【8日目】戦場


"見えた!砦だ。"


砦への合図か鏑矢が飛んだ。


"ピューーーーーーッ"


荷馬車の馬へ、ムチが入る。


砦まで持てばいい。

…駆け足のようにスピードを上げた荷馬車一団。


砦から開門し槍衾が数百人補給を待ち構える。

すぐに交戦状態になるが、まさか開門し討って出てくるとは思ってなかった門前の敵兵は逃げ腰だ。


別の門からは騎馬兵が砦より出てきて撹乱するべく敵兵に突撃している。


砦周りは防衛の為か、かなりひらけている。

ようやく周りの見晴らしが良くなり敵の陣形も見えた。


かなり離れた所に後詰の陣がありそこに1000人程。

砦の城壁攻略に工作兵らしきのを含め1000程詰めて見えた。


補給に気がついた後詰めの陣から騎馬隊が動くのが見えると思った刹那、炸裂音が響いた。


"ドーーーーーン!!!"


"きっと、陽動班の爆裂魔術だ…。"


音に驚いた敵の後詰めの騎馬隊は制御不能になり散り散りになる。


"しばらくあれでは動けまい。"


前方の門前の敵を槍衾で砦兵が押し返し道を作っている。


城壁工作兵が補給に気が付き寄せてくる。


「いよいよ出番ですな。…四方八方は上手くない。この辺に止めて敵を迎え撃ちましょう。」


宮国さんは言った。


まだかなり砦までは距離がある。

しかし、確かに賛成だ。

囲まれるのは不味い。


この辺なら後詰めを牽制しながら後退するであろう陽動班とも合流出来る気がする。


「はい!ここで迎え撃ちましょう。」


後詰の敵陣から800メートルくらい、砦まで400メートルって感じだろうか…。

目測なので合っているかはわからない。


僕らは敵兵が寄せてくる前に荷馬車を止め、馬車を背に敵陣両方を眼前に捉える位置に構えた。


荷馬車前20メートル程にふらりと宮国さんが出る。


ご挨拶とばかりに大井さんが槍を敵の寄せる工作兵へとぶん投げた。


距離にしてかなり遠いが、一直線に飛ぶその槍は一度に3人を貫いて見えた。

見るからに工作兵の速度は落ちた。


神無月さんは「まだ遠すぎますよね。」と、微笑を浮かべている。


補給班の最前に位置取る団長の火の魔術が見える。

"あれなら門まではきっと到達出来る。"

確信した。

統率の取れた槍衾で開かれた道、補給班の魔術。

あちらは心配ない。


後は、こちらが持ち堪えるだけだな。


ドンドン大井さんから投げられる槍に敵兵が脅威を感じたのか、こちらへと寄せる敵兵が増えてくる。


「そろそろ私の出番よね。」


鼻歌でも歌い出しそうな神無月さんが弓を構える。


"シューッ"


寄せる敵兵に一射する度に、数分違わず目を射抜いていく。


見る見る内に矢筒の矢が無くなっていく。


僕は慌てて矢筒を交換する。


それでも尚、押し寄せる敵兵。

やはり、数とは暴力だ。


正直、頼れる仲間が居なければ漏らしている。

押し寄せる群衆とはそれだけの恐怖を想起させる。

これは目にしなければ判らないかも知れない。


___ただただ怖い。



矢に射抜かれた骸に足を取られるのか寄せる速度が落ちる。


いよいよ、打ち漏らした敵兵が宮国さんに迫る。


宮国さんはふらりふらりと敵兵と敵兵が一直線になるように動き、次の瞬間には眼前の敵は血飛沫を上げていた。


正直、なにが起きたのかわからない。

たぶん、喉を突いたのだろうとは思うのだけど、見えなかった。


ただ、静かでその様は美しかった。


すっすっと後退するかのように敵兵を一直線なるように動き眼前の敵はいつの間にか屠られている。


槍の穂先に骸を引っ掛けると迫る敵兵にヒョイヒョイと放り投げている。


足場を綺麗にしているのか、なんとも危なげなく後から後からと寄せる敵兵を屠り続ける。


目を奪われていると骸の山が出来ていた。


「中田さん、判りますけどね。…美しいですよね。ただ、矢筒は下さい。先は長いですよ。あの数…見えるでしょう??」


神無月さんが笑みを浮かべ僕に言った。


「あッ、本当にごめん!」


ハッとして矢筒を小走りに届けた。


この迫りくる恐怖に抗えるのはこの心強い味方のお陰だと思いながらも、『ここは戦場だぞ!』と自分の頬を張った。


瞬く間に、僕らの眼前には200は屠ったと思える程の骸が山になっていた。


敵兵の寄せる圧が明らかに減っている。

山の骸に足を取られかなり寄せ辛くなってもいるのだろう。

しかし、1番はきっと怯えだ。

ビビリの僕にはよく判る。

そう、きっと桁外れのこちらの戦力が怖いのだ。


僕は叫んだ!


「我らは、神の使いだッ!!死にたくなければ逃げろ!!!逃げる者までは屠りはしない!!!!」


人生で一番の大声を出した。


効果はテキメンで声の届いた敵兵は後ずさりをし始めた。


しかし、目線の端でようやく態勢が整ったのか後詰めの敵兵達が動き出したのが見える。


流石に後詰の敵兵にまで声が届く訳もない。


陽動班も迎撃しながらこちらへと後退している。

なんせ後詰め1000人だ。…万事休すか。


"補給はまだ入れないのか?"


イライラが募りながら目線を向けると、ようやく先頭の荷馬車が砦へと到着する所だった。

列は長い。…まだかかる。


"こちらも砦へと進むか?…しかし、陽動班を待ちたい。"


動き出した、1000人の後詰の敵兵の圧力は凄まじい。

あれに殺到されるのか…。

絶望を思わせる程の数に見える。


「矢筒、まだまだありますよね?」


不意に神無月さんが言った。


「あぁ、まだあるよ。」


「次はあれか(後詰の敵兵)…。少しばかり張り切って射るので矢筒、遅れないで下さいよ。」


神無月さんは、手でひさしを作り後詰の敵兵を見ながら、なんでもないように笑顔を浮かべた。


___僕の腹は決まった。


「任せて!じゃんじゃん渡すよ!」



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