第29話 決闘
仮面の戦士へと距離を詰める最中、ジャジャンは握りしめたこん棒を地面にたたきつけ、そのまますくい上げるようにして前方に土を巻き上げる。
所謂目隠し……ただの小細工だ。
一気に距離を詰めると、ジャジャンは相手に向かってこん棒の一撃を加える。
目隠しの効果がなかったのか、それともこん棒の風切り音で攻撃を把握されたのかはわからないが、ジャジャンの一撃は華麗な体捌きで回避される。
しかし、それはジャジャンも予想していたこと。
日常的に狩りの獲物としているグレイトボアの頭蓋骨は固く、思い切りこん棒を振り下ろさないと仕留めることができない。
オーク種同士の争いでも、強靭な肉体を持つオークを仕留めるためには力強い一撃が必要だ。
しかし今の相手は人間種。
いかに戦闘技術にすぐれていようが、種族としての肉体の強さはたかがしれている。
オーク種の知能は存外高い。
ジャジャンは気が付いていた。
目の前の相手を仕留めるのに、全力でこん棒を振り下ろす必要などないのだと……。
ニヤリとジャジャンの口角がめくれ上がる。
先ほどの一撃は2割ほどの力しか込めていない。
威力は落ちるが、故に打ち込んだ後のジャジャンの体勢は全く崩れていなかった。
くるりと手首を裏返し、仮面の戦士に向けて下方向からこん棒を振り上げる。
完全なる手打ちの一撃。
しかし、それは当たってしまえば人間など一撃で仕留めてしまえる威力を秘めている。
少し驚いた表情を浮かべる仮面の戦士。
しかし彼は器用に再び襲い来るこん棒を回避した。
逃しはしない。
ジャジャンは一歩踏み込み、再び手首をくるりと返して、こん棒で仮面の戦士を追う。
体重を全く載せない、腕の筋力のみで行う攻撃だからこそ可能な連続攻撃。
人間種には不可能な、オーク種の身体能力を存分に活かしたその攻撃は、技術はつたないながらも、難攻不落な戦術であった。
いかに仮面の戦士が優れた技術をもっていようが、こうなってしまっては時間の問題である。
圧倒的な身体能力の差。
残酷なまでの ”筋力” による戦術は、徐々に仮面の戦士を追い詰めていく。
(とらえた!)
器用に立ち回っていた仮面の戦士が、やがてそのスピードに負けて体勢を崩す。
ジャジャンは勝ちを確信して、彼の頭部に向けてこん棒の一撃を放った。
余計な力はいらない。
最低限の力、最高速のスピードでの不可避の一撃。
周囲のオークたちもジャジャンの勝ちを確信して、騒ぎ出したその時だった。
柔らかな人間の頭蓋に叩き込んだはずのジャジャンのこん棒は、何か大きな岩をたたいたような硬質な感触を手に残して、あっけなく弾かれた。
呆然と目の前の戦士を見つめるジャジャン。
こん棒を握りしめた手には、強いしびれが残っていた。
よく見ると、戦士の周囲に何やら半透明な金色のオーラが漂っている。
仮面の戦士はゆっくりとため息をついてジャジャンを見つめた。
「”驚いた。まさかこの私が奥の手を使うことになるとは”」
◇
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