第3話 セルリアンハンター
「大丈夫ですか?」
先ほどまで
なぜ彼女がここに・・・?
一瞬ここはあの世で俺はあの黒玉に潰されたのかと思ったが、セルリアンが独りでに爆散する訳がないし、仮にそうだとしても目の前に俺の死体が見えないからどうやら違うらしい
「リカ・・・オン・・・?」
「?・・・あの、どこかでお会いしたことが?」
無意識のうちに彼女の名前が口から出てしまっていたらしい
・・・そうだったな、目の前にいるリカオンとは初対面で俺の知ってるリカオンじゃない。それに俺の知ってるリカオンはあの時俺の目の前で・・・
「どうかしましたか?」
「え?…あ、ああ…いや、何でもない。助かった」
彼女に礼を言った後、どうして奴に追いかけられてたのかを軽く説明すると彼女は「それは災難でしたね」と苦笑いしていた
それにしてもイェーガーのやつ、まさか連れてきたアニマルガールが彼女とは・・・イェーガーがいない?
「イェーガー、あ~・・・ラッキービーストは一緒じゃないのか?」
「え?ボスが近くにいるんですか?」
・・・なんだって?ラッキービーストから話を聞いて助けに来たんじゃないのか?
彼女から話を聞いたところ、ここに来たのはイェーガーが連れてきたんじゃなくて銃声とセルリアンの匂いを頼りにして駆けつけてきたらしい
ならあいつはいったい何処に?
ガサガサッ
セルリアンか!
音が聞こえた茂みの方に銃口を向け狙いを定める。しかし、そこから出てきたのはセルリアンではなくイェーガーを脇に抱えたキンシコウのアニマルガールと
「そいつは誰だ?」
「あ!キンシコウさん!ヒグマさん!」
ヒグマだって?
俺の知ってるヒグマはおっとりした感じだったはずだ、だが目の前にいる彼女にはその雰囲気は無く、例えるなら数々の激戦を潜り抜けた戦士のような雰囲気をしている
「キャプテン、武器ヲ降ロシテ。彼女達ハ味方ダヨ」
「え?ああ、すまない」
キンシコウから降ろされたイェーガーに言われて銃をホルスターにしまう
知っている世代のヒグマとの違いやらいろいろあったせいなのか銃口こそ彼女達に向けてはいなかったが銃を降ろすのを忘れていたらしい
全く俺としたことが・・・基本中の基本を忘れちまうとはな・・・
・・・ん?リカオンは何でそんなに驚いた表情をしてるんだ?
「ボスがしゃべった!?」
ああ、そうか。
その後、彼女らがこの辺りで休憩や野宿のために使っている場所までの移動中に彼女らの事を聞いた
なんでも彼女らはセルリアンハンターでキョウシュウエリア全体を見回っているらしい
まさかここでその名前を聞くことになるとはな…
それと、ヒグマとキンシコウの2人はイェーガーが連れてきたわけじゃないらしく、どうやら上陸場所付近を縄張りにしてたアニマルガールにイェーガーと話してるところを見られてたらしい
んで、それを聞いて3人で俺のことを探すために日の出港に向かっていた時に聞いたことのない音が聞こえてその音がした方向に向かったらセルリアンの群れに遭遇…多分そのうちの1,2体は喧嘩吹っ掛けといて逃げた俺のことを追いかけてた奴だろう…、んでその団体さんと戦おうって時に近くで衝撃音が聞こえたからリカオンをこっちに向かわせたらしい
それと俺が放り投げたイェーガーについてなんだが・・・あの時は投げる先をよく見てなかったんだが、どうやら放り投げた先に茂みがあったらしく、その中に引っかかってアワワとなっていたところをキンシコウが見つけてくれたらしい・・・それに関しては後であいつに謝っておこう
「さてと…、改めて礼を言わせてくれ。まさか俺だけじゃなく
「別に礼を言われるほどじゃない・・・ハンターとして当然のことをしたまでだ」
さっきも思ったことだがヒグマの奴、昔と比べてずいぶん変わっちまったな・・・
そういえば世代交代すると見た目は同じでも性格が変わってたりするって話を聞いたことがあったな
世代交代したんじゃなくて何か変わるきっかけがあって今の性格になっただけかも知れないが、俺の事を覚えていないんだったらその可能性はないだろう
まぁヒトがパークから撤退して4,5年ぐらい経ってるから、ただ単に彼女が忘れてるだけかも知れんが・・・何であれ、少しばかり寂しい感じもするな
さて、彼女にも礼を言わんとな
「リカオン、君もありがとうな。君が助けに来てくれなかったら今頃あのセルリアンに食われてただろう」
「いえ、あのセルリアンがあなたの方を向いていて私に気づかなかったから倒せただけであって、普通に戦ってたらヒグマさん達が来るまであなたの事を守ってるのが精一杯でしたよ」
相変わらず謙虚な奴だな
ヒグマと違って彼女とキンシコウは世代が変わっても昔と変わらないようで少し安心したよ
「それにしても、リカオンの知り合いにヒトのフレンズが居たなんて意外ですね?」
ちょっとまて、ヒトのフレンズだって?
「?私はかばんしかヒトのフレンズは知らないですよ?」
「お前の知り合いじゃないのか?」
「いえ、今初めて会ったばかりです。それにしても、同種のフレンズが生まれるなんて珍しいですよね」
こいつぁ…ここに来た目的を説明しといたほうがいいな…
まぁどのみち同伴してくれるアニマルガールを見つけたらそいつに説明する予定だったし、隠すほどの事でもないから別にいいか
「あ~、盛り上がってるとこ悪いが、俺はフレンズじゃない」
「なるほど…つまりお前はパークにヒトが戻ってこれるかどうかの調査をしている訳か」
「ああ、そうだ。それと、俺はアレックス・フェットだ。
アレックスで構わない」
俺がパークに来た理由を話すついでになぜ俺のことを探してたのかも聞いてみた所、半年近く前に【かばん】という名前のヒトのフレンズがアライグマ、フェネック、そしてサーバルキャットのフレンズと一緒にここからゴゴクエリアに旅立っていったらしく、ラッキービースト(彼女らはボスと呼んでいるらしい)と話をしているフレンズがいるという話を聞いた時にかばんが帰ってきたと思って港の方に向かっていたらしい
そういえばサンドスターロウの数値が下がったのも丁度そのくらいの時期だったな…
後でイェーガーに詳しく聞いてみるか
「それで、調査と言っても具体的にはどんなことをするんです?」
「基本的にはキョウシュウエリア全体を見て回るだけだが、その他にもセルリアンの出現数やの大気中のサンドスターロウの濃度の確認、とにかく色々だな。
でもそれをやる前に先にあの山に行く必要がある」
そう言って俺はサンドスター火山の方に指を差す
観測装置がきちんと動いていればあそこに行く必要はないだろうが、仮に壊れていたりしてたらどのみち山頂に登らなくちゃならんからな…
そう考えると装置を見て回るより最初に山に登ってフィルターを見たほうがいいだろう
「意気込んでる所悪いが、あの山は博士の許可がなければ入ることは出来ないぞ」
…何だって?博士…?
なんだか嫌な予感がするが、一応聞いてみるか…
「その博士っていうのは?」
「しんりんちほーの図書館に居るアフリカオオコノハズクの博士さんの事ですよ」
キンシコウが俺の疑問に答えてくれたが、その答えを聞いて頭を抱えた…
くそっ、やっぱりあいつのことかよ…
って事は助手のワシミミズクも一緒に居るよな…
いくら調査期間が数ヶ月あるとはいえ、やっとここが再開できるかも知れないって時にあいつらのわがままなんか聞いてたら数ヶ月なんてあっという間に過ぎちまうぞ…
「だ、大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫…大丈夫だ…」
昔のあいつらの無理難題を思い出すと正直言って大丈夫じゃないがな…
けどそれが嫌だからと言って無許可で火山に登るわけにもいかねぇし…
…しょうがねぇ、それに日本には「郷に入っては郷に従え」っていう言葉もあるし気は進まないが図書館に行くしかねぇか
俺が立ち上がり下ろしてたバックを背負うとヒグマが「どこに行くつもりだ?」と聞いてきたので、山に登る許可を貰うために図書館に向かうつもりだと答えた
ヒグマ以外の2人は心配(リカオンには無茶だと言われた)しているが、多少の無茶は承知の上だし、それに同伴してくれるアニマルガールと出会う前にセルリアンに出会ったとしても、こっちにはセルリアンに対抗できる武器があるから心配はいらないとホルスターに収めてあるM1911を触りながら3人に説明したのだが…
「小さいやつすら倒せないのにか?」
おっと、ぐうの音も出ねぇ…
「…少し待ってろ。2人とも、ちょっと来てくれ」
なんだ?俺を護衛してくれるアニマルガールの当てでもあるのか?
もしくは護衛じゃなくて俺のことを監視するアニマルガールの相談か…
まぁ、何であれ彼女らが戻ってくるまでバッテリーの残量でも確認しとくか
ヒグマさんに呼ばれて私達は休憩地点に彼を残してヒグマさんについて行く
ある程度離れるとヒグマさんは休憩地点にいる彼の事をチラッと見るとキンシコウさんに彼のことをどう思っているか聴き始めた
「それで…お前はどう思う?」
「嘘を付いている様には見えませんけど・・・ヒグマさんはどう思います?」
「ああ、その点については私も同意見だが・・・ほんとにあいつ1人だけなのか?」
2人は彼のことを疑っているみたいですけど、正直言って私も少し疑っている
ここに来た目的となぜ1人だけなのかについてはさっき聞いたけど、いきなり「パーク復興の為の調査に来た」と言われてすぐに信じるのは私の知っている限りだとサーバルとかアライグマぐらいだろう…カワウソやトキさんあたりもすぐに信じそうだけど…
ふと彼の方を見てみると、手に持ってた武器を腰に付いてる物にしまってイェーガーと呼ばれているボスと何か話しているのが見えた
それにしても、なぜあのヒトは私を見たときにあんな顔をしていたんだろうか?
まるでセルリアンに食べられて動物に戻ってしまったフレンズにまた出会った時みたいに驚いたような表情をしていた…
それに今日初めて会ったはずなのに、昔に会ったことがあるような感じの気持ちは何なんだろう…?
もしかして私が覚えていないだけで昔に会ったことが…
「おいリカオン」
「え?あ、はい!」
「どうしましたか?ボーっとして」
「あいつに関して何か気になることでもあるのか?」
「え?あ、いや、何でもないです」
いけない、考えることに集中しすぎてヒグマさん達に話しかけられてるのに気づかなかったみたい…
「まぁいい。それで?お前はどう思う?」
「どうって?」
「聞いてなかったのか?あのアレックスとかいう奴の事だ。あいつの言ってた事、お前はどう思ってる?」
アレックスさんの言ってた事…ですか。
ヒグマさんの言ってることが信じるか信じないかという意味だったら、正直に言うとすぐに信じることは出来ない。
でも、あのアレックスさんが言ってることは嘘だとは思えないし、それにあのヒトは嘘をつくのが苦手なタイプだと思う…
「私も、キンシコウさんと同じで嘘を言ってる様には見えないです」
「・・・わかった。とりあえずはあいつのことを信じるとして、そうなると奴と一緒に行動できるフレンズを見つけないとな」
「そうですね、遊園地の方に行けばサーベルタイガーがいるはずですし、この辺りを探せばどこかでアイアイに出会えると思いますけど」
「あ、あの…その件についてお二人に相談したいことが…」
「他ニモ何カ聞キタイコトハアル?」
「いや、今んところはそれで十分だ。ありがとうな」
イェーガーの頭を軽く撫でると嬉しそうに尻尾の部分を振りながら「マタ何カ気ニナルコトガアッタラ聞イテネ」と答えてくれた
彼女らが戻ってくるまでの間にセルリアンのせいでイェーガーに聞けなかった事や、フィルターが修復された時期について聞いてみた
こいつが言うにはフィルターが修復されたのはかばんと呼ばれているヒトのフレンズが彼女と同伴していたラッキービーストからパークガイドの権限を与えられた直後の事らしい。
で、その後に黒セルリアンと戦ってたヒグマ達と合流して奴を海に沈める作戦を実行し、完全勝利…とまでは行かなかったらしいが、何とか海に沈める事に成功したって話だ。
細かい話は調査しながらアニマルガールに聞くとして、もしそれが本当の事だったら彼女はこのパークの英雄だな…
「すまん、待たせた」
お、やっと戻ってきたな
「いや、俺も
それで、そっちが良ければ何を話してたのか聞いてもいいか?」
「ああ、お前の調査に同行させるフレンズについて少し話し合ってな…
「よ、よろしくお願いします!」
リカオンが…?
いや、武器が今のセルリアンに通用しない以上断る理由もないし、何より同行者を探す手間が省けるのならこちらとしても万々歳だ。
それにしても、護衛とはいえまたこいつとペアを組むことになるとはな…
「ああ、こちらこそよろしく頼む」
そう言って俺は握手のために右手を差し出す。
最初は彼女は戸惑った様子だったが、すぐに彼女も両手で握り返してくれた
そういえば最初に
「しかし、ホントにいいのか?彼女が俺の護衛をするとなると、そっちは2人になっちまうが…」
「近くにアイアイが居たはずですから、気にしなくてもいいですよ」
「それならアイアイと合流した後でいいんじゃないのか?」
「…何か不満でもあるのか?」
「いや、ただお前たち2人がセルリアンにやられないか心配なだけだ」
護衛を付けてくれるというのは正直言って有難いが、今のセルリアンハンターが三人一組で行動しているのであれば、2人になってしまったら何かしら支障が出てしまうんじゃないのか?
リカオンを俺の護衛に付けた結果、アイアイと合流前にセルリアンに食われたんじゃ明日から寝覚めが悪くなる
「心配しなくても大丈夫ですよ、ハンターを始めたばかりの頃はヒグマさんと2人だけで行動してましたから」
「別にお前ひとりで探し回っても構わないぞ。セルリアンに食われてもいいっていうんだったらな」
おっとそいつはご勘弁願いたい…
トワの奴の無茶のおかげでやっとパークが再開できるかの段階まで来れたんだ、それなのに『調査員がジャパリパーク内で行方不明になりました』なんてシャレにもなんねーよ…
正直不安ではあるが、2人の目を見るとセルリアンと戦ったことのない素人ではないのが分かったので、ここは素直に2人のご厚意を受け取っておくとしよう
「リカオン、あまり無茶はしないように」
「はい、お二人もお気をつけてください」
「お前も気をつけろよ」
「そんじゃ、しばらくの間借りるぞ」
「アレックスだったか?お前も気をつけろよ。今の時期になるとセルリアンが多くなるからな」
セルリアンが多くなる…か
そういえば昔も月の下旬ぐらいになるとセルリアンの報告が多くなって大変だったな…
今は月の中旬入ったばかりでセルリアンはそんなに多くはないはずだが、ついさっきの件もあるし気を付けておいたほうがいいだろうな
「分かった。肝に銘じるとしよう」
さて…と、今から徒歩でしんりんちほーの図書館に向かうとなると最短で向かったとしても2、3日は掛かっちまうし、なにより腕時計の針が5時を指しているから2時間後には日が沈んでしまう
今日のところは近くにあるロッジで泊まって、図書館へ向かうのは明日にしよう
「それじゃあ行きましょうか!キャプテン!」
っ・・・
『行きましょう!キャプテン!』
「どうしました?」
「…いや、何でもない。行くぞ、日が落ちる前にロッジにたどり着きたい」
「あ、ちょ、ちょっと待ってください!」
そうだ…彼女はリカオンのアニマルガールではあるが、俺の知ってるリカオンじゃない………とにかく、今はロッジへ行こう
トラブルがなければ日が落ちる前にはたどり着けるはずだ
「行ってしまいましたね」
「ああ、まさか
2人が去った方向を眺めながら自分の後輩であるリカオンの成長を感じるキンシコウであったが…
「・・・」
「そんなに気にしなくても、あの子なら大丈夫ですよ。私たちの自慢の後輩なんですから」
「当たり前だ、むしろいい経験になる」
それよりもあのアレックスとかいう奴、何処かで見たことがあるんだよな…確か図書館にあった本の中にあいつに似ていた写真があったような…
「キンシコウ、図書館で調べたいことがある。アイアイと合流したら一旦図書館に戻るぞ」
「え?それは構いませんけど、見回りはどうするんです?」
「それはジェシーとキックスに任せる。あいつらの事だからロッジの近くにいるだろう」
キンシコウにそう伝えるとヒグマの「行くぞ」という言葉とともにアイアイと合流するためにその場を後にする
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます