【9日目】対峙
それは突然現れる…。
遠方より眩しいくらいの感覚が身を刺す。
「皆さん、おいでなすったようですよ。」
天幕の中でくつろいでいた皆に向けて言った。
全員で一旦天幕より出て空を見上げる。
その数…4。
僕は、想定を遥かに越える数に大きく溜め息をついた。
"しかし、諦めるにはいかないな…。"
頬を叩いた。
あっという間に近づき、緩やかに高さを下げてくる魔人達に、僕は大声で叫ぶ。
「天幕の中でお話を伺います。こちらへどうぞッ!」
全員が砦の外に設置された大型の天幕へと入り、お互い向かい合わせに席につく。
僕らしかいないので、竹筒からコップにうつしたお茶を差し出す。
"…うん、眩しい。"
なにを話すつもりなのかわからない為、なるべく情報を与えない様にと、僕は最小限の言葉で伝える。
「なにか話があるとの事、本日我々が聞かせて頂きます。」
僕の消滅領域がやつらへの切り札だ。
たった1つの切り札である以上、切り時は間違える訳にはいかない。
たぶんこの化け物どもはこちらを瞬殺出来る。
…手の内がバレたら更に全滅の可能性が上がる。
ここが、僕の見せ場だ!
しっかり大役を果たすとしよう。
…4人。
"敵わないまでも絶対に1人でも多く…道連れにしてやる…。"
僕は軽く魔人を睨んだ。
魔人の1人が、こちらの力の入り方に溜め息を落として話し出す。
「『警戒するな。』と、言うのは無理だろうが、別に殺しにきた訳ではない…。我らは同胞の消滅などはじめての体験だ。少し消滅に興味が湧いて訪れただけだ。まぁ、纏わり付いて煩わしければ撃ち払いもするだろうが、…我々は人などさして興味もない。」
たまらず僕は口を挟んだ。
「は…?失礼ながら、魔人がこれだけの人を煽動し争いを仕掛けたと聞いていますが?…興味がないですか!?…」
なんでも無い事のように魔人は答える。
「魔人!?あぁ…我らを好きに呼べばよいだろうが…。同胞の1人がなにやらそんな事をしてたと聞いている。しかし、その同胞は消滅したのだろう?…例えるなら人の1人がなにかをしたとして、人全てにその責任を感じろとでも言いたいのか?」
「なるほど、つまり貴殿方は別に人と望んで争っていた訳ではないと?そもそも貴殿方はどれだけの数いるのでしょう?…答えたくなければ構いませんが。」
魔人は、吹き出しながら言う。
「争いか…ハハハ。争いね…争いになるのか?あまり人をそんな風に考えた事もなかったが…。言うなれば我々にとってその辺の獣と区別はないな。…我々はここにいる4人で全員だ。200、300年に1度…理由はわからんがいつの間にか増えるようだな。名などつけておらんが、便宜上私が古いので1番目だ。…そして、消滅したのが4番目だな。…これでいいか?」
魔人が総勢5名だったと聞いて心底ホッとした。
こんな化け物どもが、これ以上うじゃうじゃ居ては堪らない。
そして口振りからそうそう簡単に増えない事を理解した。
これはありがたい、…少し落ち着いた。
「確認ですが、人と争う気はないと言う事ですか?それを信じろと…、その同胞は現実に侵略して来たのにですか?せめて侵略してきた理由を知らねばとても信じる気にはなりません。」
1番目は、うーんと悩むように言葉を探す。
「理由…。私にはわからないが、5番目は誕生よりまだ日が浅い…。浅いと言っても2、30年か…。確か、4番目と共になにかやってたのだろう?わかるなら答えてあげればいい。」
そこで、5番目と言われた魔人が口を開いた。
「あぁ…、確かに暇だから創造主ごっこをしようと誘われて遊んでたね。僕らも消滅すると知って怖くなったから僕はもうやらないけどね。」
「だそうだ。」
…。
は?…。
一瞬なにを言われたのかわからなかった。
暇潰しの創造主ごっこと言う遊びに巻き込まれ、人達は殺し合った…。
そういう事なのか…。
僕の呆けた顔が面白かったのか笑いながら1番目が話を継いだ。
「あれもまだ若かったからな…ハハハ。まぁ、暇だったんだろうな。理由が気にいらんと纏わり付いてくるなら煩わしいが…さしたる驚異でもなし、好きにしたらいい。こちらから人を残らず滅ぼすなど別に考えておらんよ。…その理由は面倒だからだな。」
…。
あぁ…、やっと感覚がわかった。
理解が追い付いたと言った所か…。
こいつらにとって人なんて相手にすらしてないんだ。
まるで僕らにとっての蟻って事か…。
寄ってくれば踏み潰すが、巣を潰して回るなんて面倒だ…。
そう、やつらは言っているんだ。
そして、若い魔人の1人が暇潰しに何個かの蟻の巣に、遊びで洗剤をばら蒔いた…。
…まるで人の子が無邪気に遊ぶように。
なんだか僕は癪に触った。
「なるほど…。貴殿方が争う気がないなら僕はそれで構いませんよ。そちらから人に関わらないと言うのなら、こちらも『見逃してあげましょう。』」
1番目が、まるで理解できないのかポカーンとしている。
宮国さんが僕に確認するように問いかける。
「中田さんはそれで良いのかい?…また悪戯に彼らは人を襲いに侵略してこないとも限らんよ?…」
「あちらが殺す気が無いと言っているのに、一方的に消滅させるなど…。」
1度僕は息をし、持てる限りの虚勢を張って笑いながら言った。
「まるで僕らが…彼らを怖がってるみたいではないですか。」
仲間の皆が一斉に僕を驚いた様に見た後で、誇らしげに微笑んだ。
「ハハハ…。なるほどなるほど、久しぶりに愉快な気分だ。これから我らは陸地にも飽きて、広大な海を探索しようと思ってる。それにも飽きたら、お主を訪ねるとしようか。…『消滅させてくれるんだろう?』」
1番目は微笑した。
「ええ…、いつでも訪ねてきて貰って構いませんよ。おもてなししましょう。…ただ、この世の果てに氷の陸地があるのはご存知ですか?…たぶんですが。その氷の中には、あなたさえ生まれる前の、なにかが眠っているかもしれません。海に飽きたら行ってみては?」
僕は、憂さ晴らしとばかりに、なんでも無いように微笑み返す。
「この世の果てか…。それは興味をそそられるな…。先にそちらから行きたくなった。全員で行くとしようか。消滅への興味もお主が叶えてくれると言うし、こちらの要件は済んだ。茶を馳走になったな。…それでは『また会おう。』」
ニヤッ、と捨て台詞を吐き彼らは立ち去った。
ようやく姿が見えなくなって…、力が全身から抜ける。
"ドクッ…ドクッ…ドクッ"
よっぽど緊張したのか心臓の音がうるさい…。
アハハ…生きてるのが不思議なくらいだ。
本当にハッタリもいいとこだ。
…我ながら呆れる。
思わず笑いしか出てこない。
"一時の感情で暴走すると本当に身を滅ぼすよ!"
と、冗談のように心で自分を戒める。
___あぁ……………怖かった。
なんだか、まるで人の代表のように話してしまった。
しかし、まぁ魔人相手に人に選択権などありはしない。
飲み下せない思いがあるのは判るが、…文句があるなら直接魔人に言いに行けと言ってやろう。
…うん、そうしよう。
きっと北極か南極にいるしな…やつら。
対峙したら、きっと本能で理解するさ。
彼らにとって人なんてそんなもんだ。
結果として、僕らが魔人を退けたのは間違いない。
…勝手に去ったとしか思えないが。
苦笑が漏れる…。
まぁ、理由は胸にしまっておこう。
知らせなくて良い事もこの世にはあるのだ。
『魔人はこの地を去った。』
その事実だけ伝えよう。
「あのー、魔人はこの地を去った。とだけ伝えませんか?」
僕は砦に戻る際、歩きながらどこかホッとしている皆に同意を求めた。
皆から、
「任せるし。そんな事より呑もう。昼間から呑もう。」と、笑顔を返された。
なんとも気持ちのいい仲間だ…。
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