第23話 武具

 エミーリアとローガンは、カースから譲り受けた2頭の馬に乗って村を出立する。


 行先は貿易都市のカルム。


 本来ならそのままオークの居住エリアへと向かう予定だったのだが、ローガンがエミーリアに装備を整えさせてくれと頼んだのだ。


 ローガンはチラリと腰のロングソードを確認する。


 鋳型に鉄を流し込み、申し訳程度に研いだだけの一山いくらの安物。丁寧に手入れをしてはいるものの、すでに刃は欠け刀身は黒くくすんでいる。


 人が相手なら問題ない。


 どんな鈍らだろうが、最悪刃がつぶれていようが鉄の塊を頭にたたきつければ人は死ぬのだから……。


 だが相手が亜人となればその限りではない。


 例えば今から一戦交えるであろうオーク。彼らは人型のフォルムはしているが、その本日は野生の獣に近い。


 その分厚い毛皮と強靭な筋肉は、生半可な刃など通さないだろう。


 名剣とは言わずとも、それなりに強力な装備が必要だ。刃の欠けたなまくらでは、勝負の舞台にさえ立てはしない。


 ふと、かつての宝剣が懐かしくなった。今も居城で飾られているローガンの相棒。国王から賜った騎士の中の騎士である証。竜王を弑す竜殺しの剣……。


 ……今はまだ早い。


 ローガンは首を横に振る。


 あの宝剣は目立ちすぎる。それこそ、ローガンの顔は知らなくても、あの剣を知るものは多い。


 手勢もそろわぬこの段階で、下手に注目を集めるわけにはいかないのだ。


 ローガンは高ぶる感情を押さえつけ、馬を走らせるのだった。






 カムルに舞い戻った二人は、迷うことなく武器屋に向かう。


 カムルは大きな都市だ。ゆえに武器屋はいくつかあるのだが、ローガンはその中でも長年続いてる老舗の武器屋……まだ現役だったころに通っていた武器屋に向かうことにした。


 ローガンが現役だったころの店主は流石に引退しているだろうが、老舗の技というものは信頼できる。そう考えたのだ。


 その武器屋は中心街から少し離れた場所に立っている。見たところ、まだ営業はしているようだが、客が入っている様子は見えなかった。


 ローガンは昔を懐かしみながら、武器屋の古びた扉を押し開ける。


 フワリと鼻孔をくすぐる鉄と炭の香り。ぐるりと店内を見回す。几帳面に陳列された武具の数々。古くはあるが、店内は丁寧に掃除がされているようだ。


「らっしゃい。客とは珍しいな」


 店の奥から老人(この店の店主であろう)がやってきた。顔には深くシワが刻まれているが、袖の無い服から除くたくましい上腕が、彼が未だに現役の鍛冶職人であることを知らしめる。


「驚いた……おぬし、まだ現役であったか」


 ローガンの言葉に不審げに眉を潜める店主。


 ジロジロとローガンを品定めするように頭から足先まで見つめ、やがてあんぐりと口を大きくあけた。


「”竜殺し” お前なのか!?」


 ローガンは神妙な顔でうなずいた。

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