第21話 花の丘へと
「俺が止めるんで、姫様を連れて逃げてってくれ。この人、暴走すると見境なくなるんで」
「……貴様の任務は、こいつを連れ戻すことではなかったのか?」
「いやぁ、そうだが状況は変わった。このままじゃゾルデア姉さんは姫様まで殺しちまう。俺が食い止めているうちに、早く遠くに」
そう言い、ジェイクは矢を番えた。
そして理性を失った相棒に狙いを定め、射る。
それをゾルデアは考えなしで斬り落としたが、煙幕だ。
モクモクと周囲を、煙が蔓延する。
「それに、依頼されたのは俺らだけじゃねぇ。もう一人、もうすぐ此処に到着するはずだ。俺の役目は、それまでに時間を稼ぐことだ」
カッコイイな。
ここは俺に任せて先に行けか、いや違うか。
だけど俺が女だったら確実に惚れているところだろう。
ならお言葉に甘えるだけだ。
「………ああ、感謝する」
あれ、思ったより素直に言えた。
それを聞いたジェイクは少しだけ微笑み、弓を構える。
「その友人とやらに逢えると良いな」
ジェイクが呟く。
それを聞いたリーデアは力強く頷いた。
俺とリーデアを逃がすということは任務を放棄したということになる。
だがジェイクという人物はそういう奴なのだ。
暴走した仲間を野放しにすれば誰かを殺してしまう。
そうならない為に、命に代えても最善を尽くそうとしているお人好しなのだ。
だから先程も戦闘を一旦、一時中断して話を聞いてくれた。
俺は彼の言う通り一刻も早く、その場から去るのだった。
――――
どれだけ進んだのだろうか。
2時間は走りっぱなしだった。
森を抜け、川を越え、また森を走る。
時々、野生の魔物と遭遇したりしたが、瞬殺をした。
夜が明ける。
空を見て、俺はそう思った。
「ごめんなさい……にゃ」
不意に耳元で謝られた。
リーデアを背負っているので顔は見えないが、申し訳なさそうにしているのだけは分かった。
先程、戻ってきてしまったことなのか、それとも俺に面倒をかけさせたからなのか、思い当たりしかない。
威厳のくそもないのに、態度だけはデカい。
人の言うことを聞かない。
単細胞の馬鹿猫。
将来、暴君となり国を危機に陥らせる。
それが彼女だ。
けど、別にいいじゃないか、それでも。
それがリーデアという人物なのだから。
「ぎにゃああ!?」
「余計なことを」
俺はリーデアの頬をつねった。
怒ったからではない、なんとなくだ。
「貴様はまだ無知で若い。これからも数えきれない程の失敗を繰り返すだろうが、それを覆すチャンスだって、いくらでも残っているはずだ」
「……妾が失敗なんかするかにゃ!」
「する、生きていけば嫌というほどにな」
俺はそう断言した。
「うぅ……分かったにゃ」
流石に、言葉の重みを理解したのかリーデアは素直に承諾した。
取り返しのつかない失敗をし続けたロベリアのようにならなければ、あとは万事どうにでもなる。
それが人生ってものだ。
転んでも立ち上がる。
その積み重ねがいつか、
『―――いつか……なんだと言うのだ?』
(……え?)
たった今、脳裏に直接語りかけられたような気がした。
聞き覚えのある声。
ロベリアの声がしたような……?
いや、そんなはずがない。
この肉体の人格は俺だ、ロベリアではない。
大丈夫だ、落ち着け。
きっと気のせいだ、気にするな。
―――――
さらに数時間が経過する。
追っ手はいないようで安心した。
ジェイクがなんとかして引き留めたのかもしれない。
彼やゾルデアが死んでいないことだけを祈ろう。
だけど、英傑の騎士団に敵対してしまったのは事実だ。
こちらが手を出していなくても、結果的にはそうなるだろう。
平原の先を進んでいると、広大な花畑を見つける。
その先には小高い丘があり、一軒の家が建っていた。
潤んだ瞳でリーデアはそれを見つめていた。
辿り着いたのだ『花の丘』に。
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