第15話 農村
燦燦と降り注ぐ陽光。
今日は天気が良い。
穏やかであたたかな陽の光を全身に浴びながら、ローガンとエミーリアはどうどうと村に入り込んだ。
辺境の村だ。
外からやってくる人間が珍しいのか、村人たちは村に入ってきた二人を見てキョトンと呆けた顔をしていた。
そんな視線は意に介さないとばかりに、ずんずんと村の奥地に進んでいくエミーリアに、ローガンは周辺を警戒しながら追従する。
武装していることがわからないように、革鎧の上からは少し大き目なローブを羽織ってはいるものの、漆黒の仮面をつけた老人と深くフードを被った少女の組み合わせはどうにも奇妙で、目立っている。
やがて二人の目の前に一人の男が立ちふさがった。
中肉中背。優し気な顔をしたどこにでもいるような中年男性……。
しかしローガンは見抜いていた。
こちらに歩み寄ってきたときの歩法。ぶれない重心。彼は訓練された兵士だ。
ローガンはローブの中で静かに剣の柄に手をかける。
そんなローガンに気づかぬまま、男は二人に向かって話しかけた。
「旅の人ですか? すいません、見ての通りここは貧しい村です。大したものはありませんし、おもてなしもできないのですが……」
少し困ったようにそう言う男に、エミーリアは話を遮るように問う。
「”漆黒のダナン”はここにいるのかしら?」
”漆黒のダナン”
その名前を出した瞬間、弛緩していた村の空気がピリリと引き締まったのを感じる。
目の前の男だけではない。遠巻きに見ていた村人たちすべての鋭い視線が二人に突き刺さる。
どうやら当たりらしい。
男は鋭い目線でエミーリアをにらみつけながら、言葉を選ぶようにゆっくりと返答する。
「”漆黒のダナン”? 知らない名前ですね……この村にそんな人はいませんお引き取りを」
「ふふ……へたくそね。殺気が漏れてるわよ?」
次の瞬間、男が動いた。
どこかに隠し持っていた暗器(手のひらに納まるほどの小さな刃)を右手に持ち、素早い動きでエミーリアを飛び越え、ローガンに切りかかる。
体の小さなエミーリアは脅威ではないと判断したのだろうか?
どちらにせよ、そこはローガンの間合いだった。
ローブの中で握りしめていたロングソードを抜き、半歩斜め前に踏み込んで男の奇襲を回避しながら、コンパクトに剣を振りぬいた。
男とすれ違うようにその体を切りつけて、背後で倒れる男を見もせずに周囲を警戒する。
案の定、今まで畑を耕していた農民たちが、思い思いの凶器をもって二人を囲んでいる。
争いはやはり避けられないかとロングソードを構えたその時、腹の底に響くようながなりごえが聞こえた。
「そこまでだ!お前らがかなうような相手じゃねえよ……生き延びたけりゃ相手の実力くらい察しな」
その言葉で、農民たちは武装を解除する。
村の奥からゆっくりとやってきたのは、立派な髭を蓄えた見上げるほどの大男だった。
「俺はこの村の長をやっているカースってもんだ……アンタら、ダナンの旦那に用があるのかい?」
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