第86話 勇者との再戦
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衝突した魔術の魔力を吸収する炎属性黒魔術である。
まさか森をまるごと燃やしてこようとするとは、数少ない人魔大陸の自然を大切にしろよ。
まあ、精霊教団が過激派だってことは理想郷襲撃で分かっていたことだし、こちらも容赦をする気はさらさらない。
「………ほう、全滅しなかったか」
砂煙が晴れる。
意外にも数十人が生き残ったな。
騎士と違って魔術での防御手段を持っているもんな。
しかし、生き残りのほとんどが瀕死寸前だ。
まともに戦うことは、まず出来ないだろう。
申し訳ないが、まだ戦う意思のある奴にはトドメを刺すとしよう。
手を上げ、魔力を込める。
「「「――――うおおおおおおお!!!」」」
ピクリと眉をひそめる。
立ちこんだ砂煙に紛れて、大勢の兵士が一気に攻め込んできたのだ。
小癪な真似を、通すわけがないだろう。
【
天に出現した魔法陣から幾千もの漆黒槍が、死に物狂いで特攻を仕掛けた敵軍へと降り注ぐ。
四肢、胴体、頭、あらゆる身体の部位がそこらに吹き飛んでいく。
まさに地獄絵図とはこのことか。
舞い上がる砂埃に血の霧が混ざり、悲鳴がそこらに木霊している。
「……チッ、しつこいな」
教団の残党どもが展開した魔力障壁によって命拾いをした兵士が、かなり多くいた。
こういう時だけ連携が上がるの何なんだよ。
「おりゃあ!!」
「おぉおお!!」
「死ねぇええ!!!」
複数人が一斉に飛びかかってきた。
時代劇のような空気を読んで順番にかかってくるお決まりなんてクソ喰らえだと、吐き捨てんばかりの猛攻だ。
だが、奴らの剣が俺の身体に到達することはなかった。
もう殺しているからだ。
恐れることなく真っ正面から向かってきた度胸を誉めてやるが無謀なのは感心しないな。
あの世で、仲間達と反省会でもしているといい。
なるべく通さないよう広範囲の黒魔術を発動させる。
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岩をいとも容易く、砕いてしまうほどの強力な落雷が兵士達を襲った。
絶叫を響かせながら次々と命が事切れていく。
何千人殺したのだろうか、もう数えていない。
だがやはり多すぎる!
数千人の軍勢プラス、魔術師の後方支援あり。
先に魔術師を対処するとなると森への侵入を許してしまう。
あれ、ちょっと待て、嘘だろ。
スナッチャーも数百匹は紛れているぞ。
まずい、本格的にマズいことになってきた。
魔術師を後にしてスナッチャーを最優先に排除していくか?
魔力障壁の南側に空けてしまった穴に侵入されたら一番厄介な奴らだ。
よし、決めた、他の奴らは後回しにしてスナッチャーを狙い撃ちするぞ。
数匹逃がしてもいい。
妖精王国の方には頼れる仲間達がいる。
この程度の戦力なら大したことはない。
スナッチャーを黒魔術で撃ち抜いていると、空の方から膨大な魔力を帯びる存在に気が付く。
(……おいおい、マジかよ)
最悪の巡り合わせに呆れながら、防御態勢に入る。
空を見上げると、聖剣が眩い光を放っていた。
聖剣の所有者となれば一人しかいない。
――――【
聖剣に纏わせた光が、十字の斬撃となって襲い掛かってきた。
初手から派手な剣技での攻撃とは相変わらず頭の悪い方法だ。
戦場のド真ん中で放ったら、付近にいる仲間達も巻き込まれるかもしれないことを考慮していないのかコイツは。
――――【
血に濡れたように赤く、高い強度を持つ糸で、迫りくる斬撃の軌道をずらす。
案の定、斬撃は兵士たちに直撃。
言わんこっちゃない、あれで何人死んだのやら。
「お前は、ロベリアッ……!?」
こちらの正体を、ようやく認識したのか奴は声を漏らした。
俺もそうだよ勇者ラインハル。
まさか、こんな殺伐とした大陸でお前とふたたび相まみえるとは思っていなかった。
どうしてラインハルがここに居るのか、奴も同じことを考えているかもしれない。
だけど、その前に主人公として確認したいことがあるだろう。
「やっと……やっとお前を見つけることができた。どれだけ探しだそうとしても発見することができなかったのは……そうか納得だ。アズベル大陸にはもう居なかったのか……つまりエリーシャも……?」
「さあ、知らんな」
「嘘だ……嘘だ嘘だ!!」
聞く耳を持たない勇者だな。
まあ、嘘だけどな。
「教えろ! エリーシャは何処だ!? さもなければ殺す!!!!」
未だかつてない怒りと悲しみに震えながらラインハルは聖剣の力を解放した。
勇者の加護『勇ましき炎』の最終覚醒か。
凄まじいものだ、災害級の力と言えよう。
こちらも以前のような手加減ができないので、それぐらい本気になってくれないと、すぐに殺してしまうかもしれない。
ちょうどいい。
「来い、遊んでやる」
この先にいるエリーシャの元に向かわせてやるものか、必ず食い止めてやる。
さあ再戦だ、勇者ラインハル。
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