第12話 獲物
◇
その集団は夜の闇に紛れ、狩りを行う野生の獣のごとく気配を消していた。
凍えるほど寒い外気を物ともせず、口から白い息すら吐き出さない(気配を殺す、暗殺者の技術を皆会得しているのだ)。
物音一つ立てず、しかし迅速な動きで集団は夜の闇を移動する。
やがて先頭の男が立ち止まり、後続たちにハンドサインで合図をする。
視線の先にはパチパチと楽しげな音を立てている焚き火と、その隣に停車している一台の中型馬車。
見張りの護衛は二人。馬車の持ち主は馬車の中で寝ているのだろう。姿は見えない。
馬車を持っているなんて金を持っていると言っていることと同義だ。たとえ貸馬車であろうと、普通に馬を購入した方が安くつく。
闇に紛れた集団はハンドサインで互いに連携をとりながら、一切の音を立てずに木の陰を移動し馬車の周辺を囲む。
誰も逃げられないよう、万全を期すのだ。
包囲が完了した瞬間、流れるような動きでソレは始まった。
二人の男が護衛たちの背後に音もなく近寄ると、背後から口をふさぎ、一息にナイフで喉を掻き切る。
声を発することもなく呆気なく崩れ落ちる護衛たちを横にどかしている間に、他のメンバーはすばやく馬を始末する。
万に一つの可能性すら残さない。彼らは徹底した ”プロ” であった。
護衛の血が付着したナイフを布切れで拭いながら、男は音もなく馬車へと近寄る。
どうやら鍵のたぐいはかけられていないらしく、押した扉はなんの抵抗もなく開かれる。
焚き火の光で外が照らされているせいで、対象的に馬車の中は暗く、よく見えない。
男が馬車の中に入ろうとしたその瞬間、中から突き出された鋭い刃が男の喉を貫いた。
鮮血を吹き出して倒れる同胞を目にして、男たちは異常事態を察し臨戦態勢に入る。
男たちの視線が集中するなか、馬車の中から出てきたのは漆黒の仮面をつけた一人の老人だった。
「ふむ……釣りは成功かな?」
仮面の老人は武装した集団に囲まれていることなんてなんの問題もないとばかりに自然な動作で周囲を見回し、手にしたロングソードを構えた。
「二人ほど生かしてやる……死にたくないやつは名乗り出るといい」
◇
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