【6日目】消滅領域
本当に朝から宮国さんや、大井さんは凄い。
"別に移動中にいくらでもジョギング出来るじゃん…。
日課なのかわからないが、こんな所にまで来て毎朝毎朝よくやるよ…。"
僕ははじめての夜営にうまく寝れず、まだ眠い目を擦りつつ少々の悪態をつく。
団員は、朝の食事の支度と出発の準備と忙しそうだ。
休憩番の団員だろうか…数人が宮国さんとなにやら武器を手に話をしている。
"魔術師団も武器を持つのか…。"
少々驚いたが、確かに盾を皆背負っていた…。
黒いフードで見た事が無かったが、モーニングスターのような物を持っている…。
トゲトゲした物ではなく六角分銅のような物がついている。
棒の先についた分銅鎖みたいな感じだ。
まぁ、詳しくないのでモーニングスターと呼ぶ事にした。
気になって近づいて団員に聞いてみる。
どうやら盾とモーニングスターが魔術師団の正式装備らしい…。
同時発現を出来る少数を除き、盾を構え空いた手で魔術を放つのが戦闘のスタイルとの事。
普段は腰に下げているモーニングスターも、戦闘時は鎖を首にかけ即座に手を空け魔術を放つのに都合が良いそうだ。
遠距離戦を得意とする魔術師団で、近接戦闘において初見殺しとも言える分銅鎖の特異な動きは合ってるとの事。
その分、扱うのが難しいらしく使えるようになるまでかなりキツい訓練をしましたと苦笑いで言っていた。
威力を見させて貰ったが、当たればほぼ粉砕すると思える。
又、考えが及ばなかったが戦場では相手に武器をとられ使われるのは脅威であるらしく、この扱いの難しいモーニングスターなら万が一にも易々と使えません。と、団員は笑った。
手入れがあまりいらないのも良いそうで『扱いが多少雑でもいいんですよ。』と、聞かれたら怒られるのか小声で付け加えられた。
振る様子を伺ってた宮国さんもこれ専用に多少なり訓練しなければ受ける事すら難しいでしょうと言っていた。
ただ、武人としての意地だろうか…。
出が振り出しより遅れる為、やりようはありますがね…と、不敵に笑った。
団員にしてみると槍は補給用らしく自らは使わないらしいが、トドメに刺す以外、基本叩く武器だと思っていたようで宮国さんの多彩な槍捌きは興味津々らしい…。
なにやら熱心に話をしはじめたので、そっとその場を後にした。
■
午前の馬休憩の際…僕は壁にぶち当たる。
正直、消滅領域で自分を包めば魔術防御は大丈夫と思っていた。
しかし、微妙に領域の大きさが固定の為に魔術から守ろうと味方と側に近寄ると突然の魔素の消滅に皆から逆に怖いとストップがかかったのだ。
近くで護衛してくれるだろう団員からも側へと近づけないのは厳しいと言われ…。
そこで、魔術発現する相手を消滅領域で包めるか試す事になる…。
では、試して見ましょうと言うマーレル君のニヤケ顔に不安が過るが、…それは的中する。
戦闘に使われる魔術が想像より速すぎて…。
そして、メチャクチャ怖い。
あまりに怖すぎて持てる位の盾を精神的な問題で借りた。
むしろ今後装備は、盾のみにしようと思う。
重くてそれ以上持てないし…。
まぁ、攻撃要員としては贔屓目に見てもポンコツだ。
視界に発現らしき物が映ったら即発動させないともう当たってる…。
実際は危険なので後ろの木に水魔法をぶつけて貰ってるんだけど、消滅発動したのに木に水魔法が当たってて…真っ青になった。
…間に合ってないって事だ。
本当なら見せ場もなくそこで死んでる…。
実際は神無月さんの弓の方が断然速いとは思うんだけど…僕には無理だと感じる速度だ。
そもそも、戦場で誰かを注視してないと間に合わないとか…、これ無理なんじゃない?
僕は早々に心が折れた。
移動がはじまり、荷馬車内で盾を構えて壁になればいいんだと、自分を励ましつつもどこかいじけて延々と自分の魔素を消滅したり、戻るまで放置したりを繰り返していた。
宮国さんと大井さんは又、御者台だ…。
馬車の運転や馬の世話を本当に覚えるつもりでいるらしい。
僕は天を仰いで目を閉じた。
"ま、いざとなったら使えるんだ。うん"
その時、わずかになにかを感じた…刺すような肌の感覚と言うのだろうか…。
全身で感じた方へ目を向けると神無月さんが離れた奥で矢筒に矢を入れていた。
触る度に発光する矢…。
もう一度、目を閉じる…あぁ、判る…感じる。
1度感じてしまえばなぜ今まで気がつかなかったのか不思議な程だ。
言えば、耳障りな音に気がついたらもう煩くて仕方ない感覚だろうか…。
これは圧縮された魔素を感じてると思う。
僕が臆病だからか…、魔素に溢れた世界で唯一魔素が無い空間と比較出来るからか…。
正直、理由は判らない。
ただ、確かに感じる…。
そう思うと、宮国さんも判る気がする…。
僕は夢中になって魔素を探り、また自らに消失を繰り返しその感覚を捉える作業へと没頭した。
"発現を感じられたら…消せる。"
降って湧いた光明に僕はしがみつくように集中した。
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