006 初めての拳銃

「この世界にもテレポート屋って存在していたんだな」


「この世界にもとは?」


「こっちの話だ」


 涼介とシャーロットはキングサイクロプスの棲息する荒野にやってきた。この場所までは距離があるので、スキルを使って任意の場所まで送ることを生業とする『テレポート屋』を利用した。


 狩場へ移動するのに体力を消耗しなったこともあり涼介の士気は高い。今後もテレポート屋を利用しようと考えていた。


「この場所には来たことあるか?」


「いえ、ありません」


「ならば教えてやろう。そこら中に巨大な木の柵の囲いが点在しているだろ?」


「はい」


「あれがサイクロプスの拠点だ」


「なんと」


 砂埃の舞う荒野には、巨人サイズの拠点が無数にある。柵の材料である木の一本一本が巨木であり、木と木の隙間は人が通れるだけの余裕がある。巨人よりも遙かに小さな二人にとって、視界に映る柵は何の意味も成していなかった。


「俺達の狙いはキングサイクロプスだが、ここにはボスの他にザコのサイクロプスも棲息している。ボスを狩るにはまずザコを乱獲する必要があるから気を抜くなよ」


「分かりました!」


 シャーロットがクロスボウを召喚する。それは昨日涼介から貰った物とは違っていた。スキルレベルの上がった涼介がシャーロット用に作り直した代物だ。


「「「グォオオオオオ!」」」


 点在する拠点の門が開き、全長5メートル級の巨人が続々と出てくる。顔面のほぼ全てを一つの目で閉めるその魔物こそサイクロプスだ。


「すごい迫力……」


 シャーロットの体がきゅっと縮こまれる。近づいてくる巨人の群れに恐怖心を抱いていた。


「大丈夫だ。見ての通りあいつらは遅い。目を狙えば楽勝だ。俺が手本を見せてやる」


 涼介は数歩前に出て武器を構えた。こちらも新たに作ったクロスボウだ。昨日使っていた物に比べて威力が上がって射程が伸びている。


「それ!」


「グォオオオオオオ……!」


 涼介の放った矢は一体のサイクロプスを捉えた。目に命中したので即死だ。


「すごいです! 涼介様!」


「そんなこたぁない。目にさえ当てれば楽勝なんだ」


 サイクロプスは典型的なスペック詐欺タイプの魔物だ。攻撃力と防御力を見ると同レベル帯の中でも群を抜いて高い。しかし、動きが遅くて目を攻撃されるとあっさり死ぬことから討伐難易度は非常に低かった。


「妖精さん、お願いします!」


「ぴーっ!」


 シャーロットは妖精と協力して戦う。敵の注意を火と風の妖精に向けつつ、土の妖精で足を止まらせる。それから涼介に言われたとおり落ち着いて矢を放った。


「グォオオオオオオオオオオオオ……!」


「やった!」


 シャーロットの攻撃はサイクロプスの目のど真ん中を的確に貫いた。


「な? 楽勝だろ?」


「はい! これなら大丈夫そうです!」


「キングサイクロプスが出るまでこの調子で頑張るぞ!」


 二人は拠点から出てくるサイクロプスを返り討ちにしていく。危ない場面は一度もなく、全てのサイクロプスが二人の半径5メートル圏内にすら迫れずに死んでいった。


 この戦いによって涼介のレベルは10から12に、シャーロットのレベルは15から16に上がった。


「ヌグォオオオオオオオオ!」


 いよいよキングサイクロプスが現れた。全長10メートルで、これまでのザコとは体格から気配まで何もかも違う。一目でボスだと分かった。


「シャーロット、風の妖精に命じて俺に支援魔法を頼む」


「かしこまりました! 妖精さん、涼介様を支援してください!」


「ぴぴーっ!」


 涼介の体がふわっと軽くなった。


「ありがとう。あとは一人でやるから安全な場所へ離れていろ」


「大丈夫なのですか? 囮くらいなら私だって……」


「不要だ。お前に何かあったら勝っても嬉しくない」


「涼介様……!」


 シャーロットの頬が赤くなった。


「さぁ始めるぜ!」


 涼介は突っ込み、シャーロットは後退する。


「まずは挨拶からだ! ボスなんだから死んでくれるなよ!」


 涼介はクロスボウで攻撃を仕掛けた。矢はキングサイクロプスの目に向かって一直線。しかし目を貫くことはなかった。


「ヌッ!」


 キングサイクロプスが左手でガードしたのだ。矢は目玉ではなく手の甲に突き刺さった。目玉以外の箇所、つまり皮膚は岩よりも頑強なのでノーダメージだ。


「そうこなくちゃ困るぜ。だったらこれはどうだ!」


 涼介はクロスボウを消して銃を取り出した。耐久度などを極限まで削ることで実現したスキルレベル10の拳銃だ。


「まずい、この武器には照準がねぇ!」


 要求されるスキルレベルの都合で照準を削ったのが響いた。クロスボウと違って的確に目を狙うことはできない。


「まぁいい。この武器なら目玉以外に当たってもダメージを与えられるはずだ! トドメはクロスボウで刺せばいい!」


 海外ドラマだと片手でバンバン撃っていそうな拳銃を両手で構える涼介。スコープがあるわけでもないのに左目を瞑って狙いを定める。狙うのは大きな胴体だ。目玉を狙って外れては意味がない。


(まだだ、引き付けろ、引き付けろ……)


 確実に当てるため距離を詰めさせる。


「涼介様、危険です!」


「大丈夫だ」


 キングサイクロプスが涼介に迫る。通常のサイクロプスに比べて速い。両者の距離がぐんぐん縮まっていく。


「ここだ!」


 涼介は引き金を引いた。


 ズドォオオオオオン!


 鼓膜の破れそうな程の銃声が響く。その音に勝るとも劣らない反動で、涼介の体は後ろに吹っ飛んだ。これもスキルレベルを低く抑えた代償だ。


「涼介様!」


 駆け寄ろうとするシャーロット。


「来るな! それより敵はどうなった? やったのか!?」


 涼介は体を起こし、壊れた銃を消してクロスボウを構える。キングサイクロプスがどうなったのかは砂塵が酷くて分からない。


「死んだのか? 死んでないのか? そもそもダメージは入ったのか?」


 砂塵を睨みつける涼介。


 数秒後、霧のように視界を覆っていた砂塵が消えた。


「涼介様!」


 シャーロットが声を上げる。


「ああ……!」


 涼介は前を睨んだまま頷き、そして、ニヤリと笑った。キングサイクロプスの胴体に巨大な風穴が空いていたのだ。明らかに銃弾よりも大きな穴だった。


「ヌグォオオ……!」


 崩落するキングサイクロプス。追加の攻撃は不要だった。


「灰になっていくぞ!」


「すごい、ボスを一撃で……!」


「やっぱり時代は銃だぜ! 銃は最強なんだ!」


 涼介は声高に笑って右手を突き上げようとする。しかし射撃の反動で痛めたようで上がらなかった。


『レベルが 15 に上がりました』


 少人数でボスを倒したので経験値が大量に入る。涼介とシャーロットは共に3レベルも上がった。


(耐久度や反動を犠牲にしたとはいえ、まさかボスを一撃で屠れる程の武器を作れるとはな……。しかもボスの経験値はゲームの頃と同じでやべぇ。これならレベル上げを加速させられるぞ!)


 すごいを連呼して興奮するシャーロットを傍目に、涼介は早くも次の段階を考え始めていた。

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