011 世界最強の兵器
それから1ヶ月が経過した。
涼介のレベリング計画は順調で、最終的にコネットは1週間あたり7万個のステンガーを求めるようになった。単純計算で日に1万発のミサイルが撃たれていることになる。
それだけの経験値が流れ込んでくるのだから涼介のレベルは止まらない。気がつくと374になっていた。このレベルになるとノーマルドラゴンの経験値など微々たるものだが、塵も積もれば山となるもので、今でも数日に1回は上がっていた。ゲームの頃よりも効率的に成長している。
ただ、最近の涼介は悩んでいた。更なる高みを目指した時、日に1万体のノーマルドラゴンでは経験値が物足りない。ゲームならステンガーの上位互換を提供して狩る敵のグレードを上げさせれば済む話だ。しかし、ゲームと違ってそうはいかなかった。
この世界は現実なので、冒険者は金や経験値よりも命を大事にしている。敵のグレードを上げると死のリスクも上がるので好ましくない。彼らには日に数十万ゴールドというノーマルドラゴンの稼ぎで十分なのだ。
◇
ある日の朝食後、ダイニングにて。
「涼介様、実はお話が……」
「シャーロット、ついに準備が整ったぞ。今日はすごいものを見せてやる」
涼介とシャーロットが同時に口を開いた。
「すごいものって何ですか?」
「それはだな……いや、それよりも何を言おうとしていたんだ?」
シャーロットは気まずそうな表情で目を逸らした。
「そのことは後でお話します。それより涼介様のすごいものを教えてください!」
「何だと思う? ヒントはお前がずっと信じられなかったものさ」
うぅぅぅと唸るシャーロット。
「分かりません。涼介様はいつも信じられないものばかり生み出してしまうので」
「では披露するとしよう。ここじゃ無理だから適当な狩場に行くぞ」
「かしこまりました!」
二人は支度を済ませ、テレポート屋に向かった。ギルドに行かないのは受けるクエストがないからだ。この世界におけるクエストは街から一定の距離に棲息している魔物に限られていて、言い換えるならレベル100以下の敵が大半を占めていた。強い敵ほど秘境に棲んでいる。
「わぁ! 綺麗な草原ですね! 魔物が見当たりませんよ!」
「そういう場所を選んで飛ばしてもらったわけだしな」
涼介とシャーロットがやってきたのはだだっ広い草原だ。大小様々な動物がのんびりと過ごしている。魔物はいない。
「こういうところで何も考えずにぼんやり過ごしていたいですね」
「ここしばらくはそういう生活だっただろ」
「あはは、それもそうですね」
涼介は〈クラフト〉を発動した。脳内でオプションてんこ盛りの最強兵器をイメージする。約10億ゴールド分の材料を要求されたが問題ない。
「見よシャーロット、これが10億の化け物だ!」
そう言って涼介が召喚したのは戦闘機だった。複数の武器を搭載し、対空・対地の両方に対応した最高傑作。
「これは一体!?」
「戦闘機……と言ってもわからないよな。シャーロットでも分かるように言うと、こいつは空飛ぶ兵器だよ」
「空を飛ぶ!? もしかして、本当に人間が空を飛ぶのですか?」
「そういうことだ。体験させてやろう。採算度外視で作った怪物の能力を!」
戦闘機に乗り込む二人。座席は戦車と同じく前後に一席ずつ配置されており、前の操縦席には涼介が座った。
「シートベルトは?」
「締めました!」
「ではテイクオフ!」
涼介がスイッチを押すと戦闘機がふわりと浮いた。そのまま高度を上げていく。
「浮いています! 浮いていますよ! 涼介様!」
「まだまだこれからだぜ」
涼介の操縦によって戦闘機が超高速で動き出す。
「わぁ、すごいです! 鳥さんになった気分です! 楽しいです!」
「鳥はこんなに速く飛べないけどな!」
シャーロットは声を弾ませて大興奮。誕生日プレゼントを貰った子供のように目をキラキラさせていた。
「流石は10億の結晶だ。何のGも感じないぜ!」
快適に飛んでいるとドラゴンを発見した。レベル95のボス、ブリザードドラゴンだ。ノーマルドラゴンの35倍の強さを誇り、レベル100以下では最強の敵と言われている。
「あいつをぶっ殺してやろう。シャーロット、攻撃しろ!」
「攻撃の仕方は戦車と同じですか?」
「似たようなものだ。適当にやってみろ」
「分かりました!」
シャーロットの操作によって戦闘機が機関銃を放つ。よもや空に敵がいるとは思わず油断していたドラゴンは、抵抗する間もなくあっさり死んだ。
「すごい威力です!」
「ちなみにそれは一番弱い武器だ」
「えっ」
「着いたぜ、下を見ろ」
戦闘機の下には巨大な火山があった。火口のマグマにはレベル220のボス、魔人イフリートが我が物顔で徘徊している。ブリザードドラゴンの20倍強い。さらにその周辺にはレベル200のザコ、アビスサラマンダーも多数いた。
「くらいやがれ、1発1億の爆弾を!」
涼介がボタンを押す。戦闘機から大きな爆弾が投下され、イフリートの頭上で爆発した。マグマを纏った爆煙が宙に舞う。
視界を遮る黒煙が落ち着いた時、涼介はニヤリと笑った。先程までいたイフリートとサラマンダーがもれなく絶命していたのだ。
「とまぁこんな感じさ。もはや面と向かってドンパチする時代はおしまいだ!」
「すごすぎて言葉がありません……!」
「戦闘力のアピールはこれで済んだし、空の旅を満喫してから戻るとしよう」
「はい!」
涼介は自動操縦モードに切り替えた。離着陸から攻撃まで全て自動で行うので寝ていても問題ない。実際、彼は着陸するまでの間を寝て過ごした。シャーロットはモニターで外の様子を眺めていた。
「草原に戻ってきましたよ、涼介様!」
「お、もう着いたのか」
ハッチを開いて二人は外に出た。涼介は〈クラフト〉の解体機能で戦闘機を消す。材料の一部が戻ってきた。
「面白かったか? 空は」
「はい! すごく楽しかったです! それに強かったです! ただ、材料費が少し高すぎますよね。10億だなんて……」
「自動操縦やらのオプションを削ればもっと安上がりなんだがな。ケチったせいで死んだら元も子もない」
「たしかに」
「それに今の俺には10億なんて端金だ。なんたって資産は約1000億あって今後も増え続けるわけだしな」
シャーロットは「流石です」と拍手した。
「それよりシャーロット、そろそろ聞かせてくれよ」
話が落ち着いたところで涼介は切り出した。
「俺に話したいことがあるんだろ?」
シャーロットの表情が曇る。
「とても申し上げにくいのですが……私、PTを脱退します」
「え? PTを脱退?」
「はい」
涼介は固まった。
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