【8日目】ロクデナシ
「中田さん、少しばかり力が入り過ぎだな。」
御者台に座ってる宮田さんは横の僕に言った。
「まぁ、無理もないが神無月さんも大井さんもいる。そうそう簡単には死ねませんな。」
宮田さんは笑った。
とうとう馬車の扱いを物にした宮田さんと大井さん。
交代で馬車を操る。
僕らの荷馬車はありったけの弓矢と槍で一杯になっている。
つまり、僕らの荷馬車はまさに僕らしかいない。
砦前まで可能な限り突撃後、馬車を横付けし大井さんが槍を投げまくり、神無月さんが弓を撃ちまくる。
近づく敵は宮田さんが屠る。
補給班が補給の荷馬車を守りながら砦へと入るまで見届けたら僕らも砦へと入る。
"可能なら陽動班とも合流できるといいが…。"
僕の仕事は大井さんと神無月さんにじゃんじゃん槍と弓矢を渡す役だ。
確かに彼らの力はまざまざと見せ付けられ知っている。
魔術師団の力も知っている。
しかし、やはり緊張はしてしまう。
力が入るのも無理はない。
「中田さんのその察知能力は期待してますからな。流石の儂もあの魔術ってのはどうも厄介でな…。勝てぬとは言わないまでも…、少々無理を押さなければいけなくなる。」
たぶん、僕に気を使って言ってくれている。
「やれるだけは、がんばります。」
「ハハハ、がんばらなくてもいいですよ。儂らに彼等程の想いは流石に判ってやれないでしょう。どうあがいてもこれは彼らの戦いですよ。ただ、向かってくる敵を許せる程、儂は出来た人間ではありませんしな。…出来る限りいつも通りいきましょう。その方がいい。」
すっかり、何倍も人としての厚みをました武人は続ける。
「なんなら、ロクデナシの儂の体現を見るくらいの気持ちでいた方がよかですよ。」
「残念ながら、既に美しくて感動しましたよ。もっと、激したりするもんかと思ってました。あんなに静かで美しいとは思いもしませんでした。…僕もしっかりロクデナシですね。」
「なんとも中田さんは儂を喜ばせるのが上手い。感動したとか、武人冥利につきますな…。一世一代の武をお見せしませんといけませんかな⁉ これは、儂がハリキリ過ぎんか心配になります。ハハハハ」
悔しいが戦場で武人を見るのが楽しみになってしまい少し赤面する。
全く、和ませるのが上手い。
頼りになり過ぎる仲間に囲まれて僕は幸せ者だ。
そう実感すると…肩の力が抜けていくのを感じる。
「ハハ、やはり中田さんは儂をその気にさせるのが上手いですな。」
宮国さんは笑った。
「ねぇねぇ、二人だけで楽しそうじゃない?」
ホロを開けて荷馬車内から神無月さんが声をかけてくる。
「ホントホント、俺らも混ぜてよ。」
大井さんも荷馬車内から御者台のホロを開けて顔を出す。
「いや、中田さんがおだて上手で乗せられてましてな。」
宮国さんが喜々として声を張る。
これから戦場に赴くとは思えない穏やかな会話が続く。
全く頼りになる仲間に囲まれて本当に僕は幸せ者だ。
いつの間にか僕の顔にも笑顔が浮かんでいた。
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