【4日目】発光
食事の後慌ただしく出発を開始した。
僕は荷馬車の中でもひたすら体内に馴染んだあろう魔素を意識して忙しなくしていた。
真っ先に協力を約束するも役立たずは相変わらずでなんとも諦めていた所に、光明を見た気がしたからだ。
目の前でチラチラと…どうにも羨ましくなって口を開いた。
「宮国さん、それってどうやってるんですか?」
当たり前の様に常に巡る薄い発光を纏い続けている。
「実は儂にもわからんのですよ…。自分では気を巡らせておるつもりですからな、てっきり言われるまで気が満ちてるとしか思いませんでな。気を巡らせるのはもう癖のようなもんですから今も意識してやっとるわけではないのですよ。…ただ、ヘソの下の光が強く見える気がします。そこは気で言う所の丹田と申しましてな…、これが魔素と言われても実はいまだに気ではないかと思ってましてな…。」
宮国さんはいまだに気だと思って魔素を巡らせているって話か…。
ただ、団長は魔術発現の光に似てると言ってた事からも密度の高い魔素である事はほぼ間違いないだろう。
僕も気を巡らせてみれば良いのか?…
イメージでぐりぐりっと体をなにか巡らせたら行けるか?
物語ならこう言うのは絶対出来る…、うんやれるはずだ。
僕はおもむろに目を瞑り、体の力を抜く…。
深呼吸をし、その場で男座りをした。
両のひざの上にそれぞれの手を軽く上にひろげ置き、
まるで修行僧を気取るようなポーズを取った。
宇宙を感じればいける…。
大抵こう言うのは宇宙でいける。
体内になにかを巡るイメージを脱力しながら願った。
"宇宙は僕で、僕は宇宙だ…。"
しばらくして目を閉じたまま聞いた。
「…僕、光ってますか?」
「ぷっ…クスッ…、ごめんなさい。ぷっ…。」
目を明けると神無月さんがもう勘弁してくれと言わんばかりに笑いを堪えていた。
大井さんが口元で笑いながらソッと目を反らし…。
宮国さんが貼り付いた笑顔で言った。
「全く光ってはいませんでしたな…。」
…。
恥ずかしくなってそっと普通に座り直した。
「さてさて、儂は外でも少し走りますかな…。」
宮国さんは、そういうと膝を一叩き、
槍を片手に荷馬車から居なくなる。
やはり身体的にかなり違うのだろう。
走るというより槍をふるって確かめたくて堪らないという感じだ。
不意に神無月さんと目が合う。
途端に、「すいません。プッ…フフ…」と言いながら視線を外し、肩を震わせ思い出し笑いを始めた…。
"いや、きっと馬車の揺れだ!間違いない!"
僕は現実から目をそらした。
不意に視界の隅でなにかが光った…。
驚いて顔を向けると大井さんが水の樽を持ち上げている…体の所々を薄く光らせて…。
「大井さん…、なんか体が光ってます。…て言うかなにをしてるんですか?…」
「あ、済まない…飲みたかった?…やっぱり光ってるよね。朝、筋トレしてる際に薄く光った気がしたんだよなー。見間違いじゃなかったか。なぜか筋トレやった気にならなくて、これなら少しは重いかなって試しに持ってみたんだけど。…あ、飲む?邪魔してごめんね。」
水の樽を置くと、薄い光が消えた…。
僕は樽の蓋を開けて覗いたらまだ水は満タンに入ってる…。
ひざ上程度の樽ではあるが団員さんが2人がかりで運んで来た物だ…。
ちょっと持ってみたが僕には動かせない…無理だ。
間違いなくこれ以上踏ん張ったら腰をやる。
「え?飲まない?…動かしたいの?」
僕が蓋を開けたり、持とうとしてるのを見た大井さんが的外れな事を言って又横から軽々と持ち上げる…。
…で、薄く光るんだよな。
…これなんだ筋肉が光ってんのか?
…この発光ゴリラめ。
う、羨ましくても僕は人をやめないぞッ!くそッ!
言い掛かりにも似た悪態をついた僕の中で大井さんのアダ名が決定した。
「大井さん、バンプアップって言うんですか?ちょっと力入れてみて下さいよ。」
え、動かさないの?…見たいな顔をして樽をそっと置く。
この発光ゴリラ、天然か!?…少しイラッとした。
「よくわからないけど…、これでいいかい?」
困った顔をしながら、良く見る両手に力コブ、胸張ってます!みたいなポーズをしてくれる。
…で、光るんだよな、やっぱ。
「大井さん、ありがとうございました。大井さんは筋肉が光って見えます。宮国さんのは気が光って見えましたが、筋肉は光って見えません。大井さんは力を入れないと消えますが、宮国さんのは巡るようにずっと光っていました。ちょっと、どういう事か頭を整理したいと思います。…」
まるで、共通性が見い出せないがそもそもおかしな世界だ。
今更な気もする…。
"つまりは、僕も発光したい!"
顔に願望がダダ漏れだったのか発光ゴリ…大井さんが口を開く。
「あ、そういう事なら中田くんも筋トレはじめる?これでも元本職だからね。教えるのは少しは上手いと思うよ。…てか、水は?…水飲みたいんじゃなかったの?…」
にっこりと大井さん。
僕は、感情が全て抜け落ちた真顔で声もなく対応した。
どこか憎めない大井さんだが、この時いつか発光ドラミングして貰おうと心に誓った。
…まぁ、笑わない自信はないけど。
不意に見えた神無月さんの肩は震えていた。
"今日は馬車が揺れるな。"
■
荷馬車が止まり。
馬を休ませる為の休憩を団員さんが告げてきた。
「あ、今日はマーレルさんは荷馬車には来ませんか?」
顔を見せないマーレル君がどうかしたのかと不安になった。
「あ、今日はすみませんたぶん難しいかと思います。団員を何人か仮眠とらせてて、警戒の人員を削るのは流石に危ないので、ちょっと人手が回ってなくて…。」
「あ、いえいえ。むしろ心配をお掛けしました。顔が見えないのでなにかあったのか心配になっただけですので、逆にすみません。」
にっこりと笑って団員は去っていった。
きっと、僕らの看病のシワ寄せだろうと思い当たると、申し訳なく思う。
ひとまず皆荷馬車を降りる。
降りた瞬間に、日差しが眩しくてついつい手で影をつくり目を細めて空を眺めた。
"…今日も素晴らしい天気だ。"
随分とあれこれ考えていたので尻も痛ければ体のあちこちが固まって感じる。
ひたすら伸びをして体をほぐすと荷馬車の影に腰をおろした。
宮国さんは気の発光を纏ってからウズウズして見える。
どこか確かめたり試したりしてるようだ。
羨ましくも、武人というのはまだ何かを得ようとしてるのか…と、その貪欲さに頭が下がる。
木々が近くにあり少し見通しが悪い場所だからか、休憩中と言え警戒中の団員がピリピリして見える。
先程聞いたように人数的にも大変なのか、僕らの介抱で疲れてるのかも知れない。
"なんだか、本当に申し訳ない。"
大井さんが遠くに投げたら怒られると思ったのか、槍を片手に近くの木に投げようとしている。
…あ、発光した。
そう思った瞬間に投げ放たれた槍が木を削りながら圧潰した。
"バキャーーーーン"
僕はあまりの光景に渇いた笑いしか出ない。
…完全にあれは人ではない、…ゴリラだ。
大音響で響いた圧潰する音に、鳥が一斉に飛び立ち馬が暴れ…なだめるのに団員が大変な事になっている。
ただでさえピリピリしてた団員がいつになく困った顔で注意するのも無理はない…。
発光ゴリラ、絶賛しょんぼりしていた。
少し可哀想なので、僕は腰を上げ大井さんに近づくと、「もうその辺の石でも投げようよ。」と、笑顔で精一杯励ました。
「あ、そうか。うん、そうだよね。中田くん、ありがとう!」
途端に満面の笑みでお礼を口にすると、
発光ゴリラが…石をどこかへ全力で遠投しはじめた。
"あ、…そこは、適当な木に投げるんじゃないだ…。"
正直どこまで飛んでいるのか見えもしない…。
どこかの旅人が当たって死んでたとしても僕のせいじゃないと何度も自分に言い聞かせた。
しかし、僕の驚きはそこで終らなかった…。
むしろ本番はここからだったと言える。
…神無月さんだ。
試射をはじめる所を見ていたのだが…。
__触れると矢が発光したのだ。
そして発光した矢を射た後、残心と言うのだろうか…。
…無意識のように恍惚に微笑んだ。
どうやら、満足のいくものだったんだろう。
何度か繰り返えされる試射…。
目が離せない。
次矢を指に挟んだまま弓を引き絞り、かなり遠目に見えた木に射った。
そして、立て続けに挟んでいた次矢を射ると一本目の矢の背に当たりキレイに裂けた…。
我が目を疑うとはこの事で、息が止まる。
彼女は、ハッと我に返った様に、
「物資を無駄にしてすみません。」と、近くの団員に頭を下げていた。
団員は笑顔で大丈夫ですよ。と、なぜか嬉しそう…。
…発光ゴリラ…どんまい。
その後、彼女に聞いてみたらイメージ通りの軌跡を矢が描くのだそうだ。
当然の様に、矢が速すぎて僕にはわからなかったが、彼女が言うには曲がるらしい…。
そして、…僕はどうにも光らなかった。
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