第79話 むかしむかしのお話
それは、むかしむかしのお話。
世界が創られ、そこにいくつかの『国』が生まれ始めた時の出来事。
大地や風、火に水、それぞれを司る神々は世界にできた国へ祝福を授けた。
肥沃な大地が続くように。
柔らかな風が吹くように。
闇を照らし営みを助ける火が灯るように。
そして、清らかな水が絶えることなく降り注ぐようにと。
それぞれの神の祝福を受け、国は多くの生命を育んでいくはずだった。
ある時、火の神が水の神に少しだけ悪戯をした。水の神を偽りの場所へ導き、祝福を授ける国を違えさせたのである。元々水の神のことを快く思っていなかったのか、他に理由があったのか、神々のこと故それは定かではない。
ただその悪戯によって、ある国は水の神の祝福を受けることができなかったのである。
その国に雨が降ることはなく、大地は枯れて乾いた風が吹き、日の光ばかりが強く、全ての命を燃やし尽くさんばかりに降り注いだ。
このままでは、全ての生命が滅びてしまう。水の神は悲しみ、その国に生きる命を救わねばと思った。
しかし、祝福は世界を創るその時でしか授けることができない。一度動き始めた国は、神の手を離れて歩んでいくもの。神が国に直接介入することは理に反してしまう。
そこで水の神はある生命の種を一滴、国に落とした。その種族は水を生み出し、数多の命へ平等に分け与えた。水の神の代わりとして。
彼女らの使命は、渇いた国に生きる数多の生命を救うこと。
その為に力を集め、いつかこの国に雨を降らせること。
心を持たぬ神の使者。
人々は彼女らを、水の蜂と呼んだ。
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