第8章 巨人の侵攻

第100話 クロウリーの次男




 僕はロベリア・クロウリーの弟だ。

 世界をさすらう旅人である。


 趣味は人間観察。


 好きな食べ物はミディアムレアのステーキ。

 断面のピンク色が好きだ、可愛いから。


 加えて美味しいのでミディアムレアの右に出る料理はないと思っているほど好きだ。

 なので肉の持ち運びは欠かせないようにしている。


 お腹が空いたときは調理して食べる、何百回繰り返したか分からない作業だが、お腹が空いているときの手間は焦らされているようで最高だ。


 おっと、勘違いしないでくれよ。

 僕は別に変態などでは決してないから、そこんとこヨロシク。




「……た、食べ……もの……」



 道中に、行き倒れの人間発見。

 初老の男性だ。


 かなりやせ細っており、水浴びをしていないのかかなり汚れている。


 もしも、この場に僕ではなく兄さんが遭遇していたら無視を決め込んでいただろう。


 だけど僕はこれを見過ごしたりはしない。

 この男性に救いの手を差し伸べよう。



「肉、食べますか?」



 穢れのないスマイルを浮かべながら荷物の中から、まだ新鮮な肉を取り出す。


 薪を集め、火を起こし、男性の目の前で調理する。


 男性はまだかまだかと待っていたが、こちらにも拘りがあるものなので、すぐに食べさせたりはしない。

 焼き加減も、こちらの好みとしよう。


 調理を終えて、すぐに男性に食べさせる。



「うっ……ありがとう……てっきり……もう死ぬかと思った……うめぇよぉ」



 気に入ってくれたようだ。

 こちらも苦労して手に入れた甲斐がある。


 男は肉料理を完食し終えると、お礼に金品を一部分けてくれた。

 初めは断ったのだけど、男性はどうしてもと引かなかった。


 なので有り難くいただくことにした。



「なぁアンタ、俺とおんなじ旅人なんだろ? 行き倒れる数日前にある噂を聞いてさ」


「噂……ですか?」


「ああ、それがかーなり物騒でさ。ここら辺の地域にある村や町で無差別殺人事件が多発しているらしい。それも聞いた話によると結構エグい殺され方らしいんだ」



 男性の話を聞いて鳥肌を立たせる。



「被害にあった村や町に生存者が一人もいないせいか今のところ目撃者はまだゼロ人らしい。お前も行く先には気をつけろよ?」



 なるほど、まさかまさか。

 あまりにも嬉しくて笑ってしまう。

 それを見た男性は少しだけ奇妙そうにしていた。



「情報共有をありがとうございます。僕も気をつけることにしますよ。いやぁ、世の中は物騒ですね。大勢を殺すなんて……人間のやることじゃない」


「だよな、この話を聞いて俺は許せねぇって思っていたんだよ。もし、その無差別殺人鬼と遭遇したら、こう……グサッ! ってニ度と殺人なんざ出来ない体にしてやるってのに」



 男性はナイフをちらつかせた。

 殺人を出来なくする、面白いことを言う人だ。



「はは! 一晩で町の住人を皆殺しにした男ですよ? 返り討ちに遭うだけですよ」


「そ、そうかな……」



 まあ、僕がやったんですけどね。

 この男性もいまの発言で気づかなかったのだろうか。


 何も知らないはずの人間がどうして『一晩にして皆殺しにした男』という情報を知っているのか。


 張本人ですもんね、僕。



「それでは、僕はここら辺で」


「ああ、そうか? ありがとな、食糧をこんなに沢山分けてもらって。これなら一週間は食べ物に困らねぇ」


「僕もまだ余裕があるのでお気になさらず。次また逢ったときは、行き倒れないでいてくださいよ?」


「ははっ、気をつけるよ。じゃあな」



 まさか、数日前に襲った村で調達した住人たちの肉を食べさせていたとは思いもしないよね。

 美味しそうに食べていたし。



 人を食べるだなんて倫理的にアウトだとか、くだらない話をしだす輩は数えきれずいるが、世の中にいる有りとあらゆる生物の共食いなんて当たり前のことじゃないか。

 どうして人間だけがダメなのか、そこが理解できない。





「次の目的地は理想郷———人魔大陸か。まだまだ遠い道のりになりそうだな」



 国づくり?

 紛争の難民の支援?


 クロウリー家の長男が、僕の憧れたロベリア兄さんがそんな優しい人なはずがない。


 信じない、許さない。


 壊してやる、兄さんの築き上げたものを全部壊してやるから———

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