第15話 愛されている悪役
日が昇り始めていた。
森の中を歩きながら、思い返す。
ロベリアは作中の登場人物全員に嫌われている悪役だ。
始まりから終わりまで、悪行をしまくっていたから当たり前のことだが、彼がこうなってしまったのには理由がある。
彼が生まれたのは貧しい村だった。
病弱な父親にやせ細った妹のエル、家や衣服は常にボロボロ。普通の人間では、とても住めるような環境ではなかった。
ロベリアは幼いながらも病弱な父を気遣い、付近の町に行っては仕事を探した。それでも仕事を見つけることが出来なければ、その日を凌ぐために盗みを働いたりしていた。
金がなければ生きていけない。
死に一番近いであろう環境下で、十歳にも満たない子供は世界の残酷さを思い知ったのだ。
盗みを働いていることは家族には言っていない。
畑や町の手伝いで得た日銭だと嘘をついた。
善良な父のことだ、きっと幻滅するだろう。
なにより妹だ、長男が手本にならなければならない。将来、自分のような盗みを働くクズにはなってほしくないのがロベリアの願いだった。
———そんなある日、少年ロベリアは行き倒れの魔族と出会った。
全身に切り傷を負っており大量の血を流していた。
ここで見て見ぬふりをして、見捨てればきっと死ぬだろう。
それほど魔族は疲弊しきっていたのだ。
意外な話になるが、当時のロベリアには見捨てるといった選択肢はなかった。
人の苦しみというものを理解しているからこそ、たとえ他人でも見捨てることができなかったのだ。
自分のことのように心を痛めたロベリアは、魔族を助けることにした。
外の者たちに知られないようコッソリと家に匿い、なけなしの食べ物を与え、布団にも寝かせた。
そんなロベリアに、魔族は涙を流しながら感謝をした。
自分のような異形を怖がらずに介抱してくれたからだ。
魔族の回復力は人間よりも倍早かったため、一週間もすれば治る。その間、魔族は家に残る父の話相手、妹の遊び相手を務めていた。
楽しそうにする家族を見たロベリアは、彼を助けたことに間違いはなかったと自分を誇らしく思った。
これからは盗みではなく、人助けをして真っ当に生きていこう。
そうすれば自分らも報われると、そう信じた。
その後、完治した魔族との別れは早いものだった。
行かないでと泣く妹を魔族から引き剥すのは大変だったが、一言「ご武運を」とだけ魔族は告げ、村から去っていった。
彼と出会えて良かった。
―――まさか、彼の引き連れてきた魔王軍によって故郷を壊滅されるとも思わずに。
王都に進行していた魔王軍によって故郷は一晩で滅んだ。男は殺され、女子供は奴隷として人族の奴隷商人に売られる。
ロベリアは成す術もなく最愛の父親を目の前で殺され、妹と共に奴隷されてしまう。
あの魔族は怪我を負いながらも情報収集をしていたのだ。信用して、命まで助けてやったのに、裏切られたのだ。
この頃だった。
ロベリアの心が『歪』に変化していったのは。
孤高を貫き。
誰よりも強くありたい。
常に自分が一番にならなくてはならない。
このようになってしまったのは過去の経験があったからこそである。
言い方を変えれば、それは彼だけの『正義』である。
しかし『正義』は見方を変えれば『悪』となる。
勇者ラインハルから見た彼は絶対的な悪なのである。悪だからこそ相手の立場を理解せず排斥しようとする。
だからこそロベリアという存在は、作中の誰からも嫌われている『悪役』となったのだ。
しかし勘違いしないで欲しい。
この過去はすべて彼の死後、明らかになったものなのだ。
最初はユーザーからも嫌われていた彼だったが過去が明らかになったその後、登場人物の中でも一番愛されるようになったのだ。
作中で一番の嫌われ者。
現実では一番の愛され者。
それは我々が、彼の過去を知っているからである。
作中の登場人物らは、この事実を知らない。
知ろうとしないからロベリアは悲劇的な悪役と呼ばれているのだ。
俺もロベリアは大好きだ。
たとえ人格が偽物であろうと彼が報われる未来を実現したい。
勇者ラインハルに殺されるバッドエンドではなく、誰からも愛されるハッピーエンドに———
―――
英傑の騎士団ギルド本部。
そこは貴族の所有地でもあるかのような豪邸だった。敷地は端から端まで十分はかかるほど広く、そこらにはギルドに所属している顔ぶれがいた。
鍛える者、何かを食べている者、遊んでいる者、お喋りをしている者。
組織内であるにも関わらずに賑やかである。
そんなギルドの長たる勇者ラインハルの元に手紙が届いた。
手紙を持ってきたのは、メイド服の少女。
銀髪のちょっと痩せたメイドである。
「……ラインハル様宛の手紙です」
「え、俺に?」
暇そうに窓の外を眺めていた彼は手紙を受け取り、差出人の名前を確認する。
つい最近、黙って何処かへと行ってしまったクラウディアからである。
内容を確認すると。
竜王が倒されたことが記されていた。
クラウディアが単独で倒したのかと思いきや、どうやら違うようだ。
魔術師ロベリア・クロウリーが倒したと書かれていた。
「竜王を倒したのがロベリアだって……!?」
「えっ」
と、同じ部屋にいた、もう一人の少女がお茶をこぼした。
彼女の隣に座っていた兵士は慌てながらカップを拾い、濡れてしまった箇所を布で拭く。
「どうかしたのかい、リアン姫」
「い、いえ……なんでも」
自分を助けてくれた恩人が、またどこかで活躍をした。それも、誰も倒すことができなかった竜王をである。
(ああ、ロベリア様。また貴方は誰かをお救いに……)
リアンは密かに、内心でガッツポーズをとりながら喜んでいた。
何処かぼーっと一点を見つめているリアンに苦笑いしながら、ラインハルは手紙の内容に疑念を抱く。
また相対することがあるはずだ。
その時、直接本人に何を企んでいるのかを聞きださなければならない。
もしも彼がまた誰かを傷つけようなら、その時は聖剣を振るおう。
第二章 終
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