【4日目】戦況


「はーっ。」


今日何度目か判らない溜め息が出た。


「中田さん、…。気持ちは判りますがね。もうすぐ団長も来られますしな。お茶でも飲んで、すこーし気分変えてみては?」


宮国さんがお茶を差し出してくれる。


僕はどうにも光らない事で少し参っていた。

"なんで僕だけ…。"

これも今日何度頭を過っただろう。


確かに、気持ちをいったん切り替えないと…。



僕らはまた小さな平屋の並ぶ停泊所のような場所へと身を寄せていた。


夕食は済ませた後だ。


僕らが1日移動を無駄にしたとはいえ、これ程急ぐ理由も実の所わからない…。

再度団長にもう少し詳しく話を聞きたいとお願いしたのだ。



「すみません、皆様。少しお待たせしましたかな。」


団長は優しく微笑むと挨拶もそこそこに席についた。


「儂らがどうにも面倒をかけたようで申し訳なく思います。それにしても急いでいる状況があまりにも判りませんでな、少し詳しくお伺いしようという訳です。」


宮国さんが僕らの聞きたい事を説明した。


「なるほど、戦況が長引いている事はお話したと思いますが、あとが無くなった理由をお話致しましょう。それがそのまま、現状と繋がっておりますゆえ…。」


そこで僕が差し出したお茶を団長はひとくち飲んだ。


「まず、王国は城下都市つまり王都が落とされると終わりを迎えます。…まぁ、簡単にはそこに王が居るからです。我ら一団はそこより砦へと向かって今になります。…向かう砦が王都への最終防衛拠点と言えますでしょうか。」


"案外その砦とは大きいのかも知れないな…。"


「その砦より先に、王国内最大の交易都市があるのです。

そこは堅牢にして領兵の数も揃っています。本来そこが防衛の拠点だった。…と言えましょう。

しかし、そこを治める王国内最大派閥の貴族が突如都市防衛を理由に様子見と言いましょうか…静観を決め込みました。

流通が滞り王都の急激な物資の不足の原因にもなっております。」


"長引く戦況に王国そのものに愛想がつきた感じだろうか…。"


「また、そこが静観を決めてしまった事を知った敵対勢力は、交易都市を迂回し素通り出来る様になった訳です。…都市への防衛はしても兵を出しませんようで。

それを受け…各地でひとつひとつは数百程度の個別敵対勢力がそれぞれに王都へ進軍を開始したと言う訳です。

もちろん、各地で応戦していると報告は上がっています。しかし、確実に王都を目指し敵対勢力は向かってきています。

王都を一気に目指しては、砦と前後の挟撃を怖れるでしょう。

ゆえにその個別敵対勢力は、砦へと向け集結すると思われます。…それぞれは数百程度とは言え、砦へと時が経てば何千…それ以上か…どれ程集まるか正直判りません。」


"…え、各地で争っていた勢力が全部砦へと向かっているって話か…。"


「もちろん、こちらとしても砦へと続々と敵対勢力が集結し、…砦を相手の拠点にされると後がありません。

それを打ち払うべく王都防衛を捨て王子が一万もの大軍を率いて砦へと向かっております。…ただ、それほどの大軍です。到着にはまだまだ時がかかります…。」


"あの王子が伐って出ると…。"


「それゆえ、補給物資を携え少数にて足の早い我ら魔術師団が先行し砦防衛にあたり、本軍の到着を待つ手筈になっております。」


"本軍到着まで砦を死守出来るのか?…砦に兵が多く詰めているとかだろうか?"


「本軍到着を待ち、砦へ集結する敵対勢力を順次各個撃破。交易都市へと赴き、信を問いましょう…必要なら処断する事となるでしょうか。

ただ、防衛拠点として交易都市をそもそもがあてにしておりましたから、砦の兵は千を下回ります。現在既にいくらか応戦中との事で我らが急ぎ向かわねばなりません。

まさしく今、砦を賭けた敵対勢力との一刻を争う状態と言えましょうか…。」


"あぁ…敗戦間近な人達のすがる理想を聞いているようにしか思えない。…"


宮国さんが口を開く。


「失礼だとは思いますが…。見る限りかなり少なく感じるが…魔術師団で砦防衛は可能なのですかな?」


「確かに…。現在では70人程度となりました我が魔術師団。それでも王国内最強と自負しております。出来るか出来ないかで言えば…やるしかないとだけ申しましょう。」


団長は、微笑んで言った。


僕は、気になってた事を聞いてみる。


「敵対勢力は魔人が率いている訳ではないのですか?」


「魔人は、神出鬼没です。しかし、もう随分と前より出現報告は滞っております。

むしろ、まだ我らが戦えているのはそのおかげとも言えましょう。魔人が戦場へと現れたら…まず勝てません。いままで魔人を退けた事すらただの一度もございませんゆえ…。」


団長は、平静を装い口にした。


"…正直、どれ程の驚異か予想もつかない。"


宮国さんが訪ねる。


「到着した時、既に砦が落ちていたらいかがなさるおつもりか?」


「我々の方が早いとしか考えておりませぬゆえ…。」


皆一様に押し黙った。



それしか無いと言う事だろう…。


聞けば聞くほどに思う…。

あてにされてたんだろうな…


__僕ら。


もちろん諦めきれない想いもあるのだろう。

団長はいまだにあてにしてるように思える…。


僕は天を仰いだ。

__聞かなきゃ良かった…。


ただ流されるようにその日を迎えれば良かったな…と。

なぜなら、どうにも出来ない思いしか募らない。


…大きな溜め息が出た。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る