるのではと伝説にされるほどです」
「まさか……!」
「安心してください。不死身などにはなりませんよ、ただ少しだけ寿命が長くなるだけです」
「本当に、少しだけなのか?」
怪しいので、ボロスを睨みつける。
身を若干震えさせながらボロスは観念したように小声で言った。
「え、ええ、二百年ほどは伸びたのでは……ないでしょうか」
普通に長すぎるわ!
つまりはアルスとジェシカの寿命は二百何十歳ぐらいになったというわけか、それでは魔族じゃないか。
二人が望んだことなら文句は言わないが、人の理からはみ出してまで力が欲しいのかアイツ等。
それとも、まだ子供だから事の重大さを理解していないのか。
「その副反応で二人は一週間ほどの昏睡に陥ったのですが、もとから竜の血への適合率が高かったのか、すぐにその身に馴染ませたのです」
「……アルスは、一度だけ俺の黒魔術により体内を黒魔力に侵食されたことがあったな。万能薬で何とか侵食を抑えることができたのだが……それで耐性ができたかもしれん。しかしジェシカの方は……」
「純粋に才能ではないでしょうか?」
竜の血に適合する才能。
そんなものがあるのか?
「我々は二人の出生を知らない。ただ故郷を魔王軍に滅ぼされ、難民として理想郷にやってきた情報しかない。二人の過去をもっと深く調べない限りは何とも言えませんね」
「………奴らの過去を知る必要はない、重要なのは今だ。二人が力を求めるのならば後のことは貴様に任せよう」
「そ、それはつまり」
「癪だが今日から、貴様を二人の師匠として任命する。二号としてな、師匠二号」
重要なので二度言う。
「あ、そういえば。どうなさるつもりなのですか?」
にこりとボロスが尋ねてきた。
どうするって、何をどうするんだ。
「……なんの話をしている?」
「もう、またまた~。ロベリア様が一番分かってらっしゃるではないですか~」
「……」
「……」
?
「エリーシャ嬢との結婚はいつになるのか、聞いているのですが……」
エリーシャとの結婚。
(ああああああああああああ!!!!)
愛弟子と理想郷の変わりように気をとられていたせいで、うっかり忘れていた。
最も優先すべきことなのだ。
特に、女性側にとって人生で最大のイベントではないか。
忘れていたでは済まされない!
ガンガン!!
悶絶しながらテーブルに頭を打ち付ける。
慌てて止めに入るボロスの腕を掴み、顔を近づける。
頭から血を流しながら人を畏怖させる眼光に、ボロスは顔を青ざめた。
「け、結婚式は………どうすればいい?」
「そ……そこからですか?」
竜王との結婚式作戦会議は、徹夜して行われるのであった。
―――――
近況にてロベリアのイラストを公開しました。
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