第11話 道化の仮面



「意外と似合ってるじゃない。騎士って感じじゃなくなったけど」


 からかうように言ったエミーリアの目線の先には、先ほど露店で購入した木彫りの仮面をつけているローガンの姿。


 荒く削られた木彫りの仮面は、赤と白という派手なペンキで塗りたくられ、ローガンの顔の上半分を覆い隠している。


 正直、かなり目立っている。こんな派手な仮面を武装した壮年の男がつけているなんて、滑稽もいいところだ。


 しかし、目立たない仮面をと思っても、そもそも仮面を売っている店なんてほとんど無かった。


 ローガンはやれやれと肩をすくめてぼやく。


「道化師になった気分です。黒のペンキを買って塗りなおした方がよさそうですな」


「そうかしら? 意外とその色も似合っているわよ」


「お戯れを……」


 くすくすと一通りローガンを笑ったのち、エミーリアは真剣な顔をしてローガンを見上げた。


「我が騎士。昨夜のことだけど……」


 昨夜。


 ローガンは宿屋の一室で、恐怖に震えるエミーリアの姿を思い出す。


「あれも……アタシ。貴方にだけは偽らない……あれもアタシなの。毎日、毎夜……恐怖で震えてるちっぽけな存在よ」


 エミーリアは、昨夜のことをごまかしたりはしなかった。


 澄んだ深紅の双眼が、まっすぐにローガンの目を見つめる。


「幻滅したかしら?」


 幻滅なんてするはずが無い。


 むしろローガンは感動したのだ。


 恐怖に震えながら、それでもなお涙にぬれた眼で未来を見据えるその姿を、美しいと感じていた。


「ふふ……それは言葉で語るようなものでもないでしょう。騎士ローガン、我が忠義は武働きにて返答とさせていただきます」


「そう……野暮な質問だったわね。忘れて頂戴。それはそうとして、今私たちはどこに向かっているの?」


 ローガンは街中を迷いなく進んでいる。どうやら仮面を買う以外にも明確な目的がありそうだ。


「そうですな……とりあえず馬車を買いましょうか」


「馬車?」


「ええ、馬車です」


「仲間を集めるために馬車が必要なの?」


「必要ですとも、少々面倒ですが……」


 ローガンはちらりとエミーリアを見て、微笑んだ。


「我が主、釣りはお好きですかな?」





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