【7日目】偵察


昼を過ぎた頃、荷馬車の外がひときわ騒がしくなった。


ホロから団員が顔を出し告げた。


「敵の偵察隊と交戦中です。逃さぬよう密かに団員が回り込み包囲殲滅する手筈が、予想より人数が多く又退路での包囲を悟ったのか敵は最後尾のこちらを抜けるつもりです。大丈夫とは思いますが、万が一もありえます。警戒を!」


それを聞くや否や矢筒を背負うと神無月さんは荷馬車を飛び降りる。

宮国さんと大井さんは御者台だ。

ひとりが心細くなり盾を片手に僕も後を追った。


見ては判らないが前方の森中で戦闘音が響く。

前方荷馬車横の森の付近だろうか、徐々に音が近づいてくる。


荷馬車を探してきてくれたのか大井さんが槍を片手に走って来る。


「大丈夫かい?随分と敵の数が予想より多かったみたいだ。」


こっちにはまだ来ていない。

そういう意味を込めて僕は2度うなずいた。


回り込んだ団員から押し出されたのか敵兵が森からチラチラと見える。

木々をうまく使って逃げているようだ。

確かにこちらへと向かってきている。


宮国さんは槍を片手に前方で悠然と待ち受けるように立っていた。

見える敵兵との距離はまだ遠い。


音が近づくより先に、僕らに程近い木々の隙間から弓を構えた敵兵が覗いた。


僕は慌てて盾を構える。


「敵兵!」


僕は叫んだ!


神無月さんが1番そこから近く、その敵兵が見えているはずなのにまるで動じる様子がない。

弓に矢がつがえてあるが、当たるなら射ってみろと言わんばかりに弓を下ろした。


「貴様の矢が私に当たるのか?…月野。」


信じられない事に、狙いをつけられながら神無月さんは笑っていた。

僕の心臓が信じられない程、バクバクいっている。

息も出来ない。


敵兵が矢を射る。

その矢が放たれた刹那、彼女も弓を構え矢を射る。


"シューッ!"


森の影で光の線が見える。


彼女は当然のように笑みを深め、颯爽と立っていた。

敵の矢は外れ、彼女の矢は敵の頭を貫通していた。


見ていた僕の方がどうにかなりそうだ。

一瞬意識が飛びかけた。


敵兵の骸の側でもう一人敵兵が木の影から覗く。


横でステップする音が聞こえ、大井さんが槍を投げた。


"バシュー!… …バギャン!!"


木を抉り轟音を響かせたその槍は確かに敵兵を貫いたように見えた。

隠れていた木が爆発したようなもんだ…あんなもの避けようもなく思える。


「賞を取った事あるくらいだからね。たぶん、本番には強いんだよ。」


大井さんが少し誇らしげに言う。

確かに結果を残す人は本番に強い。

ただ、明らかに木が抉れ槍は原型を留めてないだろう。

そんな問題か?と思うと少し緊張が和らいだ。


近くの木々から動く物は見えない。

少なくとも、生きてる人の気配はしない。


森から抜けてくる団員が前方で見える。

敵兵が2人追われて森を抜け出した。


後ろ姿から見て取れる宮国さんから気負いはまるで感じない。

その追い立てられる2人の前へとふらりと出ると、敵兵の明らかな殺意をユラユラと受け流すかの如く舞って見えた。


気が付くと、敵兵の首が2つ宙へ飛んだ。

なにをしたのかすら判らない…。

ただ、武人とはこうも静かに美しく人を狩るのだ、と。


そう確かに感じた。


槍の血を払うかの如く振るうと、不意に僕の視線に気がついたようだ。


…目が合い、彼は笑った。


気が付くと僕は、何度も頷いていた。


団員がぞろぞろと森から出てくる。

どうやら、これで戦闘終了らしい。


緊張して握りしめていたのか盾を握っていた手が感覚もなく、真っ白になっていた。


「偵察隊を一人とて逃してないかッ!」


団長の声が聞こえる。


生きて捕縛した者へ尋問するのか団員全てが忙しそうで、こちらに気を使ってる暇もなく見える。


いよいよ砦は近い…。


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