第20話 信用



 今後の動きなど、難しい話は明日にするということで、今日は村に泊まる事にしたローガンとエミーリア。


 一軒の空き屋を譲り受けると、エミーリアは食事もとらずに「もう寝るわ」と言い残して空き家の中に入っていった。


 今日は激動の日だ。きっと疲れもあるのだろう。ローガンは無言で頭を下げると、エミーリアが空き家に入っていくのを見送る。


 やがて夜が訪れた。


 村長のカースは村の中央に村人を集めて、エミーリアの傘下に下った事を説明している。ローガンはいくらかの反発が起こると想定していたが、驚いたことに反対の意を唱えるものは現れなかった。


 それだけ村長であるカースの判断を信頼しているということだろう。


 それから、村人たちは新しい門出の景気づけとばかりに宴を始めた。広間の中心で大きなたき火をおこし、家畜を捌いて丸焼きにする。それを囲んだ村人たちは、酒をのみ肉を喰らい大いに楽しんでいる。


 楽しげな宴を横目に、ローガンはエミーリアが休む小屋の入り口前にどっかりと座りこみ、酒精の弱い葡萄酒の瓶を片手に周囲に目を光らせていた。


 じっとしていると、夜風が冷たくジワジワと体を蝕んでいく。酒瓶をちびちびと煽り、酔わない程度に体を温める。ローガンの左手はソッとロングソードの柄に添えられていた。


「君は宴には加わらないのかい?」


 そんなローガンの元にやってきたのは、魔法使い ”漆黒のダナン”。少し酒を飲んできたのか、彼の青白い顔は仄かに赤みが差していた。


「我が主が休んでいるのだ。護衛をするのは当たり前だろう?」


「そうかい……まあ、今日出会ったばかりの我々を信用する方が無茶な話だね」


 そう言うと、ダナンは自然な動作でローガンの隣に腰掛けた。


 しばらく無言の時間が続く。楽しそうな宴の声が少し遠くから聞こえてきた。やがてダナンが小さな声で語り出す。


「良い奴らだよ、ここの住人は」


「ふん……そうは思えんな。どんな理由があろうと、野党で生計を立てているような連中が ”良い奴”な筈がないだろう」


 ダナンは肩をすくめる。


「一般的にはそうかもね。だけど、少なくとも居場所の無い僕を受け入れてくれたのはここの村だけだった……それが僕の力を利用しようという打算によるものだとしても、僕にとって彼らは ”良い奴”ら何だよ」


「何がいいたいかわからんな」


 ダナンは立ち上がってゆっくり伸びをした。


「そんな気張ること無いということだよ。先は長いんだ、今からそんな調子じゃどこかで倒れてしまう」


「……ご忠告感謝しよう」


「あぁ、そいういえば君の名前を聞いていなかったね。何と呼べば良い?」


「……ローガンだ」


「そうか、ローガン。同じ主人に仕えるもの通し、これからよろしく頼むよ」


 そう言ってダナンは村人たちの宴へと戻っていった。


 ローガンは独り、彼の背中を鋭い視線で見送りながら、手元の葡萄酒をチビリと口に含む。


 先は長い。


 確かにその通りだ。


 だが、彼の言うことを100%受け入れるほど、ローガンは若くはないのだ。


 空を見上げる。


 漆黒の夜闇に、キラキラと星が輝いていた。




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