第28話 力の解放


 戦いが始まった。

 魔術師と剣士では、こちらが不利だ。


 いくら魔術が強力でも発動までに時間がかかる。

 比べて剣士は身体能力が高く、油断をすれば瞬く間に懐の中に飛びつかれてしまう。


 戦いを左右するのは、いつだって相性だ。

 だが、相性では到底超えることのできないものはある。

 それは実力の差だ。


 ロベリアはラインハルよりも強い。

 地面を蹴り、聖剣を振り上げるまでの動作など簡単に捉えることが出来ていた。


「……ふん」


 普通に避ける。

 間抜けな顔をするラインハル。

 かなりのスピードを出したつもりなのだろうが、こんな簡単に避けられるとは思っていなかったのだろう。


「はあ!」


 勢いを殺さずの2撃目。

 流石に回避する暇はないので硬質化した腕で軌道をずらした。


「おらあああ!」


 荒々しい声で叫んでいたが届かない。

 殆どの攻撃は空を切り、俺への致命傷にはならなかった。

 剣術の腕は上級を遥かに凌ぐものなのだが、やはり足りない。


 いままでラインハルは様々な試練を潜り抜けてきた。

 しかし、それは仲間達がいたからこそである。

 一人では何もできまい。


「剣を下ろせ、貴様如きが俺に敵うはずがないだろ」


「くっ……断る!!」


 事実を突きつけてもラインハルの猛攻は止まらない。

 喋るだけ。そんな単純なことも容認できないのかこの主人公は。


 そろそろ面倒になってきた。

 攻撃を避けながら【凶悪イーヴィルチェーン】(腐食効果なし)で奴の両腕を拘束する。


「ぐっ! なんだこれはっ!」


「貴様の仲間をやったのは俺ではない。ゾルデア自身が暴走を起こし、ジェイクがそれを止めようとして相討ちになったのだ」


「そんな……都合の良い話を信じろというのか?」


「ならば直接本人どもに聞け、すぐに分かろう」


「あんな状態なんだぞ、二度と目を覚まさない可能性だってあるというのにっ!」


 信じられないといった顔を向けられる。

 周りの団員達も、俺がジェイクらを貶したと思ったのかブーイングが飛び交う。


 いや、ジェイクなら目を覚ますさ。

 仲間ならそれぐらい信じろよ、なあ、ラインハルよ。


「俺はお前とは戦わない」

「罪から逃げるのか、この卑怯者!」


 聖剣が眩い光を放ち、鎖を断ち切った。


 聖剣の力か、やはり手ごわいな。

 黒魔術に匹敵する代物だ。




 瞬きをした瞬間、右の視界で血が飛び散った。

 右肩を切られたのだ。

 感心をしている暇はなかった。



「へっ……俺を舐めるなよ」


 勇ましい自信。

 やってやった感に満ち溢れた表情である。


 これは手足も出ない強敵にようやく一撃を入れ、流れが変わる展開だ。


「はあああ!」


 先ほどとは比べ物にならないスピード。

 避けるのがやっとだった、それでもラインハルは引かない。

 不屈の精神で食らいついてくる。


 なぜ、話を聞かない……。

 どうして信じてくれないんだ……。


 正義感にあふれた主人公ならロベリアを理解したっていいじゃないか。

 それは俺が―――



「……のか」


「?」


「……俺がロベリアだからなのか! 悪役だからなのか!?」


 もういい、偽りの勇者に手加減など馬鹿々々しい。


 俺を信じないのなら、否定し続けるのなら壊してやる。

 貴様も、ここにいる仲間どもも一人残らず壊してやる。


 制限リミッターをかけていた黒魔力を解放する。

 空が曇り、大地が揺れ、この場にいる存在をすべて畏怖させる。


 禍々しい力だ、肉体だけではなく精神も蝕まれそうだ。

 だが、俺も覚悟ができたよロベリア。



 ―――言葉ではなく、力で納得させてやる主人公ラインハル

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