【*日目】目覚め
慌ただしく駆け寄る足音と共に叫び声に近い報告が響く。
「団長!皆様目を覚まされましたッ!」
側で聞こえていた団員達から安堵の雰囲気が漂う。
「よし!すぐに参る!!看病に当たった物はすぐに休ませろ!神の使いの状態を見て追って出発は指示する。残りの者は、出発の準備を整え待機だ。」
「「「了解致しました!」」」
皆が一斉に敬礼を取ると、即座に慌ただしく出発の準備へと取り掛かり始めた。
団長は、安堵の溜め息をひとつ漏らし、直ぐ様顔を引き締めると足早にその場を後にした。
■
「皆様。お加減はいかがですかな?」
努めてゆっくり静かに団長が声をかけてくるが、急いだのか息が乱れている。
回りでは慌ただしく団員が動き回っているのが目に入る。
皆こちらをチラッと見ては安堵の表情を浮かべ…、時折「良かった…。」との呟きが耳に届く。
"えーと?…日暮れ前、平屋に案内され…あれ?…ごはんを食べた後どうしたんだっけ…、疲れて寝ちゃったのか…。ん?なんで皆そんな顔で僕らを見てるんだ…。"
ひとまず、喉が渇いていて仕方がない。
「すみません、お水を頂けますか?」
受け取った水をがぶがぶ飲む。
どうもキョトンと僕がしているのを眺め、団長が思い当たったのか、水を飲み続ける僕を見ながら説明をしてくれた。
僕らは晩御飯を頂いてすぐに、次々と意識を失ったらしい…。
原因が良くわからないが酷い高熱で、なんとか熱を下げようと団員が交代で付きっきりの看病をしてくれたらしい。
そして、驚いた事に…、丸々1日意識を覚まさなかったと聞いた。
"つまり、これ翌朝じゃなくて、…翌々日の朝か…!?…え??"
流石にびっくりして、痛いところがないか体を探ってみるも、…まるでない。
ホッと安心すると同時に、皆あんな顔をする訳だ。…と、納得する。
"後でお礼を言おう。…なんだか迷惑かけたな。"
「ご心配をお掛けしました。後で団員の方々にもお礼を言わせて下さい。ただ、体は全くなんともありません。むしろ、不思議と調子が良いくらいですね。」
僕がそう言ってると、竹筒で水を飲みながら起き上がる宮国さんと大井さんが見える。
「皆さん、急にそんな…。大丈夫でしょうか?無理をなさっては…。」
慌てて団長が声を掛ける。
「なんのなんの、調子が良いくらいですよ。どうも心配を掛けたようで申し訳ない。少し表で体を動かす時間くらいありますかな?…」
宮国さんが笑顔で団長に告げながら槍に手を掛ける。
「なんだかご迷惑掛けたようですみません。」
大井さんもしっかり頭を下げるも表で日課の筋トレでもやる気だろうか…。
奥で僕と同じように上半身だけ起こして竹筒で水を飲んでる神無月さんと不意に目が合い、『元気の良いおじ様方はどうしようもないよね…。』と、微笑み合った。
「あぁ、すぐにでもお食事お持ちします。食べた後で、皆様の調子に問題なければ出発してもよろしいでしょうか?…」
団長は近くの団員に目だけで忙しなく指示を飛ばしながら僕らに探るように聞いてきた。
丸1日足止めを食らったようなもんだ、団長としては心配ながらも焦っている事だろう。
僕が快諾しようとするより先に、
「あ、よかったです。私、なんだかお腹がペコペコで…。お食事貰えるならいつでも出発して下さい。」
神無月さんが嬉しそうに口にした。
僕らは目を見合わせて団長に頷いた。
「じゃ、食事がくる間少し体をほぐすとしようかの…。」
宮国さんはそう言い残すと表へと出ていった。
大井さんもそれに続くかのように表へと消える。
僕は精一杯伸びをしながら、これって朝だよな?…僕も外でも見てみるかな。と、ゆっくり立ち上がった。
外は僅かに夜が明けてるかなと思える位でまだ全然暗かった…。
__朝の澄んだ空気は格別だな…。
"スーーーーッ…ハーーーーッ"
思わず深呼吸をする。
こんなうす暗い中、2人ともどこ居るんだ?…
苦笑しながらも辺りに2人を探す。
目にぼんやり薄く光るなにかが映る。
…ん?
なんだ…?
その薄い光を良くみようと近づく…。
「中田さん、急に近づくとあぶなかですよ!」
薄い光が喋る…。
は…?
「え!ちょ、ちょっと!宮国さん!!…体から…なにかが揺れてない?…うっすら光ってるよ!」
思わず僕は大声を出していた。
よく見ると宮国さんの体をなにかが巡っているのが薄く光って見える。
"ブフォッ…ブォッ…ブォーン"
明らかに槍を振り回す風斬り音がおかしい。
「あぁ…今までに感じた事がない程、冴えとりますな…。気が満ちてるのか、力が溢れる感じがしますな…。」
返答しながらも満面の笑みを浮かべたまま槍は振り回し続けてる。
更に風斬り音がおかしくなってる気がする。
準備運動は終わったとばかりにストンと力が抜けたように構えると、大振りな動きがなくなり、恐ろしい程に動きが滑らかに、そして素早くなっていく…。
巡る光を身に纏ってるそれは、
ユラユラと舞っているように見える…。
「美しい…。」
いつの間にか僕の後ろへ居た神無月さんが呟く。
目を奪われ僕が口に出来なかった想いを…。
食事の鍋を持った団員を従え団長がこちらへ向かって来ながら、見とれてる僕らを余所に口を開いた。
「あれは魔力でしょうか…。いやはや視認出来る程のとは恐ろしい…。」
口を開けたまま団長は固まっていた。
「え?…あれ、魔力なんですか!?」
脊髄反射で僕は口に出していた。
「正確には圧縮された魔素そのものと言った感じでしょうか…。魔術の発現時の光に似て見えます。見える程となると密度が高い魔素になると思いますが、いやはや恐ろしいですな…。あんなものを纏って体はなんともないのでしょうか?」
なんだと…?!
いや、確かにこの世は魔素で満たされてるとマーレル君は言っていた。
しかし、この間は誰も魔素なんて認識出来なかった。
確かに誰も魔術の魔の字も上手くいかなかったのだ。
…それは間違いない。
なぜ、こんな急に…。
…あ。
突然に仮説が閃いた。
魔素なんてない世界から僕らはやってきた。
この世界にきてようやく魔素で僕らの体も満たされたとしたら?…
そう、この世界に来て、ジョギングをしたり飲んだり食べたり、…ありえるだろ?
むしろ馴染んだと表現するのが適切か…。
そこで魔素なる異物に体が抵抗をして高熱を引き起こした。
しかし、魔素は馴染んだんだ…きっと。
丸1日寝ててこの体調の良さの説明がつかない。
根拠もなく自分ではそうとしか思えない気がした。
むしろ一度そう思ってしまうと間違えないとすら思い始めた。
僕はその後食事をしながら興奮気味にその仮説を皆に説明した。
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