第30話 守護者の鎧



「驚いた。まさかこの私が奥の手を使うことになるとは……」


 そう言ってローガンは目の前の敵を見た。


 イノシシのような頭部をもつ、二足歩行の亜人。誇り高きオークの戦士、ジャジャンを。


 冒険者ならいざ知らず、騎士であったローガンにとって、オーク種と戦うのはこれが初めてであった。


 侮っていた。


 オークという種を


 否

 目の前の誇り高き戦士の実力を。


 いくら身体能力が高かろうが、長年鍛え上げた技術で圧倒できると思っていた。


 事実、最初の数手では身体能力の高いジャジャンをローガンは圧倒することができた。


 彼は真の戦士だ。


 技術云々ではない。


 どんな絶望的な状況でもあきらめないハート、自分の持てるカードから最適な一手を導き出す応用力、そして勝利への貪欲さ。


 相手が真なる戦士ならば、こちらも本気を出さなくては例を失するというもの。


 そう考えたローガンは展開するは、彼の切り札。


"守護者の鎧"


 そう呼ばれる金色のオーラは、ローガンが生来持ち合わせているスキル。


 体より生じる金色のオーラは、物理攻撃・毒・魔法……ありとあらゆる攻撃を防御する。


 魔法を使えぬ、ただの騎士であったローガンが ”英雄” と呼ばれるようになったのは、このスキルの存在が大きい。


 かつて最強と呼ばれた竜王の攻撃ですら防ぎきった ”最硬のスキル”。


 ジャジャンの一撃がいかに強力であったとて、破れるものではないのだ。


「戦士ジャジャン……残念だが、このスキルを使った以上、私はこれ以上の苦戦は許されない。このスキルの前に散った数々の英雄たちの魂が、私に敗北を許しはしないのだ」


 そう言ってローガンは駆け出す。


 剣を握りしめ、一気に相手との距離を詰めると、それに反応したジャジャンの攻撃がカウンター気味に襲い掛かってくる。


 凄まじいスピードの一撃。


 早いだけで単調なその一撃は、ローガンの技術をもってすれば回避することは簡単だろう。


 しかし、ローガンは避けない。


 否

 避ける必要が無い。


 振り下ろされたこん棒の一撃は、ローガンを覆う金色のオーラに弾かれ、あっけなく撃墜する。


 攻撃を放った後の無防備なジャジャンの首元に、ローガンは悠々と剣を突き付けた。


「勝負あったかな?」


 ローガンの言葉に、戦士ジャジャンはがっくりと項垂れるのだった。



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