【8日目】魔人
迫りくる後詰の敵兵を後退しながらも迎撃する陽動班。
その数は絶望的だ。
陽動班に、"速くここまで後退して来い!"と、心で叫ぶ。
伝える術がないのがもどかしい。
その刹那…。
今までに感じた事のない身を刺すような高濃度の魔素を遠くに感じた。
次の瞬間には、眩しい光を全身から発するそれは見上げた先に居た。
__魔人か。
それは直感だった…。
"ドーーーーーーン"
耳をつんざくような炸裂音と突風に襲われる。
僕は吹っ飛び尻餅をついた。
騒がしい程の馬の嘶きが聞こえ、寄せていた敵の騎馬隊の馬が横倒しになった後、錯乱ぎみにどことなく駆け出している。
後詰の敵兵も全てがなぎ倒されている。
…戦場の時が止まる。
あまりの音に、その戦場の誰もが戦闘を止め固唾を飲んで空中を見上げていた。
"これがソニックブームか…野郎、音速を越えて飛んで来やがった。"
痛い所がないか全身を確かめる。
空中で腕組みしながら悠然と留まる魔人は、眼下をゆっくり見渡す。
見れない程ではないが眩しい光…、有り得ない程の超高密度な魔素を肌で感じ、たまらず僕は悪態をつく。
むしろ、絶望的なまでに隔絶したその超高密度の魔素から感じる恐怖を振り払うには悪態をつくしかなかった。
"なにが魔人だよッ!これ元の世界なら明らかに神様だろッ!眩しくて後光どころの話じゃないぞ!どの辺が魔人なのか誰か説明してくれよ…ホント。"
…魔人は口をパクパクし出した。
__は?…金魚のマネ?
"あ、…あぁ、なんか喋ってんのか。"
もう悪態が止まらない。
"こんなに晴れ渡った日にそんな高さから…、どんな声量で喋ってんのか知らないけど、全く聞こえねぇよッ!あぁ、糞ッ!!"
立ち上るのが見える大井さんに聞く。
「大井さん、あいつ撃ち落とせますか?」
「大丈夫だよ…問題ない。ここが見せ場だね。…本番に強いと言ったろ?期待には答えるよ。」
自分に言い聞かせる様に、脇にあった槍を拾いながら大井さんは答える。
「では、消滅領域で包みますね!…それでは、お願いしますッ!!!!」
「任せろッ!!」
突然パクパクを止め、光が無くなった体を挙動不審に眺め…魔人は踠く様に落下した。
___バッ、シューーーーーーーッ。
そこへ青空さえも突き刺しそうな一直線の槍が飛ぶ。
「墜ちろーーーーーッ!!!」
大井さんの怒号が響く。
まるでスローモーションの様に…、狼狽した魔人の体を槍は貫いた。
僕は、墜ちる魔人を睨み付け消滅領域で魔人を包み続ける。
___ドサッ。
僕は消滅領域を切らさず近づく。
壊れた人形の様に手足がおかしい方向を向いた魔人は蜃気楼の様に体が少しづつ宙に溶け出していた。
「うわぁぁぁぁ…!!!!」
ひとりの敵兵が、武器を投げ捨て逃げるように走り出す。
まるで波の様に電波し次々に武器を捨てて逃げ惑う。
味方の兵は、追撃するでもなく茫然とする中、遠くで団員が武器を掲げて張り裂けんばかりの雄叫びをあげた。
「うぉぉぉおおおおおおおおッー!!!」
「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉッー!!!!」」」
その声に応答するようにそこかしらで雄叫びが聞こえ、砦からも雄叫びは響いた。
地を揺らすような雄叫びを全身に感じようやく思い当たる。
__あぁ、これは勝鬨だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます