【△日目】中田
こんなにも美しい夕暮れも僕の目には血に染まってしか見えない…。
__見渡す限り呻き声をあげてる世界。
それは心象なのか…それとも願望か…。
バイトで疲れた帰り道を歩いていると、いつもくだらない事をダラダラと考えてしまう。
バイトを3つ掛け持ちしている僕には、わずかな楽しい時間でもある。
"サクッ…サクッ…サクッ…サクッ…"
靴以外の音が消えていく…。
暴論に近い持論ではあるが、…全ては無意味だ。
なぜなら、人は必ず死ぬからだ。
どうした所で行き着く先は一緒…。
無意味であるならば、…好きに生きた方がいい。
しかし、困る…。
好きに生きるにはこの世界は厳しい…。
たぶん、"僕には"かも知れないが。
"サクッ…サクッ…サクッ…サクッ…"
不意に偉大な先人の言葉が思い当たり安堵の笑みを漏らす。
…終わり良ければすべて良し。
好きに生きれなくとも、
きっと、そう…終わりが良ければいいのだろう。
しかし、物語なら作者の気分で終わりを決められるが、人生に終わりを決めるとするのならどうなるのか…。
…やはり、この身の消滅…死になるだろうか。
では、良い終わり…ハッピーエンドとは?
素敵な死…楽しい消滅…!?
……具体的には思い付かない。
"サクッ…サクッ…サクッ…サクッ…"
物語では、老衰にハッピーエンドを謳う者が多いように感じる…が、そうなのか?
…ピンとこない。
祖父や祖母が認知症で、人として死ねない一部始終をこの目で見たからかも知れない…。
長生きする事に、どんな素敵さや楽しさを想い抱いているというのだろう?
きっとこの世界が楽しめる人達なんだろうな…。
"サクッ…サクッ…サクッ…サクッ…"
あぁ、…不条理な死に比べてみるとマシな終わりと言うような事なのだろうか…。
…それならば少しは理解できる気がする。
しかし、素晴らしい終わりとはなにか違う気もする…。
"サクッ…サクッ…サクッ…サクッ…"
僕には贅沢な悩みなんだろうな…。
正直、今終わりがくるのならどんな物でも喜んで受け入れる。
"サクッ…サクッ…サクッ…サクッ…"
1浪して3流大学にいき学費を稼ぐ為にバイトに明け暮れる毎日。
バイトが忙しくて大学に余り行けてない…。
本末転倒のまさにお手本。
自分でも意味がわからなくて笑うしかない。
それが僕、中田雪22才。
世間的に言えば、若い癖に判ったような事を言う理屈っぽい負け組…。
たぶん、そんな感じだ…。
僕は別に贅沢な暮らしなんて望んでないし、無駄に物を欲しいとも思わない。
本当に慎ましい暮らしでいい。
ただ、生きる為にすら強いられる労働は辛く厳しい。
僕にとっての、この世界は…そうだ。
「今日もよくがんばったよ。」
…復活の呪文のようなものだ。
そう口に出して自分を励まさないと何かに飲み込まれる。
いや、もう既に飲み込まれてるのかも知れない。
あぁ、限界だ…。
__カンカンカンカン。
視界に踏み切りが降りてくる。
__カンカンカンカン。
…もう終わりでいいんじゃないかな?
__カンカンカンカン。
…もう、うんざりなんだよ。
__カンカンカンカン。
足を進めようとすると、意識が遠くなる。
__カンカンカンカン。
薄れゆく意識の中で待ちわびたこの世界の終わりを感じ…思わず笑みが溢れる。
"この世界が僕を見捨てたんじゃない、この世界を僕が見限ったんだ。"
意識を失う時、笑顔と共に確かにそう思った。
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