第11話 道化の仮面
◇
「意外と似合ってるじゃない。騎士って感じじゃなくなったけど」
からかうように言ったエミーリアの目線の先には、先ほど露店で購入した木彫りの仮面をつけているローガンの姿。
荒く削られた木彫りの仮面は、赤と白という派手なペンキで塗りたくられ、ローガンの顔の上半分を覆い隠している。
正直、かなり目立っている。こんな派手な仮面を武装した壮年の男がつけているなんて、滑稽もいいところだ。
しかし、目立たない仮面をと思っても、そもそも仮面を売っている店なんてほとんど無かった。
ローガンはやれやれと肩をすくめてぼやく。
「道化師になった気分です。黒のペンキを買って塗りなおした方がよさそうですな」
「そうかしら? 意外とその色も似合っているわよ」
「お戯れを……」
くすくすと一通りローガンを笑ったのち、エミーリアは真剣な顔をしてローガンを見上げた。
「我が騎士。昨夜のことだけど……」
昨夜。
ローガンは宿屋の一室で、恐怖に震えるエミーリアの姿を思い出す。
「あれも……アタシ。貴方にだけは偽らない……あれもアタシなの。毎日、毎夜……恐怖で震えてるちっぽけな存在よ」
エミーリアは、昨夜のことをごまかしたりはしなかった。
澄んだ深紅の双眼が、まっすぐにローガンの目を見つめる。
「幻滅したかしら?」
幻滅なんてするはずが無い。
むしろローガンは感動したのだ。
恐怖に震えながら、それでもなお涙にぬれた眼で未来を見据えるその姿を、美しいと感じていた。
「ふふ……それは言葉で語るようなものでもないでしょう。騎士ローガン、我が忠義は武働きにて返答とさせていただきます」
「そう……野暮な質問だったわね。忘れて頂戴。それはそうとして、今私たちはどこに向かっているの?」
ローガンは街中を迷いなく進んでいる。どうやら仮面を買う以外にも明確な目的がありそうだ。
「そうですな……とりあえず馬車を買いましょうか」
「馬車?」
「ええ、馬車です」
「仲間を集めるために馬車が必要なの?」
「必要ですとも、少々面倒ですが……」
ローガンはちらりとエミーリアを見て、微笑んだ。
「我が主、釣りはお好きですかな?」
◇
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