【5日目】歓喜


「やはり皆さん、魔術は発現しませんね。…まぁ、視認出来る程の高濃度の魔素ですし発現しないとも思えないのですが…。ん…いやいや、むしろそれが既に発現してると言えるのでしょうか?…うーん。」


マーレル君が移動中の荷馬車で申し訳なさそうに言った。


そう、皆いまだ魔術は使えないでいたのだ。

マーレル君の考察によれば発光が既に発現してるとも思えるらしい…。


…僕以外は。


マーレル君も看病を手伝ったらしく、皆さんお元気そうで本当に良かったです。と、開口一番に満面の笑みを浮かべた。

それに対し皆思い思いに感謝を述べた。

発光し始めた神の使いへ期待を込め魔術指南へと訪れ…今となる。


発光による能力の補助がどうにも凄まじいらしく、皆魔術については正直どうでも良いようだった。

むしろ、皆発光による能力を試したくてうずうずして見える。


昨晩は、『いよいよの時は皆で逃げ出す事もこれは考えないと行けませんな…。』等と神妙な顔で言っていた宮国さん。

さっそく槍を手に荷馬車から飛び降りようとしている。

ちょっと、はしゃいで見えるのは僕だけだろうか…。


僕の溜め息を聞き飽きたのか大井さんまで腰を浮かせ、なにやら荷馬車から離脱しようとしている。

『もう、どうした物かわかりませんが、確かに逃げる事も考えていた方が良いですよね。』と、青ざめた顔で言っていた大井さんに『その時は気にせず僕を置いて逃げて下さい。』と、精一杯の愛情で言ったというのに…。

グヌヌヌ…発光ゴリラめ…。


神無月さんは相変わらずの不思議ちゃんで、その変わらぬ感じに安心すると言うルーティンが僕の中で出来つつある。

年下を捕まえて精神安定剤変りに使うのはなんとも情けないが、捉え所はまるで無くとも誰より安心出来るので仕方ない…。

敬意と感謝を込め、夢見心地の姫君と呼ぼうか目下絶賛悩み中だ。


今も宇宙と一体になるのを期待するかの様に、時折僕を見てくる。



「役立たずなのは前から自覚してましたよ。…ええ!ただ、それでもなんで僕だけ…。光りもしないなら、せめて魔術だけでもサクッと発現させてくれたって良くない?…ねぇ!マーレル君ごめん!もう一回だけ見せて!もう一回だけ!ね!お願い!」


必死なのも無理はないだろう…。

もう僕は泣きそうな気持ちだった。

協力します!などとイキった自分をグーで殴りたい。

協力もなにもこのままじゃ飾りにすらならない気がする…むしろ邪魔なんじゃ…。


いかんいかん、いかんぞー!

嘆いてる暇などない。

中田雪!しっかり集中だ。

集中しろ!中田雪!!

なかたゆきッ!!!

なんでもいいから発現してくれッ!

いや、ホント頼むよ。マジお願いします。


涙目になりながら全力で手に魔素的な物いってくれー!と踏ん張る。


なぜか神無月さんの肩が揺れてるが、気にしたら負けだ!


「あれ?…おかしいな…。え?」


なんかマーレル君が僕に見せびらかせていた魔術を止めて、モゴモゴ言っている。


「マーレル君…なんだ!?僕は真剣なんだ!わかるねッ!」


少し荒ぶっていた僕は大きな声で諌めた。


「いや、すいません。なんか上手く魔術が発現しなくて。あれ…あれ?なんだ?」


息を吐くように魔術を見せびらかせていたマーレル君が挙動不審になる様がなんだかおかしくなり僕は堪えきれず笑い出してしまった。


「プッ…ハハハ。」


「あ、大丈夫だ…。なんだったんだ。魔力切れなんて絶対まだあり得ないのに…。びっくりしました。なんなんだ…。疲れてるのかな…。」


手に相変わらず華麗に炎を浮かべ始めたマーレル君がホッとした顔をする。


"チッ…!"

思わず舌打ちが出る。

完全なる八つ当たりだ。


「魔力切れってやっぱりあるの?」


「ありますよ。体内の魔素を消費しつくすと魔術が発現しなくなりますね。」


「気絶したりするの?」


「ダルくなりますが…気絶した人は見た事ないですね。魔術師になれるくらいだと魔素が馴染み易いのかしばらくするとまた使えます。ただやはり寝たりした後の方が長く使えますね。突然発現しなくなるので戦場ではかなり怖くて皆どれくらい使うか決めてたりしますよ。」


手に小さい炎を浮かべて、にっこりと笑う。


ドヤ顔にしか僕には見えない…なんとも憎らしい。

ついつい、消えろ!と意地の悪い事を思って手をかざす。


「え、本当に消えた…。」


思わず僕は口にした。


マーレル君は、また真っ青な顔になり唸り始める。


…僕と目が合う。


「………。なにかしてます?」


マーレル君が少し拗ねた様に言ってきた。


…。


…………。


……………………。


あ、ジャミングか…。

魔素のジャミングが、もしかしたら僕には出来るのかも知れない!

いやいや、魔素を消せるのか!?


一瞬にして脳裏を、考えが駆け巡った!



それは待ちに待った…歓喜の瞬間だった。


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