第28話 決闘

 鼓動がうるさいくらいに高鳴る。


 こん棒を握りつぶさんばかりに万力をこめて握る。


 右足を地面にたたきつけ、ジャジャンは咆哮した。


 相手を威嚇し、自らを鼓舞する戦士の咆哮が大気をビリビリと震わせる。


 対する仮面の戦士は、そんな咆哮など意に介さないとばかりに動かず、仮面の奥から覗く冷徹な瞳でジャジャンを観察している。


 先に動いたのはジャジャン。


 こん棒を大きく振り上げ、力いっぱい大地を蹴って駆け出す。


 野生の肉食獣を思わせる俊敏性。


 相手の頭部へめがけて振り下ろされたこん棒の一撃は、まさに必殺。


 こん棒は木を荒く削ったたけの粗末な武器だが、オーク種の怪力を活かすという点においてはかなり有効的な武器である。


 振り下ろされた必殺の一撃。


 しかしその攻撃は、仮面の戦士が半歩右に体勢をずらしたことにより、宙を切る結果となった。


 勢いよく空振りするジャジャンに対し、仮面の戦士はすれ違うようにしてジャジャンの体を鋭く切りつけた。


 左胸から右わき腹にかけて切りさかれた。ジャジャンは苦痛に顔をゆがめながらも振り返る。


 すでに仮面の戦士は間合いの外におり、余裕の態度で剣を構えていた。


 傷の様子をたしかめる。


 大きく切られているが、内臓までは届いていないようだった。


 オークの毛皮や筋肉は分厚く、ちょっとやそっとの切り傷では致命傷にいたらない。


「”剣術というやつか、人間の戦士よ”」


 ジャジャンの問いに、仮面の戦士は答える。


「”いかにも。戦士ジャジャン。今の動きでわかったが、残念ながら君では私の相手にならないだろう。いくら身体能力が優れていようが、動きに理がなさすぎる”」


「”ふんっ……まだ判断するのは早いと思うがな”」


 ジャジャンは相手の挑発を受け流し、こん棒を構える。


 ”剣術”


 狩猟を生業とするオークにとって縁の無い技術体系。


 人間種は、同種族内での争いが絶えない種族の間で生まれた、”知能が高い、武器を扱う種族を殺すための技術”だという。


 先ほどの仮面の戦士の動き。


 スピードそのものはジャジャンの方が早い筈なのに、全く対応できなかった。


 しかし逆に、先ほどのやり取りで、スピードやパワーではジャジャンが圧倒しているという事実も確認できている。


 ジャジャンはニヤリと笑うと、こん棒を握りしめ再び駆け出した。

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