【7日目】砦へ


「明日には砦だ。」


僕らは野営をしていた。

ぐるりと回りを荷馬車で囲み、中央の焚き火側に団長が立ち団員全てに明日の作戦を説明している。

団員も僕達も荷馬車と同じく円陣のように団長を囲み最後の段取りに耳を貸している。


「砦は既に交戦中だ。偵察隊の尋問では現在の敵兵の数は2000人近いと推測される。」


予想より多い数に団員の顔が険しくなる。

砦が如何に堅牢だろうと砦内には1000人も居なかったはずだ。

こちらの団員数は60人強…。

いくら最強でも想定よりも敵の数が多すぎる。


王子率いる本隊の1万が着くまで籠城戦なら…なんとかいけるのか⁉

確か籠城なら1/3で良いとなにかで読んだ記憶がある。


「王子の本隊到着まで死守すればいい。ただ、まずはこの補給を砦に入れなければ話にならない。」


団長は作戦目標を明確に示した。

交戦中の砦に物資を入れる…。

素人考えでは不可能に思える。

敵兵が『はい。そうですか。』と通すはずがない。


「こちらを発見され砦に入れるまで、陽動を仕掛ける。砦が目視次第、こちらからの合図で砦内からも弓兵を残し砦から討って出て貰う。」


団長は、団員を見渡した。


「これより団員を2つに分け、1つは補給を砦まで入れる為付き従う班、もう1つは今より山越えを行い砦内からの陽動に合わせ山中より陽動の突撃を行う。…正直に言えばその陽動はかなり危険が伴う。敵に囲まれた際、…救出は出来ない。」


最後の方、団長は少し言葉に詰まった。


「団長!陽動班に志願します!」


「「「私も陽動班へ志願を!」」」


次々と団員が志願を申し出立ち上がる。

誰もが覚悟を決めた顔つきで敬礼をしていた。


…不意に静寂が辺りを包む。


団長は声を殺し、大粒の涙を流していた。

ただただ静かに泣いていた。


「志願者は集まれ!」


最初の志願者が声を上げた。


陽動班は夜を通して森越えをし、こちらの補給班の合図を元に派手に魔術を使い敵兵を引き付けるらしい。

装備的に身軽な魔術師団ならばあるいはと思うが、きっと決死の作戦だ。


彼らは最低限の装備品を身に着け早速森へと向かうようだ。

準備へと忙しなく団員が動き出す。



僕は少し体育座りの膝の中に顔を埋めた。

"これは戦争なんだ。"

何度となく、自分へと言い聞かせる。


ズラリと僕らの前に団員が並ぶ…陽動班だ。


僕らは驚き立ち上がった。


「神の使いに共する事が出来て光栄でした。なにとぞ、魔人をお願い致します。」


皆が敬礼をする。


僕もついに涙腺が決壊する…。

静かに泣きながら見様見真似の敬礼を返した。


"任せろとは言えませんが、やれる限りがんばります。"

僕は声に出せず、心に誓った。


その後、一人一人団長と握手を交わし、陽動班は夜の闇へと消えて行った。


早朝より動き出し、昼過ぎには砦が目視出来ると聞いた。


時間が経てばそれだけ敵兵が増えるかも知れない。

そのまま、真っ昼間に補給班は砦へと突撃する。


つまり、僕らも明日…死線をくぐる。


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