第65話 女魔王ユニ
魔王国、首都ネクロノにて。
魔王城の玉座に、悪魔のような角を生やした銀髪の少女が座っていた。
彼女こそが魔王ユニ・ブランシュ・アヴニールである。
高らかに笑いながら「ざぁこ〜ざぁこ〜」と何故か連呼していた。
「魔王様、一体何をなさっているのですか……？」
家臣の一人が、呆れながら尋ねる。
玉座にユニはふんぞり返っていた。
「ははは！ よくぞ聞いたぞメフィス！ 勇者一行との死闘で、余が圧倒したときに煽ろうかと思って台詞を考えていたのじゃ！ こんな幼子にやられてくやしくなかろうか～ざぁこざぁこ～とか」
両腕を組み、ドヤ顔で答える。
「魔王様、それはあまり効果はないのでは？」
「なっ、なんじゃとっ！ 何故じゃっ！？」
「五百年も生きている魔王様が子供扱いされるとは到底思えませんので……」
「がびーん！！！」
言ってはならない禁句にユニは相当なショックを受ける。
メフィスと呼ばれた家臣は初めからこうなることを知っているのに、それを堂々と口にしたのだ。
恐ろしいほど正直な家臣である。
「ふんだっ！ 余は不老だから美しい姿を保っておるのじゃ！ なので実質年齢に変動もないということ！ どうじゃ！ ド正論だろうがい！？」
「いえ、微塵も関係ないかと」
「がびーん！！！！」
ユニは玉座から転げ落ちた。
そして分かり易く、ユニは両手を床につけて落ち込んでいた。
時間は流れる。
年齢もそうだ。
たとえ姿が変わることなくても年齢は変わるのだ。
その事実をユニは初めから自覚していた。
していたからこそ、考えないようにしていた。
「もういいや……もう魔王やめる。魔王国も世界もろとも滅んでしまえ……」
魔王の間の隅に座りこみ、ブツブツ何かを言っていた。
家臣たちは「またか」「感情の浮き沈み激しすぎだろ……」とか完全な呆れモードである。
時々ユニは構ってもらいたいかのように彼らをチラチラ見ていたが、とりあえず無視を決め込むのだった。
彼女は本当に魔王なのか。
ユニと初めて会った者はみんな同じことを思っていた。
サキュバスなのか、吸血鬼なのか、子供なのか、魔族なのか、悪魔なのか。
渋滞するほどの個性を持ち合わせているからこそ、威厳ある魔王を期待していた者たちは落胆してしまうのだ。
そんな時、漆黒の翼を生やした美男子が現れる。
ユニの前で跪いて、はっきり聞こえるように言う。
「魔王様、報告です」
「……なんじゃラプラ。余は壁のシミを数えるのに忙しいのじゃ」
「魔王様が眷属にしたいと、探し求めていた者を発見いたしました」
「おん！？」
本当か！？
と目を輝かせながら飛び跳ねるユニ。
他の家臣らも、ラプラの報告に騒々しくなる。
「遂に！ 遂に！ 遂に見つけたのかラプラよ！ でかしたぞ！！」
「遂にって……たったの一年ですよ」
「黙れメフィス！ 余はいま感激しておるのだ！」
「はーい」
「して聞こうラプラ！ その者はいまどこにいる！？ 嘘をつくんじゃないぞ！」
昂りすぎて感情を抑えられなくなっているのか、ものすごい食いつきようでユニは問い詰めた。
流石は魔王か、マイペースである。
それでもラプラは顔色一つ変えない。
「人魔大陸の妖精王国にむかってるとのことです」
「ほう！ スミンドの王国になにか用があるのか！？」
「目的は定かではありません。しかし妖精王と接触したことで争いが勃発することがあれば、我ら魔王軍は彼の者の味方になった方がよろしいかと」
「ふうむ、そうじゃな。そうじゃな。ラプラ、お主の意見には賛成じゃ」
魔王ユニは偉そうに言ってから玉座に戻る。
遠慮なく座りこむと、足を組むのだった。
そして八重歯がみえるように、ニヤリと笑う。
「吸うのは、余が選んだ名誉ある者だけじゃ……くふふ、楽しみじゃの」
先代の魔王、吸血族の女王の間に生まれたユニは今まで一度も吸血という行為をしたことがない。
何故なら、彼女が飲むのは眷属になった者の血のみ。
人族で最も嫌われている魔術師。
自分と同じ、最強の十二人『銀針の十二強将』の一人。
ロベリア・クロウリーである。
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